110.魔神、勇者パーティの圧倒的力の前に敗北
転生勇者ユリウスたちが、精霊郷から帰還し、1ヶ月が経過した。
9月下旬のある日のこと。
三柱の魔神が、ユリウスたちのいる屋敷を、今まさに襲撃するところだった。
『ここか、【手配書】に記載されている、要注意人物が住まう場所は』
全身が水でできた女の魔神、【水君】が言う。
『手に負えない荒神が載せられるこの手配書に、よもや人間ごときサルが載るとは。嘆かわしいことだ』
『まぁそういうなよぉ』
全身が炎でできた男の魔神、【炎帝】が言う。
『いいじゃあねえか、こーんなひ弱そうなガキをちょちょいと倒すだけでものすんげぇ~金がもらるんだからよぉ。なぁ雷皇』
全身が雷でできた男の魔神、【雷皇】が答える。
『ふっ……』
『おいちょっともっとなんか言えよ』
三柱の魔神は、魔神のなかでも上位クラスの強さを持つ。
ゆえに、隠れない。
正面から、正々堂々と、ユリウスたちの屋敷へと向かう。
「止まれ」
屋敷の入り口に、少年少女たちが立ちはだかる。
その数は、【4】。
「おまえらは魔神だろう? ボクらになんのようだ?」
リーダーらしき金髪の少年が、魔神たちをまっすぐに見て言う。
『サルが。われら上位存在たる魔神に、なんという尊大な口の利き方』
『おれさまも切れちまったぜぇ。調子乗んなやサルどもが』
『ふっ……』
魔神達は莫大な魔力、そして闘気をまとわせる。
魔力と闘気の合成、禁術を使う。
圧倒的なプレッシャーを、魔神達が放つ。
『ほう、この荒れ狂う力の奔流を前に、正気を保つ程度の力はあるわけか』
リーダーの少年だけでなく、ふたりの少女も難なく魔神達の放つ殺気を受けて平然としている。
『おー! いいねぇ! 一方的になぶって殺すのは飽き飽きしてたところよ! おれさまがまずは、やらしてもらおうかなぁ!』
炎帝は手を挙げて、振り下ろす。
『【煉獄業火球】!』
彼にとって手を振り下ろすという動作が、極大魔法となるのだ。
超高温の火の玉が、彼らに襲い掛かる。
「エリーゼ、頼む」
「うん、任せてガイアス君!」
エリーゼは杖を前に出し、魔法を放つ。
『なっ!? なんだこれはぁああああああああ!?』
それは炎帝の放った極大魔法よりも、より強力な魔法だった。
彼の放った炎を軽く呑み込み、そのまま炎帝に激突する。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアン!
『そんな……ばかな。煉獄業火球……お前も使うのか。しかし、桁外れの、威力だ』
瀕死の炎帝に、エリーゼは首を振る。
「今のは極大魔法じゃないわ。ただの【火球】よ」
『そ、そんな……初級魔法で、この威力……だと……』
炎の扱いに絶対の自信を持っていた炎帝は、自分より強い炎の魔法を使った少女を前に、敗北感を覚えた。
「これで彼我の実力差わかったやろ? おとなしく撤退するなら、うちらも手ぇはださんで?」
黒髪の少女が、水君に向かって言う。
『な、なにをバカなことを……下等生物が! 炎帝は我らの中で最弱! ヤツを倒したぐらいで調子に乗るな!』
「うわー、もろザコのセリフやん。聞いててかわいそなるわ」
ビキッ! と水君の額に青筋が浮かぶ。
『調子乗るなよ……サルどもがぁああああああああ!』
水君は地面に手を置く。
空気中の水分、地中の水分すべてを収束し、大津波を起こす。
ドパァアアアアアアアアアアアアアン!
『なにもない陸地で、これこれほどの大津波を起こすことは、人間では不可能! 死ねぇええええ!』
黒髪の少女は冷ややかな表情で、手を動かす。
そして印を切る。
「おいでませ、【蛟】」
突如、莫大な魔力が少女がから湧き出る。
彼女の足下……影から、巨大な青い龍が出現したのだ。
『従魔か!? しかし人間ごときの従魔にやられる魔神ではなぁい!』
蛟は口を大きく開ける。
すると、水君の吐き出した水を、すべて吸い込んでいくではないか。
『そ、そんなバカなぁああああ!? 星を海に沈めるほどの水量を! 吸い込んで無事な式神などいるものかぁあああああああ!』
「そりゃ視野せますぎるんとちゃう? おいでませ、【九尾】」
また別の式神を召喚する。
9つの尾を持つ巨大な狐だった。
「焼き殺せ」
広げた尾の先に、青白い炎……狐火が宿る。
それは空中で合体し、炎の塊になると、水君へとぶつかる。
『ふん! この程度の炎で、水の魔神を殺せるとでも』
じゅぉおおおおおおおおおお!
