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138.義弟、馬鹿にされた兄のために戦う



 転生勇者ユリウスが、100層目の宝を回収した、一方その頃。


 彼の義弟ミカエルもまた、鉄の城内部にて、宝を集めていた。


 天使の6枚の翼を広げ、高速で飛翔していたそのときだ。


「!」


 何者かの攻撃を受けて、ミカエルは吹っ飛ぶ。

 ドアをぶち破り、部屋の中に入る。


「ありゃ、起きてるンすか。完璧に入ったと思ったんすけどね」


 そこにいたのは、神聖皇国の1年生アルトだった。


「いきなりなにするです?」

「何って、お宝を奪いに」


 部屋の中で対峙するミカエルとアルト。


 義弟はすかさず、キャプテンたるガイアスに通信を入れる。


 だが……。


「無駄っすよ。おいらの魔法で、通信を妨害してるんすから」


 パリパリ……とアルトの周囲に、微弱な電流が走る。


「それやめるです」

「味方に連絡取られるとまずいっすからね。特に、ユリウスくんに指示を仰がれたら大変だ」


 ぴくっ、とミカエルが反応を示す。


「キャプテンは、がいあすです?」


「ユリウスくんの影に隠れてる、ザコっしょ?」

 

 はんっ、とアルトは鼻で笑う。


「1回戦ったことあるっすけど、おいらの雷速に手も足も出てなかったすね~」


 対校戦前、敵情視察した際に、ガイアスはアルトと戦っている。

 その際にガイアスは完敗した……とうかがっている。


「…………」

 

 ぎゅっ、とミカエルが拳を握りしめる。

 彼は静かに闘志をを高ぶらせているのだが……アルトは気づいていない。


「宝欲しーです? なら、やってみろや、です」


 素手のミカエルが、腰を落として構えを取る。


 にんまりと笑うと、アルトもまた戦闘態勢を取る。


「でもおいら知ってるっすよ。あんたの弱点……!」


 バリッ……! とアルトが消える。

 彼に与えられしチート能力は、自身を雷に変える能力だ。


 文字通り電光石火の早業で、ミカエルの背後に蹴りを加える。


「くっ……!」

「あんた一撃は強いけど、こういう速度で攻めてくる敵には弱い、しかもお得意の火力もこの狭い部屋では発揮されない!」


 超高速で動きながら、アルトはミカエルの体にダメージを与える。


 アルトの弱点は膂力不足だ。

 それを雷の速度と圧倒的な手数で補っている。


「あははっ! 防戦一方じゃあないっすか!」


 ミカエルから離れたところに、アルトが浮かぶ。


「そんな弱い一撃、ウケたところで問題ないです」


「へぇ、言うじゃん。ならこれはどーっすか!」


 アルトは右人差し指を立てて、ミカエルに突き出す。


 超高圧の電流が、ミカエルの体に直撃する。

 雷鳴がとどろくと、義弟はその場に崩れた。


「なーんだ、弱いっすねあんた~」


 ふぅ、とアルトがため息をつく。


「やっぱ思った通りっす。王立は、ユリウスくんだけが強い、ワンマンチームっすね~」


 アルトは余裕の表情を浮かべながら、倒れ伏すミカエルに近づく。


「カズマせんぱいは王立の全員を評価みたいっすけど、おいらはそーは思わんす。特にあのガイアスはね、最悪」


 んべ、とアルトがベロを出していう。


「ただのザコのくせに、ユリウスくんの弟ってだけで評価されてるんす。ムカつくんすよ、自分で努力せず、虎の威を借りてるだけの弱者がね」


 アルトはミカエルのそばまでやってきた。

「君もそーおもわないっすか? そーいや、君もガイアスのこと好きじゃなかったすね~」


 ミカエルは……答えない。

 倒れ伏した状態で、微動だにしない。


「なんだ、気絶してるんすか。こりゃあんたの評価もたださないとっすね。あのガイアスがチーム最弱かと思ってたんすけど、あんたもなかなかに弱いっすね」


 うつぶせに倒れているミカエル。

 アルトはしゃがみ込んで言う。


「そんじゃ首飾りもらうっすよ」


 くる、と、ミカエルをひっくり返す。


「なっ!? なんすかこれ!?」


 ミカエルだと思っていたそれは、顔のない【人形】だった。


デコイ!?」

「今更気づいたです?」


 バッ……! とアルトが振り返る。

 すぐ目の前にミカエルがいて、振り上げた拳を、超高速でたたき込んだ。


「ぶげぇええええええええええ!」


 アルトは高速で吹っ飛ぶと、神意鉄オリハルコンの壁にドガンッ……! と埋まる。


「ば、バカな……どうなってるんすか……いつの間に……!」


 ミカエルは天使の翼を広げて宙に立つ。


「お前が得意がってボコボコにしてくる前からです。こっそり幻術をかけてたです」


「なっ!? そんなバカな!? 実体のある幻術を使ったんすか!? 技量のないおまえが!?」


 ミカエルの評価は、パワーはあれど細かい力の制御が苦手。


「そう思われてるって、がいあすが言ってたです。だからこそ、裏をかけば出し抜けるって言って、練習したです」


「練習……だと?」


 こくり、とミカエルはうなずく。


「がいあすは、対校戦始まる前から、毎晩遅くまで色々考えてたです。練習方法、相手の攻略法、たくさんたくさん考えてたです。……チームのために」


 ミカエルはずっと見てきたのだ。

 ユリウス=フォン=カーライルという、偉大な兄の背中を、必死に追いかけるガイアスの姿を。


 そして、チーム全員の勝利のために、必死で努力してきた、もう一人の兄のことを。


「ぼくの【お兄ちゃん】を、ばかにするな!」


 アルトは壁から離れると、同じく宙に浮かぶ。


「な、なるほど……たしかにやるよーっすね。けど! 忘れたんすか!」


 バリッ……! とアルトは雷となって消える。


 ミカエルの周囲を、雷となって四方八方を飛び回る。


「きみはおいらの速度についていけてなかったすよ!」


 アルトは翻弄した後、背後からの蹴りを食らわせようとする。


 パシッ……!


