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閑話:クトーさんの日常その⑦


「解毒は効いたようだな」


 憲兵所の地下室で。

 セイの甥っ子だという獣人から服従の証が消えたのを見て、クトーはうなずいた。


「こちらの言っていることが分かるか?」


 呼びかけに対して、口に(くつわ)を嵌められている狼獣人の青年は、敵意に満ちた目をこちらに向ける。

 先ほどまでのただ暴れていた様子から一転して大人しくなっていた。


「セイ」


 後ろで待っていた仲間に呼びかけると、彼は一歩前に出てニヤリと口の端を上げた。


「よう、久しぶりだな。ダンディな俺サマの顔を覚えてるか?」

「ゴ!?」


 突然現れた見知った顔に理解が追いついていないのか、青年は大きく目を見開いた。

 落ち着いた彼の拘束を解くと、事情を聞く。


 どうやら、森で木の実を集めていたところを突然襲われたらしく、小瓶から無理やり薬を飲まされたところ何も分からなくなった、ということだった。


 相手は普通の冒険者に見えた、ということで、浄化ではなく解毒が効いたのはビースラッカー由来の薬物だったからだろう。


「瘴気の影響までは読めないが、おそらくさほど心配することはないだろう」


 あらかた冒険者の風体などを聞き終えてパーティーハウスに戻ったクトーは、セイにそう告げた。

 もし影響が消えていなかった場合に備えて、もう一晩、憲兵所に留置することを了承してもらった上で明日以降に獣人領へ移動する手続きを行う。


「罰はいいのか?」

「もともと、この程度の盗みはそんなに重い刑罰を架されない」


 実際の損害も出ていないし、一晩留置されれば十分である。

 クトーは、パーティーハウスの大部屋に集まったメンバーの顔を見回した。


 リュウが、長机に背を預けて腕組みをしたまま問いかけてくる。


「で、どう動くんだ?」

「ミズチから連絡はなかったか?」

「書簡ならそこにある」


 目を向けると、魔法紙で作られた小さな巻物が長机に乗っていた。


 特定の起呪で開封して、何度でも中身の書き換えを行える高価なものだ。

 宛先はここの住所になっているが、名前がブルームになっていたので、彼に目を向けた。


「いくら相手がレイドだって言っても、ギルドの依頼人に関する情報開示を勝手にやるのはまずいでしょう?」


 憲兵長の依頼でギルドに請求した、という建前にしたのだろう。

 ブルームは封を解呪するとすぐにこちらに巻物を戻した。


 開けて中身を見ると、ミズチの字で依頼人に関する情報が書かれている。


「差出人の肩書きは、魔物の革細工商人……依頼書は、獣の皮を収集する常時依頼として出されているようだ。規約制限として『生きたまま指定の倉庫へ納入』とあるな」

「依頼内容に不審な点は?」

「ない。が、狩場に関する指定がある」


 クトーとリュウのやり取りに、誰も口を挟まない。


「狩場?」

「獣人領の近くで獲れたものに限る、とな。指定されている魔物自体はもっと近場でも生息しているはずだが」

「産地で価値が変わる類いの魔物なんじゃないのか?」

「そんな話を聞いたことはないな。注釈には、二足歩行でどう猛、若いほど高く買い取る旨と、鎮静化に必要であればその為の薬物を支給する旨が記載されている」

 

 それを聞いて、リュウは軽く鼻息を吐いた。

 大体の事情はすでにメンバーにも説明してあるので、全員冷たい顔をしている。


「つまり?」


 レヴィが険しい顔でそう問いかけてきたので、クトーは巻物を巻き直しながら答えた。


「限りなく黒に近い。ーーーこの件に関して調査するべき点は4つだ」


 クトーは、メガネのブリッジを押し上げる。


「1つは、裏の依頼に詳しい情報屋から『特定の符丁』で労働者を派遣する者がいないか、を聞き出すこと。依頼人に繋がる情報があればビンゴだ。2つ目は同時に、人身売買等のオークションが開催されているかどうか」

「3つ目は?」

「実際にこの依頼を受けて、薬物が受け取れるかどうかを探りに行く。ギルドが見張られている可能性、こちらの顔が割れている可能性を考慮して、間に一人、信頼できる冒険者を挟む」


 そして最後の1つは、とクトーはワンクッション置いて全員の顔を見回した。


「街中をくまなく捜索して、労働に従事している獣人の頭に、服従の証があるかどうかを調べることだ」

 

 全員、最後の一つに嫌そうな顔をしたが、誰かがモノを言う前に言葉を重ねる。


「裏取りにはジグとルーが行け。残りは公平にジャンケンで決める。勝った奴が人を雇って依頼を受けに行く。リュウはハウスで待機。残りは情報が得られたら逐一報告しろ」

「お前は?」

「この後は、会合に関する話をホアンと詰める予定がある。ーーー始めるぞ」


 クトーの号令に、全員が輪になってジャンケンをし始めた。


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