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124.勇者、みんなと昼ご飯を食べる



 対校戦2日目、トライアスロンを終えた俺たち。


 長距離飛行の競技に参加していた選手は、転移魔法陣に乗って、闘技場へと戻ってきた。


「あにうえー! おかえりですー!」


 一足先に戻っていた、王立のメンバー達が、俺たちの元へやってくる。


「兄さん、さっきの試合、すごかった……よ……って、え?」


 ガイアスが俺……じゃなくて、俺の隣の人物を見て、目を丸くする。

 

「あ。あにうえがまた知らない女をつれてきたですー」


「またって何だ。彼女に失礼だろ」


 隣を見やると、そこにいたのは、背の高いえらい美人だ。


 真っ白な肌に、艶やかな黒髪は腰のあたりで切ってある。


 胸の膨らみはエリーゼ並みに大きく、腰はきゅっと引き締まり、手足はほっそりと長い。


「……兄さん、誰その女?」

「お、がいあすがまたジェラシーってるです? 正妻気取りです?」


 ガイアスが義弟をヘッドロックしながら、隣の美女を見やる。


「誰も何も、おいおいダンタリオンだろ?」


「「「え~~~~~~!?」」」


 王立のメンバーが、全員驚愕の表情を浮かべる。


「マジかっ! 姐さんそんな美人だったの!?」


 東部連邦の選手達(ヒストリア除く)もまた、驚いている様子だった。


「そんなにじろじろ見ないでください……恥ずかしい、です」


 頬を赤く染めて、ダンタリオンが俺の後ろに隠れる。


「あんま見てやるなって」

「で、でも……ダンタリオン、いつ髪きったの?」


 ガイアスの問いかけに、彼女が恥ずかしそうに答える。


「ついさっき……です。ユリウス様に、切ってもらいました」


「わぁ! ユリウスくん散髪までできるんだ! 髪型、とても似合ってるよ!」


「ほんまさすがやで、ユリウスはん万能すぎて、こわいわー」


 女子チームがダンタリオンを囲って、きゃっきゃと黄色い声を上げる。


「ふーん……兄さんが切ったんだ。ふーん……なんで?」


「お、鞘当てがはじまったです。女同士の男の取り合いです?」


 ガイアスはミカエルの額をアイアンクローしながら聞いてくる。


「いや短い方が似合うかなって。美人なのに前髪で顔隠すのはもったいないだろ?」


「ふーん……へぇ……そうやってまた無自覚に、無節操に、無遠慮に、女を手に入れていくんだね!」


 弟が不機嫌そうに言う。


「お前何怒ってるの?」

「怒ってない!」


 そこへダンタリオンが、すすっとやってくる。


「ガイアス様……ご安心ください」

「は? 何いきなり?」


 彼女は頬を染めながら、訳知り顔で言う。

「お二人の仲を引き裂くつもりは……毛頭ございませんゆえ」

「ちょっと!? なに誤解しているの!?」


「わたくしは……第二夫人で全然構いません。いえ……むしろおふたりの愛する姿を見守る……観葉植物とでも思ってくだされば……」


「一体全体何の話をしてるのかさっぱりわからないよ!」

 

 そんなふうに和やかに話していると、理事長がアナウンスを流す。


『午前中の試合はこれで終了でぇす。各自お昼ご飯を食べてからぁ、午後の試合を行いまぁす。それでは、いったんお昼休憩でぇす』


 とのことで、俺たちはお昼にすることにした。


 ややあって。


 俺たちは闘技場の外、自然公園へとやってきた。


 レジャーシートを敷いて、作ってきた弁当を広げる。


「「「「おー!」」」」


 王立のメンバーが歓声を上げる。


「わーい! あにうえの弁当ちょーごーか! めちゃくちゃおいしそー!」


 義弟がワサワサ、と天使の翼を動かして言う。


 シートの上には、重箱がいくつも乗っている。


 中にはおにぎりやサンドイッチだけでなく、唐揚げやらのおかず、味噌汁の入っている魔法瓶もある。


「ちょっと作り過ぎちゃったな」


「兄さん……こんなの作る時間あったの?」


「え、時間停止させてパパッと作ったけど?」


「「「あー……」」」

「いやいやいやいや! その理屈はおかしいよ! 何を納得しているんだね君たちぃ!」


 シートの上には、王立以外のメンバーも座っている。


 帝国や東部連邦、そして神聖皇国の生徒達も同じ場にいた。

 

