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118.弟、棒倒しに参加する



 転生勇者ユリウスの活躍により、騎馬戦に勝利した。


 次の競技への休憩時間。 

 王立のメンバーの控室にて。


「わーい! ぼくたちトップですー! さすがあにうえですー!」


 ミカエルが笑顔で、ユリウスに抱き着いてくる。


「いやいや、さっきのはミカエルが頑張ったからだろ。よくやったな」

「えへへ~。やったー! あにうえがほめてくれたー!」


 くるん、とミカエルがガイアスを見やる。


「うらやましいですー?」

「ふん、全然」

「うらやましいくせにー。だから次の競技でるんでしょー?」


 ガイアスは義弟をヘッドロックする。 


「けど、思ったよりもみんなケガしなくてよかったね。このままみんな無事で優勝できるかも!」


「せやなぁ。今トップ独走状態やし、なんや対校戦わりと楽勝やない?」


 チームメイトたちは和やかに言う。


「みんな緊張感を持ちなよ、相手は悪魔と転生者なんだよ? なにが起きるかわかんないんだから」


「心配性やなぁ」「こじゅーとです?」


「みんな、気を抜いちゃ駄目だぜ。相手は悪魔に転生者だ。まだ何が起きるか想像できない」


「「「はーい!」」」


「なんか納得できないんだけど! 同じこと言ってるのに!」


 ガイアスが深々とため息をつく。


「次の競技、たしか【棒倒し】だっけか。がんばれよ」


 次はガイアス、エリーゼ、サクラの三人が選出されている。

 ユリウスは温存という判断となった。


「ねえ、兄さん……その……さ」

「え、どうしした?」


「この試合で初日、最後の競技でしょ。もし初日1位になれたら、その……」


「なんだ? ご褒美にちゅーでもほしいのか?」

「ば、ばーか! ちがうってば、ばーか!」


 顔を赤くするガイアスを、周囲がにやにやと生暖かい眼で見守っていた。


 ややあって。


「それじゃ、兄さん。行ってくるよ」


 闘技場の廊下にて。

 ガイアスがエリーゼとサクラたちと並んで言う。


「おう、がんばれ」

「あにうえー、トイレー」


 ぐいぐい、とミカエルが兄のズボンを引っ張る。


「自分でいきなよ。兄さんはボクの応援があるんだから」

「トイレの場所わからないです、つれてってー」


 はぁ、とガイアスがため息をつく。


「あいよ。じゃ、いこうか」

「兄さん……ひとりでいかせなよ。子供じゃないんだし」


 頬を膨らませ、ふいっとガイアスがそっぽを向く。


「なんやガイアス、お兄さんに見てもらえなくてすねとんのか?」

「そうだよまったく……」


「「「へー……」」」

「あ、ち、違う! 誤解! 違うから!」


 ユリウスは微笑むと、弟の頭をなでる。


「すぐ戻って来るからさ。まあおまえのことだ、戻るまえにあっさり勝ってるだろうけどな」


「そうなったら怒るからね。ちゃんと帰ってきてよ! ほらさっさといけって!」


 ユリウスは義弟の手を引いて、その場を離れる。


「いこうか、みんな」


 ガイアスはエリーゼたちと共に、闘技場へと向かう。


 各学園3名ずつ選出されていた。


『初日最後の競技は【棒倒し】でぇす。2チームごとに分かれてそれぞれ戦ってもらいまぁす』


 組み合わせは①王立vs東部連邦、②帝国vs神聖皇国となった。


 勝った者同士が最後に戦って順位を決める。


『試合数が多いので同時進行で試合してもらいまぁす。各チームは魔法陣に乗って下さい』


 赤と青の魔法陣が出現する。


 王立と東部連邦が赤い魔法陣に、残りは青い魔法陣に乗る。

 すると、転移の魔法が発動。


 気づくと、ガイアスたちは無観客の闘技場に居た。


『そこは別次元に存在する隔離空間でぇす。何人たりとも外部からの侵入は不可能な場所なので、客を気にせず暴れてもらってかまいませぇん』


 周囲を見渡すが、たしかに先程いた場所とは隔離されている空間のようだ。


「こんなとこがあるなら、最初から使えばいいのに」

『隔離空間は構築に時間がかかる上に魔力を消費しますからねぇ。使いどころは限られて来るんですよぉ』


 エリーゼとサクラは、素直に理事長の言葉を信じている様子。

 だがガイアスはきな臭さを覚えた。


 隔離されている空間では、外部からの侵入ができない。

 裏を返せば、試合が終わるまで、何があろうと助けに入ることはできない。


「ふたりとも、気を引き締めていこう。なんだか嫌な予感するんだ」


 エリーゼたちは首をかしげたが、素直にうなずく。


『ではAブロックの試合、王立学園と東部連邦の試合を開始しまぁす』


 グラウンドに何本もの棒が出現する。

 

