106.勇者、他校の偵察に行く
仲間たちと団結を強めた、翌日。
俺は弟とともに、【神聖皇国】を訪れていた。
皇国にある学園の、校門前にて。
「弟よ、偵察は俺だけで良かったんだぞ? わざわざ学園さぼる必要ないのに」
対校戦では、悪魔と異世界転生者、という未知の相手と戦う。
よって相手の情報を仕入れておくことは必須だ。
「兄さんひとりだと、絶対に何かやらかすでしょ。乳児より目が離せないよ。それに対校戦の出場選手は、大会終了までは授業免除になってるから」
「なるほど……学園も優勝してもらいたいからな、融通を聞かせるわけか。……って、え? おまえ今なんかさらっと酷いこと言わなかった?」
「さぁ、気のせいじゃない?」
「なんだよー、つれないな。あれか、好きな子にはわざと冷たくしちゃうってやつか?」
「ば、ばかっ! へ、変なこと言うなよ! 誰かが見てたらどうすんだよ!」
「え、見てるぞ? なぁ」
俺はガイアスの背後を見やる。
「? 誰もいないじゃないか?」
「いや、いるよ。おーい、そんなこそこそしてないで、こっちこいよ」
ぐにゃり……と空間がゆがんだ。
なにもないところから、赤い制服を着た、女生徒が出てきた。
「と、東部連邦の主将!?」
「よ、ダンタリオン」
ゆらり、と彼女が幽鬼のような足取りで、俺たちの近寄って来る。
高身長。
そして黒く長い髪は、地面にまでついている。
前髪が完全に、ダンタリオンの顔を隠してしまっている。
「こんにちは……ユリウス様……ごきげんよう」
「おう、ごきげんようだ」
普通に挨拶する一方で、ガイアスは戦慄していた。
「全然気配を感じなかった。常に不意打ちには備えているはずだったのに……」
「気配を探知するんじゃなくて、魂を感知するんだよ。生き物である以上、魂は存在するからな」
「ふふ……さすがユリウス様……魂感知なんて高等技術……平然と身に着けてるなんて……」
顔は見えないが、感情が無いわけではないようだ。
「なにしにきた? 偵察か?」
「ええ……わたくしも……他校の動向は……気になりますので……奇遇……ですね」
ガイアスがギリっと歯噛みする。
「何が奇遇だ! 同じ時期に同じ場所にくるなんてありえないだろ!」
「まあまあ。この程度で目くじら立てるな。監視されてることなんて、わかってたことだろ?」
「! 最初から、気づいてたの?」
「おう。理事長室でダンタリオンと初めて顔合わせたときにな。まあ妨害されてないから放っておいたけどよ」
「素晴らしい……わたくしの呪術を……見破っただけでなく……あえて泳がすことで……こちらの術のレベルを……測っていたのですね」
まあそういうことである。
そうでなければ、気づいてて放置する意味が無いからな。
「覗きはあんま良い趣味じゃないな。知りたいことがあるなら正々堂々と来ればいいのに」
「そうですね……すみません……ですが……良いものは見れましたので……」
ダンタリオンは、ガイアスに近づく。
「ガイアス様……つかぬこと……お尋ねしますが」
「な、なんだよ。これ以上戦いについては、手の内はさらさないぞ?」
いたく真剣な調子で、彼女が言う。
「ガイアス×ユリウス……ですか? それとも……ユリ×ガイ……ですか?」
突然のことに、弟は困惑していた。
「な、なに言ってるのおまえ?」
「ガイアスさまが……攻めですか……受けですか……という意味です」
「ごめん、余計わからないよ」
ふむ、とダンタリオンは顎に手を置いて言う。
「ガイアス様は……同性愛者では……ないのですか?」
「は……? はぁあああああああああああ!?」
顔を真っ赤にして、ガイアスが動揺しまくる。
「ダンタリオンよ。ガイアスはノンケだ」
「そうですか……残念……です。絶対……受けだと思ってたのですが……」
「ちょっと!? ボクの知らない単語でボクのことについて評価するなよ!? え、どういうことなの!?」
「まあまあ気にすんな。そういう世界もあるってこった」
「ユリウス様は……何でもご存じなのですね……さすがです」
ややあって。
「そんじゃ、中に入るか」
「いえ……ユリウス様……わたくしはここで……失礼します」
「どうしたよ? 悪魔よけの結界を気にしてるのか?」
「え? に、兄さん……結界なんてあるの?」
「おう。ま、問題ねえよ」
俺は魔剣を取り出して、軽く振る。
バリィイイイイイイイイイイイイン!
