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キスから始まる物理系女神様の世界更生伝説  作者: 朝月ゆき
【第二章】
30/41

〜冷雨(5)〜《十裏神》と《銀》

更新が遅れてしまい、申し訳ありません!

土曜の分の更新は、火曜日に回します。

すみません!!


ーー異世界。

戦いに溢れ、血に染まるこの異世界。

あらゆる神の思いが交錯し、複雑に絡んだこの異世界。


この世界は様々な色で織り出されている。


怒りが世界を赤く染め。

悲しみが世界を青くする。


喜びが世界を黄色に染め。

憎しみが世界を黒くする。




そんな異世界をかつて、女神は愛した。

そんな異世界をかつて、女神は捨てた。


そんな異世界に今、女神は蘇った。





*******





そこは、世界の中心。

果ての見えない高く大きな一つの塔が空を貫き、その下には石造りの城のような物が聳え立っている。城を環状に囲む様に広がっているのは、赤や青、緑や黄など様々な色をした木々。

そして、木々の根元に緩やかに流れているのは白の橋がかけられた小川。それは、青く澄み渡る空という名の地に咲く光の花を映し、穏やかな音を立てている。

木々や小川の上をゆったりと過ぎるのは自然の囁き。木々の葉を揺らして遊び、小川を時々小さく波打たせ、楽しそうに世界を巡り行く。


木と水と風が生きるそこは、世界の中心となっている神達《十裏神》の庭だ。



*******




「では、本当にあの女神は蘇ったのか?」


「ええ、そのようですわ。かの女神の【気】が濃厚に世界に漂っていますもの。おかげでこの世界の神達が皆騒いでいますわ」


艶やかな布に身を包んだ女が真っ赤な唇に袖を当て、艶然と笑った。

尋ねて来た男は、色香に満ちるその微笑みを見ても何も動じることはなく。


「ーー想定外だったな。あの女神が蘇るとは。また面倒な世になるぞ」


妖艶な女と言葉を交わす黄金色の髪をした男がうんざりした顔で呟き。


「ふふ、面倒な世界なんてもうすでに始まっていますわ。私達(わたくしたち)に従わない神達、私達、そしてかつての世を荒れ果てさせた愚かな【銀】達。三つ巴の争いはかの女神の再現でさらに激しさを増していくでしょうね」


袖口に備え持っていた鮮やかな扇を取り出した妖艶な女は、優美な動きでそれをゆっくりと動かす。


「かの女神の復活は【黄金の知】の仕業だな。……余計なことを。異世界への門を潜り、かの女神をこの世界に召喚するとは。つくづく俺たちの邪魔をする奴だ」


「ーーでも、そのおかげで面白くなりそうだね」


苦虫を噛み潰していた金髪の男に、両腕を後頭部で組み、大理石のテーブルの上に行儀悪く脚を伸ばしている十三歳くらいの少年が笑んだ。

男の鋭い眼差しが少年に向けられる。


「どういうことだ」


「うーん?どういうことって、こういうことだよ。あの女神様がこの世界に復活したのなら、闇神とか時神ーーそう、【始まりの五神】が何としてでもあの女神様を手に入れようと躍起になるから。彼らの【目的】のためにね」


「…ふ、所詮あの女神は奴らにとって利用するだけの存在だからな。不敬なこと極まりないな。奴らの本当の(・・・)女神を取り戻すとはいえ」


腕を組み、男は嘲るように笑った。

そんな彼に対し、妖艶な美女は真紅の扇を乱暴に閉じ、苛立ちを孕んだ目を向けた。


「私の大切な女神を侮辱しないで下さる?利用だなんて、この私がさせませんわ。利用するという神がいるのなら、私が殺して差し上げる」


「…お前は、そうか。お前にとってあの女神は命の恩人だったな。安心しろ、俺達はあの女神を利用したりなんかしない」


「なら、【始まりの五神】に奪われる前にあのお方をここに連れてきて。本当は私がお迎えに行きたくてたまらないのだけど、どうやらすでに、闇神や時神…そして森神までもが動き出しているようだから。生憎、私では奴らに(かな)いっこないわ。悔しいけど」