「なに、アンチ。何か兄さん変なこと言った?」

「時間が停止とかなんとかって!」


「え、別に普通でしょ?」

「おぃいいいい! 君は常識枠じゃなかったのかねぇえええええええ!?」


「がいあす海凍らせてたです? 常識人です?」

「ああしまった化け物カテゴリーだったぁあああああああ!」


 ぐわんぐわん、とアンチが頭を揺らす。


「これは美味そうだ! しかしユリウスくん! おれたちも一緒に食べて良いのかい!」


 皇国の主将カズマが、俺に尋ねてくる。


「もちろん。みんなで食べようぜ」

「腐腐腐……みんなで食べようぜ……腐腐腐腐腐……♡ 」


「何の想像をしているのかね君ぃいいいいいい!」


「乱交パ」「それ以上はイケナイよ君ぃいいいいい!」


 ややあって。

 俺たちはみんなで昼ご飯を食べることになった。


「美味い! 美味い! 美味ぁい!」


 カズマはおにぎりを凄まじい早さで食べていく。


「カズマせんぱい何食っても美味いっていうんすから」

「いや! これは別格だぞアルト! おれが食ってきたなかで一番うまい!」


「えー……まじっすか? じゃあちょっと一口」


 皇国の1年、アルトがおにぎりを口にする。


「う、うめえぇ! なんすかこれ超うめー!」


 他の生徒達も、おのおの料理をつまんで、表情を輝かせる。


「やっべめっちゃうめーじゃん! おいおいユリウスおめー料理まで最強なのかよ死角なしかよ~!」


 バシバシッ、と東部のザガンが俺の背中をたたく。


 東部の人たちは仮面をずらして食べている。


「あもん、あにうえのお料理うまいです?」

「…………」こくこく。


「でしょー! あにうえすげーです! すげーでしょー!」

「…………」こくこく。


 女子チームはダンタリオンを囲っていた。

「そない美人さんなのに、どーして顔隠しとったん?」


「顔目当てに近づいてくるひと……わたくしの正体を知った後……みなさん気味悪がって逃げていくので。なら……最初からこうしておけば……」


「そっかぁ。傷付く前に近寄らせないようにしていたんだね」


「! わかるのですか……エリーゼ様」


「わたしも昔そうだったから。うん、友達になろうよ! 様なんてつけないで!」


「じゃうちも友だちなー」


 ダンタリオンはクスン、と涙ぐむ。


「ユリウス様……ありがとうございます」

「え、どうしたいきなり?」


「綺麗にしてくれただけでなく、こうして友達と引き合わせてくださりました。本当に……あなた様は素晴らしいお人です」

「まあ良かったな、友達できて」


 ダンタリオンが風邪引いたみたいに、潤んだ目で俺を見つめてくる。


「ま、まさかダンタリオンちゃん……あなたも?」

「ええ……お慕いしております。もしかして……」

「おー、ええやん。大歓迎やで。うちらみんなユリウスはん大好きやからなー。なあガイアス?」


 俺の隣に座っていたガイアスが、そっぽを向く。


「知らない」

「見てみ~。とか言いながらユリウスはんの隣にいっつも座るんやであいつ。独占欲の強い嫁さんやん」


「誰が嫁だよ!」

「「「「え、違うの?」」」」

「ちがうよ!!!!!」


 他校の選手達が、それぞれ食事をしながら、和やかに会話している。


「あんちはすげーです。このメンツでよく生きてるです?」


 義弟がアンチに近づいて言う。


「そんなの僕が一番不思議に思ってるよ。なんで五体満足なんだろうね僕……」


「きっとあにうえに愛されてるからです! あにうえの加護を得たひと、だいたい成功を治めてるです!」


 うんうん、とガイアスやエリーゼ達がうなずく。


「なんだいそりゃ、ユリウスは神か何かね?」


「え、神の姿にはなれるぞ? 俺だけじゃなくてここの大半は」


「みんな耳を塞ぎ給え! 食事を楽しむんだ!」

「「「「はい、アンチさま!」」」」


 帝国は帝国で、アンチを中心によくまとまっている。


 彼は弱いものの戦い方をよく心得ている。

 だから無理に他のメンバー達に戦わせない。

 ギブアップも普通にさせる。


 それでも最低順位を取らないのだから、それだけ彼の戦略(誰をどの競技に出すのか)がすごいってことだろう。


「やっぱすげえやつだな、アンチは」

「うむ! さすが次期帝国を背負う男!」


「そ、そうかい~? まぁーねっ、なんといっても誇り高き皇帝の息子だからね僕はっ!」


「面白驚き要員じゃなかったです?」

「失礼だよ、ミカ」


 そんなふうに、昼食の時間が穏やかに流れていく。


 みんなひとしきりご飯を食べ終えて、おのおのお茶を飲みつつ雑談している。


「ん……?」

「どうしたの、兄さん? はいお茶」


 俺はガイアスからお茶を受け取って、一口飲む。


「ちょっと散歩いってくる」

「迷子にならない? ボクがついてこうか?」


 じーっと他の女子達がガイアスを見やる。

「な、なんだよ……?」

「腐腐腐……デートがしたいのですね……わかります」


「なっ!? 違うよ! ばかっ!」


 ガイアスは顔を赤らめると、一足先に闘技場へと戻っていった。


「そんじゃ散歩行ってくる」

「後片付けはうちらやっとくから、ゆっくり散歩してってええで~」


 俺はみんなと別れて、ひとり歩く。


 自然公園の森の中を歩いている。

 

