107.勇者、転生者の自主練を見学する
俺は弟とともに、神聖皇国の学園に偵察に来ていた。
対校戦のメンバーのひとり、アルトと一悶着あった、数十分後。
アルトに連れられ、俺は学園の建物の裏、グランドへとやってきた。
「ふんッ! ふんッ! ふぅんッ!」
男子生徒が、素振りをしていた。
高い身長。
燃えるような緋色の髪をした青年は、神聖皇国の主将【カズマ】だ。
「なんだよ……あれ……」
カズマが持っているのは、【大太刀】だ。
長い刀身は炎のように赤い。
大太刀の先には……【校舎】がブッ刺さっていた。
「ボクの目がおかしくなったのかな……5階建ての建物を先端に突き刺して、素振りしてない……あれ?」
「おう、あってるな。え、あれくらいできるだろおまえも?」
「できな……! ……できるかも」
後輩であるアルトが、遠くからカズマに声をかける。
「【カズマ】せんぱーい、お客さんっすよー」
「ん! わかったぞ! ぬぅんっ!」
カズマは大太刀を思い切り振り下ろす。
先端に突き刺さっていた校舎は、放物線を描く。
ずずぅうううううううん……!
グラウンドだと思っていたのだが、そもそもここにあった校舎だったようだ。
「やぁ! ユリウス君にガイアス君だったね! こんにちは!」
にかっ! とカズマが白い歯を見せて笑い、俺たちの元へやってくる。
汗をかいているのか、上半身が裸だった。
鋼のような肉体をしていた。
「1回あっただけなのに、名前覚えてるんだね」
ガイアスがいうと、カズマは力強くうなずく。
「もちろん! 親交の相手の名前と顔は覚える! 人として当然だろうっ!」
悪いやつではなさそうだな。
「それにダンタリオン君まで! どうしたのかね、今日はみんなおそろいで!」
「ちょっと偵察をな」
「兄さん! ストレートすぎるよ!」
大口を開けて、カズマが笑う。
「その包み隠さない潔よい姿勢! うむ! 気に入った! おれは君が好きになったぞ!」
カズマが手を差し伸べてくる。
俺はガッシリと握手した。
「腐腐腐……♡ ガチムチのカズマ様……細マッチョのユリウス様……よい絡みです……♡」
ふむ、とカズマが俺たちを見やる。
「おれの自主練を見学するのは構わないのだが……フェアじゃないな」
「どういうことだ?」
「ここには王立、東部連邦の生徒がいる。だが帝国の生徒がいない。おれの力を見学するなら、全校に平等に見せるべきだ」
言われてみると、参加する4校のうち、1校だけはぶくのはフェアじゃないな。
「では少し待っていてくれ! アンチ君を呼んでくる!」
ぐっ、とカズマが身をかがめる。
「呼んでくるって……あんたわかってるの? 神聖国から帝国まで馬車で数日かかる距離にあるんだよ? 飛行魔法ですら数時間はかかるのに」
「うむ! 心配ありがとうガイアス君! でも無用だ! すぐ行ってくる!」
ダンッ……! と彼が地面を蹴る。
ボッ……! と彼のいた場所に、激しい炎が吹き上がる。
「き、消えたっ? 転移魔法か?」
「いや、炎の推進力を使って、超高速で飛び出ていったぞ。もう帰ってきたけどな」
「なんだってぇえええええ!?」
カズマが涼しい顔をして、帰ってきていた。
小脇には銀髪ロングの美青年、アンチが抱えられている。
「なんだなんだよなんなんだよぉおおお!?」
「やぁアンチ君! みんなでおれの稽古の見学をするそうだ! 君も一緒に見よう!」
「意味わかんないよ! どうなってるんだね!? さっきまで僕は帝国にいたのにここはどこなの!?」
「うむ! 神聖皇国だ!」
「な、なんだってぇえええええ!?」
驚いているアンチを見て、ガイアスがつぶやく。
「なんかボク、あいつにすごい親近感わくよ……」
「おう、そうか。仲良くなれると良いな」
「いやそういうことじゃなくて……」
ややあって。
「では稽古をしよう! 打ち込み稽古がいいかな? いいぞ! どんどんかかってこい!」
「僕は遠慮するよ! 死にたくないからね!」
「わたくしも……力での押し合いへし合いは……苦手です……」
「ボクはパス。手の内をさらしたくない」
自然と、目線が俺に向く。
「おれも君とは手合わせしたいと思っていたところだ!」
「おうよ。けど……それはまた今度だな」
「む? どういうことだ?」
「どうやら見学人がもうひとりいるみたいだぜ?」
そのときだった。
ドガァアアアアアアアアアアアン!