『より多くの棒を自陣に引き込んだ方の勝ちでぇす。ただし魔法も武器も使用禁止ですのでぇ、あしからず』


 だがガイアスは安心できない。

 武器魔法が使えずとも、先程の試合で悪魔は毒のナイフを生成して見せた。


 今回の相手も、なにかルールの穴をついて、攻撃してくるかもしれないのだ。


 ガイアスは東部の選手を見やる。

 背の高い男ザガン。

 低い男アモン。そして……。


「初めて見る選手だ、あいつ」


 フードと仮面をかぶった、最後のメンバー。


「パンフレットによると【アスモデウス】っちゅー女生徒らしいで」

「ユリウス君、あのひとも悪魔って言ってたね」


 マジックアイテムの効果だろうか、アスモデウスから魔力も闘気も感じ取れない。


 だが、ガイアスは手のひらに汗をかいていた。

 名状しがたい、異様な力を彼女から感じるのだ。


『それではぁ、試合……開始!』


 ガイアスたちは散開し、各々が棒に向かって走る。


 棒を手に取ると、ちょうど東部の生徒も、自分と同じ棒を取るようだった。


「…………」


 アモンが反転の呪いを発動させる。

 棒を掴んでいたはずのガイアスが、棒を放してしまった。


「くそっ! 別の棒を……」


 と、そのときだった。

 どんっ! と誰かが真横から、ぶつかってきたのだ。


「さ、サクラ!?」


 ガイアスは、サクラの体を抱き寄せる。

 彼女は、血だらけだった。


「な、なにがあったんだ!? サクラ!?」

 

 だがすでに彼女は気を失っている。

 出血が多い。顔色が真っ白だった。


 闘気を応用し、彼女に活力を流し込む。

 死には至らないが、急を要する事態ではあった。


「早く治療を! くそっ! なにが起きてるんだ!?」


 そこで、ガイアスは気づいた。

 

 アスモデウスの体から、無数の黒いモヤのようなものが湧き出ている。


 つぶさに見ると、その正体に気づく。


「【虫】か……! あんな数の虫を操るなんて!」


 遠目に見ると、黒い嵐のようだ。


「ボクの大事な仲間に、なにしやがるんだ!」


 ガイアスは禁術で身体能力を強化し、アスモデウスに殴り掛かる。

 

 がきぃいいいいいいん!


「なっ!? 禁術で強化拳を、受け止めただと!?」


 彼女は虫を操り、虫の盾を作ったのだ。

 すぐさま盾はばらけて、黒い嵐がガイアスの体を包み込む。


「くそ! この! 離れろ!」


 虫はごく小さなものだった。

 手で払おうとも、すぐに集合して襲い掛かって来る。


 集まれば盾や矛となり、バラバラになっても攻撃ができる。

 しかもこちらの攻撃は通じない。


 厄介極まる能力だ。


「大事な、仲間……ですって……?」


 ふと、【聞き覚えのある】声がした。


「ずいぶんと、仲間思いに、なった……ものね。お優しい……」

「な、なんだよおまえは!? ボクを知ってるのか!?」


 虫の結界を破ろうとするが、しかし突破できず。

 ガイアスはもがく一方で、アスモデウスが話しかけてくる。


「アタシのことは……あっさり捨てた、癖に!」

「わけのわからないことを、いうなぁ!」


 ガイアスは禁術で最大限までに体を強化する。

 オーラの波動で、虫を吹っ飛ばす。


「ぜぇ……! はぁ……!」


 視界が明瞭になる。

 眼前には両手を広げたアスモデウスがいる。


 彼女の周囲には、虫でできた黒い触手が無数に生えている。


「殺す……アタシを見捨てた、奴ら。全員、許さない……殺す!」


 彼女がむけてくるのは、明確な殺意と怒り。

 だがそれを向けれても、ガイアスは困惑するばかりだ。


 東部の生徒とは今回の大会で初めて顔を合わせたはず。

 恨みを買うなんてことは、ありえないはずなのに……。


「! しまった!」


 黒い触手が、ガイアスではなく、エリーゼの方へと向かう。

 

 ガイアスは走り出そうとするが、触手が体にまとわりつく。


「エリーゼ! 逃げろ! エリーゼぇ!」


 青い顔をして動けぬ彼女に、黒い触手が襲い掛かろうとしたそのときだ。


 がきぃいいいん!