「殺気が丸出しだぞ、ヒストリア」


 俺は後ろを振り返る。

 背後から大量の蟲たちが襲ってくる。


「ふっ……」


 息を吹きかけると、それだけで虫の群れはどこかへと飛んでいった。


「……相変わらず、埒外の強さね、アンタ」


 物陰から現れたのは、不機嫌な顔をしたヒストリアだった。


「俺の命を狙うなら、もっと上手に殺そうとするんだな。殺気くらい隠せよ」


「東部連邦のこの外套は、気配を完全に遮断する仕様になっているんだけど?」


「そんなもんで気配が隠せるわけないだろ。道具に頼るな」


 ギリッ、と彼女が歯がみする。


「……あんたのその偉そうなとこ、昔っから大嫌いだったわよ」


「そうか。すまんな」


 昔から、つまり俺が転生する前からということだろう。


 転生前のユリウス=フォン=カーライルの人物像を、そう言えば俺は知らなかったな。


「で、何のようだ? 飯の時から、ずっとこっちをにらんでさ」


「……アタシ、すごい遠くから虫を使って見張らせてたんだけど」


「え、普通におまえが見てるの見えてたぞ?」


「ほんと、化け物ねあんた……」


 はぁ、と大きくため息をつく。


「なぁヒストリア」

「……なによ」


「そんなに羨ましいならさ、素直にこっちに来れば良いんじゃないか?」


 俺の言葉に、彼女が目を丸くする。


「なにを……いってるのよ、あんた……」


「え、だって昼飯食ってるとき、羨ましかったんだろ、俺らのことが。本当は一緒に飯食いたいって……違うのか?」


 ヒストリアが「……そ、それは」と小さくつぶやく。

 ぎゅっ、と唇をかみしめる。


「ふざけないでよ! 誰が、誰があんたたちを羨ましいなんて思うのよ!」


「なんだ、違うのか? 本当は東部連邦の連中とも仲良くしたいと思ってるんじゃないの?」


「ち、違うわよ! な、何バカなこと言ってるのよばーか! 心を読んだみたいに言わないでよ!」


「え?」

「違うわよ! 死ね!」


 大量の虫を操り、俺に向かって襲わせる。

「だから、それもう種が割れてんだよ」


 ダンッ……! と俺は地面を強く踏む。

 その瞬間、足下に魔法陣が展開する。


 虫は領域内に入ると、消えていった。


「なっ!? どうなっているの!?」

「え、呪いを無効化する魔法陣を展開したんだぞ?」


「そんなのいつ作ったのよ!?」

「たった今だけど?」

「ふざっ、ふざけんなこの異常者! 化け物! 忌み子のくせに!」


 なんか忌み子って言うヤツ、もはやこいつだけだよね。


「変に肩肘張るなよ。おまえ、言ってることと思ってること、ちぐはぐすぎるぞ」


 俺はヒストリアを見ていう。


「おまえ、何に怯えてるんだ?」

「はぁ!? な、なによ急に……」


「おまえの魂は、つねに何かに怯えているみたいに、びくびくと震えている。なんだ、誰がそうさせてる?」


「し、知らないわよ! さらっと魂とかみんな! この化け物!」


 ヒストリアはきびすを返して離れようとする。


「東部の連中、お前が思ってるほど、お前のこと毛嫌いしてないぞ。なぁ?」


 ガサッ、と茂みが動いて、ダンタリオンたちがやってくる。


「なーんだ気づいてたの? 完璧に気配消して隠れてたのに~」


 ザガンが軽薄な調子で言う。


「え、普通にだだもれだったぞ気配」

「マジか。やべーわあんたほんと」


 ダンタリオンが、ヒストリアに近づいてくる。


 その手には、俺の作った弁当があった。


「な、なによあんた達……全員おそろいでさ」