「よし。じゃ行こうぜ」
唖然とする2人とともに、俺たちが敷地内へ入った、そのときだった。
「へぇ、悪魔連れの侵入者っすか? ははっ! 命知らずもいたもんすね!」
俺たちの目の前に、落雷がおきる。
雷光が収まると、そこには青い制服を着た、小柄な少年がいた。
「神聖皇国の代表選手か?」
「そっすよ。よくわかったすね?」
「え、おまえが異世界転生者だってことは、見りゃわかるよな?」
「ふーん……この制服、力を隠蔽する最高の秘匿術式が盛り込まれてるのに、見抜けるんすね。うわさ通りのやべーやつっすね」
少年がニヤリと俺に笑う。
「ま、おいらやカズマ先輩にはかなわないっすけど!」
勝気そうに、少年が笑う。
一方でガイアスは冷や汗をかいていた。
「……すごい、力を感じる。押さえててこれか……? これが転生者なのか……」
「そこでビビってるのが、王立学園の主将さんすか?」
ポケットに手を突っ込んで、少年が近づく。
「ども、おいらは【アルト】。【ハクバ・アルト】っす。神聖皇国の1年っす。よろしくー」
にかーっと笑って、アルトが言う。
「なんか、お兄さんと比べて、ぜんぜんたいしたことなさそーっすね、あんた!」
ガイアスが眉間にしわを寄せる。
「……うるさい。そんなこと、ボクが一番よくわかってるんだ」
「ほーん。じゃなんであんたが主将やってるんす? お兄さんがやれば優勝の確率高まるじゃねーすか」
ぎゅ、と唇をかみしめて、弟がうつむく。
俺は弟を庇うようにして、前に立つ。
「俺たちのリーダーはガイアスだ。みんなで決めたことだ。他人が口出ししないでほしい」
「兄さん……」
「ふーん、あっそ。じゃ王立のメンバーはみんなたいしたことねーっすね。こんなのがリーダーなんだから」
びきっ! とガイアスの額に青筋が浮かぶ。
「撤回しろ!」
「いやっすよ、あんたが雑魚なのは事実じゃねーっすか」
「違う! ボクにじゃない! 兄さんや仲間たちを侮辱したことに対してだ!」
アルトはニカっと笑う。
「そんじゃ模擬戦しません? あんたが勝ったら謝ってやるっす」
「上等だ!」
アルトとガイアスが、俺たちから距離を取る。
「止めなくて……よいのですか? ……手の内を……さらす羽目になるかと……」
「止めやしないさ。あいつは自分のうっ憤を晴らすためにケンカするわけじゃない。友達の名誉を守るために振るう拳なら余計にな」
ガイアスが木刀を2本創生して、構えを取る。
無双剣は使わないようだ。
怒ってはいても、手札を全部さらしてはいけないという自制心が働いているのだろう。
「そんじゃ一本しょーぶっすね。あんたが一撃入れられたら勝ちでいいっすよ」
対して、アルトは武器を取り出さない。
ポケットに手を突っ込んで、自然体な構えだ。
「なめやがって!」
ガイアスが禁術を発動させる。
超強化した脚力で、アルトに突撃する。
「せやぁっ!」
ガイアスの双剣が振るわれる。
だが、その刃は空を切った。
「なっ!? 消え……ガッ!」
バチバチバチ! と弟の体に電流が走る。
黒こげになったガイアスが、その場に倒れる。
「え? うそ? これで終わりっすかぁ? ぷぷっ、弱すぎっすねぇ」
アルトは弟を見下ろして、小ばかにしたように笑う。
ガイアスは白目をむいて気を失っている。
俺は治癒魔法でガイアスを回復させる。
「大丈夫か?」
腕を引っ張り、弟を立たせる。
「なんだ、今の。早すぎる。まるで……雷そのものじゃないか。なんなんだこれ?」
「これで主将? お笑い草っすね」
失望したように、アルトが言う。
悔しそうにガイアスは唇をかみしめる。
俺は弟の頭をなでて言う。
「存在を雷にする能力か。いいものもってんじゃねえか」
アルトは存在自体を雷にする能力を常時発動させている。
弟の攻撃が当たらないのは当然だ。
あたる前に雷になって、雷速で避けられてしまうからな。
「おお! さっすがユリウスくん! おいらの能力見抜いたんすね! カズマ先輩が一目置くだけあるっす!」
「……そんな。こっちの攻撃は当たらず、向こうの攻撃は当たるなんて、インチキすぎるじゃないか」
「インチキなのはとーぜんすよ。おいらたちは【チート】持ち、誰もがずるいと思うほど強い力をもってるんすからね」
勝ち誇った笑みを浮かべるアルト。
「どうっすか? 諦めて出場辞退するっすか?」
「そんなわけ……ないだろ!」
ガイアスは胸を張って、堂々と言う。
「理不尽な強さなんて、見飽きてる。こんなことでボクは折れない!」
その目はまっすぐ、敵を見据えていた。
虚勢ではない。
本物の闘志が宿っている。
「それに、おまえは馬鹿だ。ボクに秘中の秘をさらすなんてな。……【見たぞ】。次までには、ボクが勝つ」
ぞくっ、とアルトが体を震わせる。
「へ、へんっ! 負け惜しみっすね! 無敵の【雷神将】の力を持つおいらが負けるわけないっす!」
「え、そんなことないだろ?」
アルトが俺を見る。
「すごい自信っすね。相手は雷そのものっすよ?」
「え、だから?」
「……教えてあげるっすよ。その体に、おいらの強さを!」
アルトは身を縮め、雷速でこちらに突っ込んでくる。
俺はその拳を、半身をよじって避けて、首の後ろを、軽くトンとたたく。
ドガぁアアアアアアアアアアアアアアアアン!
アルトは地面に激突する。
「ば、バカな……雷神化してるんすよ……? なんで攻撃が、あたるんすか……?」
「え、雷くらい素手で壊せるよな、普通?」
「普通じゃ……ねえっす……なんすか、あんた……ばけものすぎ、る……」
がくんっ、アルトが気絶した。
「兄さんは、ほんと当然のように不可能を覆してくよね。でもいいの、手の内をさらして」
「ま、愛しい弟がコケにされたんだ。これくらいのおしおきはゆるしてくれよ」
「もう……兄さんのばか……」
弟の頭をなでると、ガイアスはうれしそうに微笑んだ。
「兄弟愛……禁断の関係……ユリ×ガイ……最高です」
「きみちょっと黙っててくれないかな! いろいろ台無しだよ!」
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「え、テイマーは使えないってパーティから追放したよね?~実は世界唯一の【精霊使い】だと判明した途端に手のひらを返されても遅い。精霊の王女様にめちゃくちゃ溺愛されながら、僕はマイペースに最強を目指すので」
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