「え……?」

「大丈夫かい、おじょーさん?」


 彼女を助けたのは、東部連邦の生徒、ザガンだ。

 毒のナイフで、触手の攻撃を防いでいる。


「女の子の顔を傷つけちゃあ、いけねえなぁ。いけねえよ」


 ザガンはナイフを振る。

 触手は弾かれるが、再度エリーゼに襲い掛かる。


 ザガンはエリーゼをわきに抱えて、その場から離脱。

 ガイアスのそばに降り立ち、彼女を下ろす。


「ど、どうして助けたんだよ? ボクたちは敵同士なのに」

「はっ! 思い上がるんじゃあねえよ。オレ様は別に王立の味方をしたわけじゃあない」


 ザガンは気取ったポーズで言う。


「オレ様は女の子を守るナイト様なのさ! 全女子の味方なわけよ」

「……ははっ、変な奴」


 ガイアスは立ち上がる。

 武器はないが、棒倒し用の棒を折って手にもつ。


「…………」


 いつの間にか、ガイアスの隣にアモンがいた。


「そのガキンチョも一緒に戦ってくれるってよ」

「…………」


 どうやら東部連邦も、一枚岩ではなさそうだった。

 すべてを敵と断じるのは、間違いだったのだとガイアスは考えを改める。


「いこう!」

「おうよ!」


 だっ! とザガンとガイアスが走り出す。

 彼らに黒い触手が襲いかかる。


「アスモデウスは【蟲王呪法】っていう蟲を無限に作り出し、手足のように操る呪いを使う! 気をつけろよガキンチョ2号!」


「ガイアスだ! 覚えとけ!」


 触手をかいくぐり、ふたりはアスモデウスに肉薄する。


 だが地面や頭上、前後左右から大量の触手に襲われる。


 ザガンは恐るべき身軽さでそれをすべて避ける。


 ガイアスは禁術で強化した拳で弾き返す。

「くそっ! セイバーがないと霊装も使えない……!」


 競技のルールがガイアスの足を引っ張る。

 だがそれでも諦めず、ふたりはアスモデウスのもとへ接近。


「アモンがエリーゼちゃんたちを守ってる! このままツッコむぞ!」

「おう! せやぁああああ!」


 ふたりの拳とナイフが、敵の体に突き刺さる。


「やったか!?」

「ガイアス!」


 どかっ! とザガンに脇腹を蹴られる。

 

「がぁあああああああ!」


 ザガンの身体を、アスモデウスの触手が飲み込む。


 がりがり、ごりごり、と肉をそぐ嫌な音が響く。


 ぶぺっ、と触手からザガンが吐き出される。


「ザガン! おまえ……どうして……?」


「はっ……かんちが、すんじゃねえ。おめーが死ねば、エリーゼちゃん達が……泣くだろうがよぉ……」


 がくんっ、と気を失う。

 ザガンは四肢を失っている。


「おまえ! 仲間になんて酷いことすんだ!」


「ふん……こんなの、仲間じゃない。アタシに仲間なんて、いない……! みんな敵……敵敵敵よぉおおおお!」


 触手が先ほどよりも多く吹き上がる。

 