「魔族か」
「ふははは! そうだ! おれさまは【キングコング】! 上級魔族のひとーり!」
ガタイの良いゴリラみたいな魔族が、グラウンドに降ってきたのだ。
「前々からここの生徒は食ってやりたかったんだけどよぉ。魔除けの結界があって入れなかった! しかし都合の良いことに結界が壊れてるじゃねえか! ついてるぜぇ!」
そう言えば俺がここへ入るときに、結界を壊したままだった。
「すまん、俺の落ち度だ。駆除は俺がする」
「いや! ユリウス君。ここはおれがやろう」
カズマが大太刀を手に、キングコングへと近づく。
「生徒を守るのがおれの、【生徒会長】の役目だ!」
「カズマ先輩は学園の代表選手であると同時に、生徒会の会長なんすよ。ちなみにメンバーは全員生徒会所属っす」
アルトが補足説明を知れてくれる。
大太刀を手に、キングコングの前にカズマが立つ。
「おれはカズマ! 生徒会長だ! すまないが部外者は出て行ってくれたまえ!」
「あぁ……? なんだとぉ……?」
カズマは大太刀を地面に突き刺し、その場にあぐらをかいて座る。
「用事があるならこの場で言ってくれ! おれは暴力が嫌いだ! 話し合いで解決しよう!」
だがキングコングは、そんなカズマの顔面に、殴りかかる。
ズガァアアアアアアアアアアアン!
衝撃波が発生する。
なかなかの練度の闘気をこめた一撃だ。
岩くらいなら粉々になっていただろう。
「ハッ! 出て行けと言われてハイそうですかなんてバカ正直に言うわけねえだろばーか!」
「なんて卑怯なんだ! 話し合おうとしたカズマを殺すなんて!」
義憤に駆られたガイアスが、魔族を倒しに行こうとする。
「まあ落ち着けよ。まだ終わりじゃない」
「ユリウス君のいうとおりっす。カズマ先輩は、あんなやつに負けない」
「うぎゃぁああああああああ!」
キングコングが、のけぞって倒れる。
殴ったはずの腕が、まるごと消滅していたのだ。
「腕がぁ! なんだぁこれはぁあ!?」
カズマは悠然と立ち上がる。
彼は真正面からの上級魔族の拳を受けたのに、傷1つついていなかった。
「交渉決裂だな! 斬首する!」
大太刀を引き抜いて、カズマが構えを取る。
「ハッ……! いきがるんじゃねえぞ猿風情がぁあああああ!」
立ち上がろうとしたキングコングは、しかしすぐに地面に倒れた。
「四肢と首を切断されている……早すぎて、見えなかった……」
「うひぃいいいいい! ば、化け物ぉおおおおおおおおお! 来るなぁあああ!」
「アンチ様……なぜあなたが……驚くのです……?」
クビだけになったキングコングを、カズマが見下ろす。
「良い試合だった! 次は正々堂々勝負したいな!」
「勝負……だと……ふざけた、こと……ぬかしやがってぇ! こうなったら奥の手だ!」
ゴリラの体が突如として、光り出す。
腹の部分から、結晶が浮かび上がってきた。
「出でよ! 【仮想神兵センジュカンノン】!」
カッ……! と結晶が輝く。
すると召喚の魔法陣が展開する。
そこからでてきたのは、1000の腕を持つ、黄金の体をした……神だ。
「なななっ、なんだねアレはぁ!?」
「え、【仮想神兵】だろ。神を模して作られた兵器」
仮想神兵。
強大な力を持つ神々の模造品だ。
仮想とはいえ、神に匹敵する力を持つ。
厄介極まる代物である。
「兄さん……あれも昔じゃ、普通にあったの?」
「おう、普通に使われてたな。各国で」
「なんだい!? どこの世界の話をしてるんだよ君たちぃいい!」
慌てふためいているのは、アンチだけだった。
「はーっはっは! どうだぁ! 大枚叩いて【買った】切り札だぁ! どうだぁ! すげぇだろぉお!」
戦の腕を持つ巨大な神を前に、しかしカズマは怯えない。
「なるほど! よい武器を持っているな!」
「きょ、虚勢を張るのもいい加減にしろよ! こっちは神だぞ神! 知ってるか? 神は神でしか倒せないだぜ? なぁ人間様よぉ!」
キングコングの言葉に、ガイアスが神妙な顔で言う。
「そうだ。神を倒すためには【霊装】が、人の体で神になる技術が必要となってくる。一般人が使えるわけがないのに、あの余裕はなんだ……?」
ふんっ、とアルトが小馬鹿にしたように言う。
「一般人? はんっ! おいらたちをなめるのもいい加減にするっすよ。ねえ先輩! やっちゃってくださいっす!」
「うむ! いくぞ【炎神将】!」
カズマは大太刀を担ぐようにして構える。
「【霊装】……展開!」
その瞬間、カズマの体から、莫大な量の炎が噴出する。
空に向かって伸びた炎の柱は、やがて紅蓮の衣へと変化する。
「そんな……バカな! 霊装だとっ!?」
ガイアスが驚く、その視線の先には、霊装を纏ったカズマがいた。
「だ、だからなんだ! やれセンジュカンノン! 殴り殺せ!」
千の腕が超高速で連打を放つ。
カズマは大太刀を、横になぐ。
びょぉおおおおおおおお!