「なっ!? そんなばかなっす! 受け止めただと!?」


「【アルトは雷になる力を持つ。視認することは不可能。けどやつは必ず背後から攻撃を加えてくる。攻撃する場所がわかれば、受け止めるのは容易い】……です」


 ミカエルはアルトの足を手で受け止めている。


「って、言ってたです。おまえが、弱いとあなどったがいあすが……です!」


 ミカエルは空いてる手をアルトに向ける。

【天の矛】、天使の使うレーザーをゼロ距離で照射。


「うぎゅあぁあああああああああ!」


 ジュッ……! とアルトの体を天使の光が包み込む。


 寸前で雷となって攻撃を回避した。


「ぜぇ……! はぁ……! く、クソ……!」


「【膂力と頑丈さに難ありだから、攻撃を防がれたら距離を取る】です!」


 ミカエルがアルトの背後に、先回りをしていた。

 両手を組んでハンマーを作り、地面に思い切りたたきつける。


 ズガンッ……! と巨大な音ともに、アルトが神意鉄の床を突き破って堕ちていく。

 何層もの床をぶち破って、鉄の城の外へと追いやられる。


 なんとかふんばって、アルトは空中で留まる。


「ぜぇ……!はぁ……! な、なんすか!? 聞いてないっすよ! あんたはパワーが取り柄のキャラで、細かな制御や頭を使った戦術は苦手なんじゃなかったすか!?」


 ミカエルがすぅ……と降りてくる。


「いつの話してるです? みんな日々進化してるです」


 彼は目を閉じていう。


「おまえは、少し前のぼくと同じです。人間は愚かで、いつまで経っても進歩しない、怠惰な生き物だって、見下してた……ぼくも同じです」


 ミカエルは天使であり、人間の思考を持っていなかった。


 けれど、兄たちや学校の友達とふれあううちに、考えを改めたのだ。


「他人を見下すの、よくないです。それ、なーんにも意味ないです」


「うるさい……! 偉そうに説教垂れるな! おいらより年下のくせに!」


 バッ……とアルトは手を広げる。


「こうなったら奥の手っす! 【霊装展開】!」


 彼の持つ【雷神将インドラ】の力が、体に纏う。


 ばりばりばり、と彼の体は常に帯電している。


「どーすか!? おいらは雷の神へと進化したっす! そのスピードも! 破壊力も! 桁外れっすよ!」


 迅雷となりて、ミカエルに特攻をかける。


「これで終わりっす!」


 だがミカエルは冷静だった。

 目を閉じて、両手を広げる。


「戦うことを諦めたんすかぁ!?」


 アルトが突進してくる。

 だがそれを、ふわり、と避けて見せた。


「なっ!? くっ、くそぉっ!」


 何度もアルトはミカエルに攻撃を加えようとする。


 だが義弟は目を閉じた状態で、ふわりふわり、と柔らかく動き、敵の攻撃を全て躱す。


「なんでっすか!? どうして当たらないんすかぁあああああああああ!? 雷は見えてないんでしょぉおおおお!?」


 最大出力でアルトが突っ込んでくる。

 

 だがミカエルがそれを回避し、至近距離から天の矛を食らわせる。


「どーん!」


 直撃を食らったアルトは、さらに下へと落ちていく。


 どごぉん! と轟音とともに、アルトはグラウンドへと落下した。


『アルト選手、場外でぇす。よって脱落となりまぁす』


 ふわり、とアルトの頭上にミカエルが立つ。


「どうして……負けたんすか、おいら?」


「敵の姿は見えてなかったです。だから、感情を、敵意を読んだ、です」


「……そんなこと、おまえ、いつの間にできるようになったんすか?」


 前は強大な力を、力任せに振り回しているだけだった。


 そんなテクニックを身につけるような選手じゃない思っていたのに、だ。


「あにうえに技術を習い、おまえの攻略法はがいあすに習ったです」


 ガイアスは、アルトに敗北したときに言った。


 見たぞ、と。

 彼は敗北から学ぶタイプの人間だ。


 勝ち方もすでに自分の中で作り上げており、それを義弟に伝授していたのである。


「ぼくだって、がいあすと一緒です。あにうえの背中を、一緒に追いかける……強敵ともです」


 フッ……とアルトが弱々しく笑う。


「なるほど、あなどったおいらが負けだったってわけっすか。ミカエルくん」


「なんです?」


「ガイアスくんに、謝っといてっす。あんたの勝ちだって」


 ミカエルは勝ち誇った笑みを浮かべていう。


「しょーがないです、言っておいてやるです」


 ミカエルはアルトのペンダントを奪い取ると、空中へと戻っていったのだった。

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別で連載中の「不遇職【鑑定士】が実は最強だった」の書籍版が発売されました!


落ちこぼれの兄が好きな方ならご満足いただける内容となってますので、よろしければぜひお手に取ってくださると幸いです!


【作品URL】

https://ncode.syosetu.com/n5242fx/


「不遇職【鑑定士】が実は最強だった〜奈落で鍛えた最強の【神眼】で無双する〜」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミカエルの成長ぶり 痺れた [一言] >「ぼくだって、がいあすと一緒です。あにうえの背中を、一緒に追いかける……強敵です」 最高の激アツなセリフじゃないですか…尊い…
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