 もはやガイアス一人で対処できる数を、完全に超えていた。


「もう……駄目だ……」

「死ねぇえええええええええ!」


 触手の津波が、ガイアスを飲み込もうとする。


 拳を振るっても、極小の虫を弾くことも粉砕することもできない。


「兄さん……みんな……ごめん……」


 そのときだった。


「謝るな、弟よ」


 ぽんっ、と肩を誰かにたたかれる。

 見上げた先にいた人物を見て、ガイアスは歓喜の涙を流す。


「兄さん!」


 ユリウス=フォン=カーライル。

 不可能を可能に変える最強の勇者。


 彼は拳を握りしめると、前方へと恐るべき勢いで正拳突きを放つ。


 ズバアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 黒い触手のすべてが、綺麗さっぱり消し飛んだ。


 世界を覆い尽くすかのごとく覆っていた蟲が、一匹残っていない。


「すぐ治療する」


 ユリウスはザガンとガイアスに治癒を施す。

 ザガンのちぎれた四肢はあっという間に戻る。

 ガイアスのケガも治った。


「サクラも無事だ」

「兄さん……どうして……? 隔離空間は、誰も入って来れないのに」


 いつもなら、とぼけた調子で、おかしな理論を並べてくる。


 だがこのときのユリウスは、本気で怒っていた。


「下がってろ」


 ガイアスは、ぞくり、と背筋を震わせる。


 こんなにも怒っているユリウスを、見たことがなかった。


「ユリウスぅううううう!」


 アスモデウスが怒りをあらわにし、体中から蟲が、また吹き出す。


 先ほどの比ではない数に、ガイアスは圧倒される。


「おまえの! おまえが! おまえがぁああああああああああ!」


「黙れ」


 兄がしたことは、黙れ、といっただけ。

 それだけで、アスモデウスの虫たちは、全員死亡した。


「あ……ああ……」


 アスモデウスも戦意を完全に失い、気を失っている。


「すごい……言霊ことだまだけで、あの蟲たちを殺すなんて……」


 ユリウスはしゃがみ込んで、ガイアスを抱きしめる。


「遅れて、ごめん。ごめんな……」

「兄さん……」


 隔絶されたこの空間と、外の空間では時間の流れが異なる。


 ユリウスが異変を察知し、超特急で空間をぶち破ってきた。


 だが外界との時流が異なるために、到着が遅れてしまったのである。


「おやおや、だぁいじょうぶですかぁ?」


 いつの間にか、理事長が隣に出現する。


 ユリウスは無言で拳を振るう。


 ドガァアアアアアアアアアアアン!


 隔絶空間が、今の一撃で、完全に破壊された。


「さすがユリウス君。この空間、構築にめちゃくちゃ魔力と手間暇が掛かるというのに、こうもあっさりと破るなんてすごいですねぇ」


「理事長」


 ユリウスは彼を見やる。

 その目には、明確な怒りがあった。


「二度はない。次こんなきたねえマネしやがったら殺す。いいな?」


 ユリウスの殺意を真正面から受ける。

 だが理事長は、飄々とした態度を崩さない。


『さぁて、この試合の結果発表しまぁす!』


 忘れていたが今は競技中だったのだ。


『1位、神聖皇国。2位、帝国学園。同列4位、王立と東部連邦!』


「なっ!? ふ、ふざけんな!」


 ガイアスが理事長につかみかかろうとする。

 その肩を、ユリウスがつかむ。


「兄さん……」


 一方で理事長が解説する。


『Aブロックの試合は、アスモデウス選手による殺傷行為が確認されたのでペナルティにより4位。そしてユリウス選手による、競技に参加しない選手の乱入。これは試合を混乱させる行為とみなし失格で4位とさせていただきました』


「そんな! 兄さんがいなきゃ、もっと酷いことになってたんだぞ!」


 殴りかかろうとするガイアス。

 だがユリウスは冷静に言う。


「やめろ。ルールを破ったのは俺だ」

「兄さん……」


「ルールよりもお前達を優先した俺のミスだ。すまん」

「兄さんは悪くないよ、兄さんがいなきゃ……みんな死んでたよ……」


 ユリウスは微笑んで、ガイアスの頭をなでる。


『Bブロックでは帝国学園が試合開始と同時にギブアップを宣言しました。よって先ほどの順位になりましたぁ』


 初日の競技を終えて、順位は以下の通りになった。


1位 帝国学園(+3) +1、+1、+1

2位 王立学園(+2) +2、+2、-2

3位 神聖皇国(-1) -2、-1、+2

4位 東部連邦(-4) -1、-1、-2

【※読者の皆様へ お願いがあります】


「面白い!」

「続きが気になる!」

「みんな頑張れ!」


と思ったら、

下の【☆☆☆☆☆】から作品への応援おねがいいたします!


面白かったら星5つ、

つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちで全然かまいません!!!!!!!!


なにとぞ、よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[一言] この調子で頑張れ帝国!
[良い点] 敵と共闘する展開はとても良い。 ザガンいいやつじゃん! [気になる点] アスモデウス、東部連邦の学校でも浮いてそう [一言] アスモデウスいったい何トリアなんだ…?
2020/08/27 01:26 退会済み
管理
[一言] 旧兄上は殺すです?
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