『ぎぃいいやぁああああああああああああああああああ!』
みるみるうちに、水君の水分は蒸発していった。
『きえぬぅ! 消えぬよぉおおお! 水を燃やす炎などとおぉおおおお!?』
水君が地面でのたうち回る。
『なんということだ!? 1匹でも魔神レベルの強力な式神を……2体も飼っているなんて!』
「なに勘違いしとるん?」
ニコッと笑って、少女が言う。
「うちの式神は、100体おるで」
『ひゃ……』
絶句した。
それはつまり、魔神を100体飼っているのと同義だったからだ。
「おー、えりちゃんもサクラちゃんも、バリバリあにうえってるですー!」
翼を広げた少年が、楽しそうに手をたたく。
「ふたりとも言動が完全にあにうえってたです! パーフェクトあにうえ!」
「ミカ……意味わからないよ」
魔神を容易く屠り、さらに魔神を前にこの緊張感のなさ。
雷帝は、ようやく気づいた。
『ば、化け物……化け物だあ!』
この前にいる4人が、人の皮を被った……恐ろしい化け物であることを。
『ひぃいいい! に、逃げろぉおおおおおおおおおお!』
雷帝は一目散に逃げる。
彼は体が雷。
軽く一歩踏み込むだけで、大陸の端から端まで移動できる。
『こ、ここまでくれば……!』
「それで逃げたつもりです?」
振り向いた先に、天使がいた。
ぐにっ、と頬に指が突き刺さる。
パァーーーーーーーーーーーン!
雷神の体の9割が、今ので消し飛んだのだ。
『な……んだ今の……攻撃……は……?』
「え、ただ指で頬をつついただけです? ……ねえねえみんな! 今のぼくあにうえってたですー?」
無邪気に笑う天使の攻撃は、一撃必殺の威力を孕んでいた。
それが、頬をつついただけ……だと……?
残りカスとなった雷帝の一部をつかんで、天使がもといた場所へと戻る。
「誰に命令されたの?」
リーダー格の金髪の少年が、穏やかに聞いてくる。
だが彼の背後には、巨大な悪魔の姿が見えた。
『あ、悪魔だ……黒い悪魔……が……』
がくんっ、と雷帝は命を手放す。
「黒い悪魔に命令されたの……?」
「おっす、みんなー。悪いトイレ行ってた」
黒髪の少年ユリウスが、仲間たちのもとへと向かう。
「あにうえ、おっそーい」
「すまんすまん」
全員は、今おきたことを報告しない。
魔神を倒して見せたと。
だがそんなこと、わざわざ報告しない。
たかが、魔神を倒した程度、どうってこともないからだ。
「魔神の気配を感じたけど、なんかあった?」
「ちょっとね。でも問題ないよ」
「おう、そっか。じゃ、対抗戦の試合会場に……」
そのときだった。
『『『うぉおおおおおおおお!』』』
炎、水、そして雷。
3体の魔神が合体し、巨大な1柱の魔神となった。
『『『食らえ! わが合体魔神の』』』
「「うるせえ」」
カーライル兄弟が、合体魔神をにらみつける。
それだけで……魔神は跡形もなく消え去った。
「今の殺気を闘気で強化したんやろ?」
「必須技能だよね!」
「まあ神聖皇国に使えるかはわからないけど、特級魔族程度なら今のサクラたちでも睨んで殺せるね」
ガイアス達の会話を、ミカエルが聞いてうんうんとうなずく。
「みんなあにうえってるー!」
「「「え、なんのこと?」」」
「仕上がってるって意味だろ、ミカ?」
「おー! そーゆーことです! さすがあにうえ!」
ぴょんっ、とミカエルが兄の背中に乗っかる。
「おいこらミカ! やめなよ! 重いだろ!」
「え、そんなことないぞ。ミカは軽いなー。ちゃんと食ってるか?」
「あにうえの特製ご飯毎日いっぱいたべてるです!」
「…………」
「がいあすまたメスってるです?」
「意味わからない造語を作るな! ばかっ!」
後ろから羽交い締めにして、ガイアスが義弟を下ろす。
「ほんまガイアスはお兄ちゃんの前だとメスってるなぁ」
「めすってるですー」
「かわいいねっ」
「やめろよ、もうッ!」
一同に緊張感はない。
そこにあるのは、訓練の裏打ちされた、たしかな自信と絆だ。
「よし、じゃあ行こうぜみんな。相手は異世界転生者と悪魔だけど、怖くないか?」
「「「ぜんぜん!」」」
ニッ……! とユリウスが笑う。
「よし、サクッと優勝してやろうぜ」
「いこう、みんな!」
ガイアスが転移魔法を使う。
対校戦の舞台へと、チーム5人が向かう。
彼らの戦いの幕が……今、上がるのだった。
【※読者の皆さまへ とても大切なお願い】
この話で第8章終了。
次回から第9章に突入、また新しい展開へと突入します。
「面白い!」
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「対校戦がんばれ!」
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