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おっさんは〝采配八計の陣〟を前に知恵比べを受けて立つようです。


 謁見の間に続く扉を吹き飛ばして先に進むと、レヴィが不思議そうな声を上げた。


「あれ? 廊下じゃないわね」

「異空の城だからな。形が変わっていても不思議ではない……が」


 そこに広がっていたのは、どこか既視感のある光景。

 円形の部屋に、今吹き飛ばしたのと同じ扉が等間隔に八つ並んでいた。


 こちらが帝城の最外壁に展開した〝現世の門〟と同様の印象を覚える場所である。


 その扉には古代文字が刻まれており、クトーはそれが『規則性を持った文字と数字の組み合わせである』と自分の知識から推測する。


 そしてメガネのブリッジを押し上げながら、この部屋についての考えを口にした。


「―――〝采配八計(さいはいはっけい)の陣〟」


 すると、横でミズチがうなずく。


「力押し以外の計略を仕掛けてきたようですね」

「推測が正しければ、少々厄介だな」

「ていうか、そもそもそのサイハイなんたらっての、何よ?」


 レヴィの疑問に、クトーは淡々と答えた。


「迷宮結界の一種だ。魔法による罠であり、ルールが存在する」


 魔法罠の中でも最上級のものである。


「迷宮ってことは、ナンダ兄弟のとこの地下迷宮みたいな?」

「似たようなものだが、あの地下迷宮は元々古代遺跡の再利用で、不死の法と防御が目的だった。いわば保身のための迷宮だ」

「こっちは?」

「勝負を仕掛けるための結界と言えるな」


 采配八計の陣は、八つの門にそれぞれに人が入ることで発動するタイプの罠だ。

 が、それが直接命の危機に繋がる、というわけではない。


「先に進むことは出来ないが、入らずに戻ることは出来る。さらに八つの門どれに入ったとしても、先には辿り着けるようになっている」

「……それのどこが罠なの?」

「それぞれの門には、設置者による課題が仕掛けられている。またその種類もルールによって定められており、勝者のみが先に進めるのだ」


 クトーは、扉に刻まれた文字に目を向けた。


 乾一(ケンゼン)兌双(ダッソウ)離参リサン)震肆(シンシ)巽伍(ソンゴ)坎陸(カンロク)艮漆(ゴンシツ)坤捌(コンバツ)


 一から八までの概要と数字を示すそれらを追い、クトーは話を進める。


「ただ一つ、正面の坤捌(コンバツ)の扉だけは直接先に繋がっている。そこに罠はない」

「は?」


 レヴィがキョトンとした顔でこちらを見た。


「じゃ、そこ通ればいいんじゃないの?」

「開いていればな。そこにだけは鍵がかかっている。魔法も攻撃も完全に遮断する封印だ」


 こちらから影響を与えられない代わりに、向こうからの影響も無効化する『遮断』の魔法の一種だが、この魔法は生命体にかけることが出来ない類いのものだ。


 特定の手順を踏まなければ、破れない。


「どうやって開けるの?」

「各門に人を送り込めば開く。ゆえに〝采配八計の陣〟と呼ばれる」


 人を割り振り、その門を突破可能な者を送り込めば、全員が無事に門を抜けることが出来る。

 

 そして坤捌(コンバツ)の扉を抜けるためには、最低でも八人が必要であり、かつその中に適切に仕分けることが可能な人材……采配を行う者が必要となるのだ。


「はぇー……めんどくさいわね……」

「そうか?」


 面倒さで言えば、戦場指揮のほうがはるかに煩雑である。


 言うなればこれは、コマを動かすボードゲームであり、軍を動かすことよりも遥かに容易い。

 

 そのコマになる人物には用意された課題に対する有利不利があり、ゲームの規則を把握すれば後はマスターとプレイヤーの知恵比べな分、厄介ではあるが楽なくらいだ。


 刻一刻と変化する状況はそこには存在せず、割り振りだけでいいのだから。


 ゆえに、陣のマスターとプレイヤーの知恵比べ、すなわち勝負なのである。


「この陣を突破する方法は三つ。一つ目は、どれかの門に全員で入り、突破すること。二つ目は、全ての門に一人ずつ送り込み、残りの全員で坤捌(コンバツ)の門を抜けること。三つ目は複数人のチームを組ませて、采配した一人だけが最後の門を抜けること、だ」


 最初の采配はここである。


 全滅のリスクが上がる代わりに『無事に通り抜ければ被害0』の可能性もある選択を取るか、少人数を切り捨てて大多数を無事に通す選択を取るか、自らだけが確実な利益を取り、残りの門に通る人員のリスクも極力減らすか。


「一番の愚策は、最後の策だ」


 人という個人に焦点を置くのであれば、最後の策は無しではない。

 が、采配をした者だけが利益を取る、という部分はその後の士気において有害となり得るし、門を突破できなかった時は一人を送り込むよりも損失が大きい。


 大局的に見るのであれば、一点突破の方がまだマシな策であると言える。

 そして戦力をコマと見るのであれば、正解は一人ずつ送り込み残りが突破する方法以外にない。


「じゃ、一点突破か個人を送り込む方法を取るの? 私としては、個人を送り込むやつはあんまり好みじゃないけど」

「いや」


 クトーは、レヴィの問いに首を横に振る。


「複数人を送り込む方法を取る」

「愚策なのに?」

「それが愚策であるとするには、実は前提条件が一つある。……『情報が全くない状態であること』だ」


 先に何が待っているのかを知らないのなら、当然ながらリスクは跳ね上がる。

 しかし、知っていれば個別対応の戦法に変わる。


「全ての相手の手札に対して有利をぶつけられるのであれば、複数人を送り込む方法はむしろリスクを下げる」

「……つまりクトーは、この扉の先に何が待ってるのか知ってるってこと?」

「ある程度はな」


 〝采配八計の陣〟は、何も知らない者にとっては凄まじい脅威だ。


 しかしその遊戯の内容をお互いが知った上で手札をぶつけ合うのであれば、ゲームになる。

 

「相手は、おそらくクトーさんとの知恵比べを望んでいるのです。……自らの采配によって仲間を失えば、より心をえぐれると思っているのでしょうね」


 微笑んだまま冷たく目を光らせたミズチは、相手の狙いを口にした。


 しかしその憶測に間違いはないだろう。

 魔族というのは、そういう連中なのである。


「望むところだ。……扉の先に待っている敵を逃す可能性がある以上、一点突破の選択肢だけは元からない」


 ーーー相手の策を真正面から受けて立ち、その上で叩き潰す。

 

 クトーは〝采配八計の陣〟の内容に関して、思考を巡らせ始めた。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] さあ、これからは知恵比べの時間ですね。
[良い点] 相手さん 楽しんでますな こりゃw
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