美麗な顔を悔しげに顰めさせ、美女は腰掛けていた椅子から立ち上がった。そして、他の者達を残してその場に背を向けた。


「おい、光神(こうじん)!お前、どこに…」


「どこにって、もちろん【女神の塔】ですわ。私の女神が帰ってこられるのですもの。お迎えの準備をしなくては」


美女ーー光神は、男を胡乱げに振り返った。そして、整った赤い唇を皮肉げに歪める。


「…森神に力を奪われた私に今、あの方の為に私が出来ることはそれくらいしかありませんもの」


そう言い残し、光神はその場を後にした。


残された者達は。


「力を奪われた、ねえ…。まあ、光神のように力が衰えた神は多いよね。現に、僕たち《十裏神》の中にも、そんな神が数人いるしね」


はあ、と億劫そうにため息をついた少年の言葉に男は憎らしげに顔を顰め、舌打ちをした。


「ああ、それは間違いなく奴の仕業だ。【銀】……奴がこの世に現れてからこの世界は混沌に陥った。五百年前の戦いで、この世界…特にこの国【花謳】は死にかけた。そこまでこの国を追い込ませたのは、【銀】、【始まりの五神】、そして【命神】だ」


「まあ、僕たち《十裏神》も戦ったから、僕たちのせいでもあるんだけどね?ーーだけど、【三神】の罪の重さにはかなわないよ。あの神たちは、僕たちの争いごとに干渉しちゃいけないのに」


無邪気に笑んだ少年の目の奥に、冷たい光が現れる。

男も、彼の心に植え込まれた激情の種を芽吹かせた。


「ーーどいつもこいつも私情に翻弄されて、ことごとく世界を混乱させる。俺たちが決めるはずの世界の運命が、奴らによって塗り替えられていく」


「ほんと、みんなうざいよね。少しは黙ってて欲しいよ」


そんな二人の元へ。


「ーーですが、あの女神の再来でこの世界は変わりますよ」


鈴のような声がその場に落ちてきた。

目を微かに見張らせた二人の前に姿を見せたのは、銀髪に柔和なシルバーグレーの目をした長身痩躯の青年であった。

優しげな面はひどく整っており、見た者を惑わせるほどだ。

だが、彼の出現に男は憎悪を、少年はあどけなさを一切なくした完全な無の表情を浮かべた。


「きさまーー【銀】!!どうしてここに現れた!」


美貌の男ーー【銀】は男であるのに軽やかなーーそれこそ、鈴が鳴ったような笑い声を発した。

そんな彼に男は激昂するばかりだった。


「何がおかしい。答えろ!」


「そう激情的になられると面白すぎて余計に答えづらいですね。ふふ、本当にその滑稽な顔は笑えますね」


「なんだと!?」


ますます感情を昂ぶらせた男に静止を促すかのように、彼の前に少年が歩み出た。


「何か用?あるなら、さっさと済ませて欲しいな。ここはお前が足を踏み入れていいところじゃないからね」


「ふふ、相変わらず冷静ですね。幼げな見た目に反し、古くから神として生きてきた故ですかね。流石です」


「それはどうも。で、結局何しに来たの?」


男が少年を後ろに下がらせようと少年の華奢な腕を掴んだが、少年は彼の鳩尾に拳を入れ、気絶させた。そして、少年の二倍はあるだろう男の体躯を容易に片腕で受け止め、転移の陣を虚空に描き、男を転移させた。


「ーーあなた達……特に光神にとって有益な情報をお教えしようと思いましてね」


「ふーん、何?」


【銀】の唇が弧を描く。

少年はその動作に目を細めた。


「異界より再来したかの女神はとある二神と【陽月の契約】を結んだようですよ」


その言葉に、少年は著しい反応を見せた。

少年の目に苛烈なまでの色が宿る。


「…なんだと?」


「結んだ神は闇神と森神。ふふ…どうやら、かの女神は二神の【花嫁】になってしまったようですね」










明日、【腹黒乙女と12の時代勇者様】

明後日(すみません、10月10日になります)、【世界最弱の竜は愛妻のために世界最強の竜に牙をむく】

火曜日、【キスから始まる物理系女神様の世界更生伝説】を更新します。

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