「アスモデウス……いいえ、ヒストリアさん。一緒にご飯、食べましょう?」


 ダンタリオンが微笑みながら、弁当を差し出す。


「一緒にって……だって、アタシ……あんたたちに酷いこと言って……」


 動揺するヒストリアに、ザガンが言う。


「オレ様達は悪口なんて言われ慣れてるっつーの。あれくらいじゃなんとも思わねえよ。なぁガキンチョども?」


 アモン、そしてバァルのふたりも、こくりとうなずく。


「わたくしたち悪魔は、たしかに人間ではありません。あなたとは……違う生き物かも知れません。気持ち悪いと思うのも……致し方ありません。けど……」


 彼女は微笑んで、ヒストリアに言う。


「わたくしたち、同じ学校の生徒で……チームメイトじゃないですか」


「…………」


 ギリッ、とヒストリアが唇をかみしめる。

「無理に歩み寄らずとも、せめて、チームみんなでお昼ご飯くらいは……食べませんか?」


 スッ……とダンタリオンが弁当箱を差し出す。

 ヒストリアは手を伸ばす。


 そして……。


 バシッ……!


「いらないわよ!」


 キッ……! と彼女はにらみつけると、地面に落ちた弁当箱を踏みつける。


「気持ち悪いのよ! 近寄らないでよこの悪魔! もうほっといてよ!」


 ヒストリアは虫を出現させると、それに乗っていずこへと立ち去っていった。


「ユリウス様……ごめんなさい。せっかく作ってくれたお弁当、台無しにして」


「いや、気にすんな」


 俺たちは一緒に、弁当の残骸を片付ける。

 そしてみんなのいる場所へと戻る。


「いつか……仲良くなれたらいいのですが……」


 彼女が沈んだ表情で言う。


「なれるさ。すぐに歩み寄るのは無理なのだろうけど、あいつの心は完全におまえらを拒んでないよ」


 ダンタリオンは目を丸くして、安心したように吐息をつく。


「ユリウス様がそうおっしゃるのでしたら……安心です」


「え、なんでだよ?」


「ふふ……♡ なんででしょうね」


 そんなふうにして、お昼の時間は過ぎていった。


 さて、午後の試合だ。頑張るぞ。


【※お知らせ】


新連載、始めました!


「騎士団長は最強に生まれ変わった~腑抜けたおっさんと蔑まれてきた俺、ダンジョン奥地で部下に裏切られ全てを失ったが、賢者の元で修業し最強となって自由に生きる」



【作品URL】


https://ncode.syosetu.com/n1466gm/


頑張って書いたので、よろしければぜひご覧ください!


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タイトルを押せば飛べるようになってるので、ぜひ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] みんな仲良し(ダンタリオン的な意味じゃなくて)よかった。ヒストリアも改心する流れかな?!仲良くできるといいね。 [気になる点] 兄上が転生する前のユリウス=フォン=カーライルの中の人の魂?…
2020/09/05 21:44 退会済み
管理
[一言] 新連載はいいけど今まで1つも完結させてないじゃないですか?だいじょうぶですか?
[一言] >もしろおふたりの愛する姿を見守る……観葉植物とでも思ってくだされば…… うん、誤字だってのは分かるんだ、でもダンタリオンだとほもしろに見えてしょうがない あとアンチはやっぱりミスターサ…
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