熱風が吹き荒れ、センジュカンノンに襲いかかる。
木の葉のように上空へと飛んでいった。
「ありえないよ! なんだいあれは!? あの巨体を容易く吹き飛ばすなんてぇええええええ!?」
アンチが半狂乱になって叫ぶ。
一方でカズマは、上段の構えを取る。
「壱の太刀……【飛竜】!」
彼が大太刀を振り下ろすと、炎の斬撃が……高速で飛翔する。
巨大な炎の斬撃は、空中で、巨大な神の体を一刀両断した。
ずずぅーん……と激しい音を立て、両断されたセンジュカンノンが倒れる。
「そんな……神を……一撃で倒すなんて……まるで……化け物じゃないか……」
「うぎぃいいいいいい! ば、化け物だぁあああああああああ!」
ガイアスとアンチが、驚愕の表情を取る。
ダンタリオンは無言で、その様子を見ていた。
「うむ! いい兵器だったぞ!」
霊装を解いたカズマが、晴れやかな表情を浮かべる。
「そ、そんな……上級魔族の攻撃をモノともせず……仮想とは言え神を倒す霊装を使うなんて……おまえ、本当に人間かっ!?」
倒れ伏すキングコングが、カズマを見上げていう。
「うむ! おれは人間だ!」
「おまえのような人間がいるかっ! くそっ! こうなったら……もう命を捨ててでも! やれ!」
キングコングの命令で、両断されたはずのセンジュカンノンの目が、ビカッ! と光る。
「むっ! しまっ……!」
カズマが遅れた。
その一瞬で、センジュカンノンは自爆の術式を発動させる。
爆発しかけたその瞬間。
「ていっ」
俺はセンジュカンノンに近づいて、手に持った魔剣を振るう。
ガォンッ……!
という音とともに、神が跡形もなく消え去る。
虚空剣。
万物を切り裂き、虚空へ送る技だ。
「速い……なんという速さっす……雷神の力を持つおいらでも、まったく見えなかったっす……」
「詰めが甘いぜカズマ。魔族ってすぐ自爆特攻してくるんだ。覚えておけよ」
ぽかん……としていたカズマだったが、すぐにうなずく。
「見事! おれでも霊装を展開するのに時間が掛かるというのに、この刹那の間で霊装を纏い、剣で消し飛ばすとは! さすがユリウス君だな!」
どうやら向こうも、俺の動きが完璧に見えていたみたいだ。
俺は霊装を解く。
呆然と、キングコングが俺たちを見ていた。
「いやがった……人間じゃない……化け物が……ふたりも……」
「あ、こいつ忘れてたな。どうする?」
「うむ、その必要はないぞ! もう死んでる!」
「ありゃ、ショック死してら」
さて、魔族と仮想神兵を撃退した俺たち。
「しかし良かったのかユリウス君! 君は偵察に来ていた、手の内をさらすのはよくないのではないか?」
「カズマ、おまえちょっとサービスで手の内を見せすぎだぜ。今のは釣り銭だ。取っとけよ」
ニッとカズマが笑うと、すっ……と手を差し伸べてくる。
「君のような強者と対校戦で戦えるなんて、光栄だ!」
「そりゃこっちのセリフだ。剣を交えるのを、楽しみにしてるぜ」
固く手を握りあう俺たち。
一方で、ギャラリーたちは、思い思いの反応をしていた。
「僕学園やめりゅぅううううう! こんなヤツらと戦ったら死んじゃうよぉおおおおお!」
「神聖皇国は霊装をみんな使える、と想定した方がいいかな。みんなが怪我しないように、なにか対策を考えないと」
「ユリ×カズ……いいえ……カズ×ユリ……どちらも……捨てがたい」
そんなふうに、偵察は有意義に終わったのだった。
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「え、テイマーは使えないってパーティから追放したよね?~実は世界唯一の【精霊使い】だと判明した途端に手のひらを返されても遅い。精霊の王女様にめちゃくちゃ溺愛されながら、僕はマイペースに最強を目指すので」
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