表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キスから始まる物理系女神様の世界更生伝説  作者: 朝月ゆき
【第一章】
21/41

〜恋雨(21)〜筆記物理攻撃と現れた影

襲いかかってきたのは、神殿の床を貫いて這い出てきた無数の植物達だった。

それらは、明確に時神を標的にしていた。数え切れないくらいの蔓が時神を襲いくる。

それを、時神は美耶を片手で抱き上げたままかわし、軽やかに宙で舞う。空中で小柄な体を回転させ、どういう原理なのか、何もなかった右手に長剣を出現させた。そして、攻撃してくる蔓を鮮やかに切り裂く。


(うわわわわわぁっ!!)


目が回る。

時神、身のこなしはもはや破格に違いないのだが、現役女子高生かつ運動神経皆無の美耶の気持ちも考えてほしい。


「うほほほおぉっ!!!!」


また、回転。それが華麗なのは見事なのだが、おかげで美耶の口からは変な声が漏れてしまった。


「舌を噛みますよ、命神。どうか大人しく僕に守られていて下さい」


頼もしい時神の言葉。

普通ここは、はい(キュン)と言ってトキメク場面なのだろうが、生憎、相沢美耶という女はそんな人間ではないのだ。


「わ…わ、たし!……おおおうっ、樹峯と、話したいんだけど!!」


危ない。舌を噛んでしまうところだった。


「ーー森神とですか?彼のあなたに対する馴れ馴れしさと強い執着から、あなたと彼が他より親しい仲だという事が察せられますが……。すみません、それは叶えられません」


必死に訴える、腕の中の美耶を時神が一瞥し、すぐに前へと視線を戻す。


「どうしてっ!!」


「森神と僕達は、敵対関係にあるのです。だから、せっかく得ることができたあなたを彼に返すことは無理です」


なんて、身勝手な。

ぐるぐる目が回る中で、美耶は心の中でそう吐き捨てた。


「そんなこと、どうでもいい!私と樹峯は、仲いいんだから!!下ろして!」


「不可能です。あなたを下すことも、彼に渡すことも。言ったでしょう?僕が、誰よりもあなたに会いたかったと」


ーー不意打ちだった。

こちらを真っ直ぐに射た紫水晶色の目。その瞳に、一瞬、美耶を望む色がちらついた。まるで、恋い焦がれるような、熱の色。

こんな時だというのに、思わず頬に朱を散らしてしまう。


「ーー闇神も、あなたを解放する気は毛頭ないでしょう。あれはどうやら、あなたを目的の為だけでなく、とある感情を抱いてしまったようですから」


と、どこか面白く無さそうに眉根を微かに寄せた時神は、目線を今度は後ろに投げた。

美耶も彼の目先を、首を捻らせて見つめた。


そこには、時神に襲いかかったはずの樹峯と対峙している闇神がいた。

どちらも、たいした怪我を負っていないことは遠目からでもわかった。ーーだが、互いを見据えるそれぞれの目は危険なものを宿していて、全てを破壊しそうな凶暴さがあった。


「ーー闇神がどうやら、僕の代わりに彼を沈めてくれるそうですね。まあ、闇神は武神でもあった男ですから負けることはないでしょう」


時神の落ち着いた声が、遠かった。

美耶が全ての感覚を集中させたのは、背後でにらみ合う二神。森神と闇神。

かれらから放たれた言葉が風に乗って聞こえてきた。


「邪魔だ。今すぐ消えろ、闇神」


「邪魔はどっちだ?森神。やっと、命神を保護した俺からあいつを取り返そうと言うのか?愚かだな」


「保護だと?捕らえた、のだろう?私から彼女を奪った、傲慢な神。憎くてたまらない。今こそお前を殺す。あの、汚らわしい手で彼女に触れるという愚行をおかしている時神も」


「ーーあいつにとって、お前は敵だろう?今はどうやら、あいつはお前を好ましく思っているようだが。まあ、あいつが記憶を取り戻せば、お前に抱く感情も変わるだろう。本来、お前に持つべき感情をな」


冷ややかな嘲笑が、闇神の口許に刻まれる。指の関節をパキリと数度鳴らし、闇神は片手に漆黒の光を生み出す。

すかさず、以前体験した事が思い出させられた。

素肌を撫でる、静かな闇の風。静かなのに、すさまじい力を感じる。


「まったく、どれだけこの神殿を壊せば気がすむんだろう」


はああ、と気鬱なため息を吐いた時神。頭を片手で押さえ、恨みのこもった目で、にらみ合う二神を見つめている。


「……また、時戻しをしないといけないなぁ、こらは」


乾いた笑い声をこぼし、時神はしつこくまだ襲いかかってくる蔓たちを切り裂いていく。


「時神……私をあの二人の所に連れて行って!!」


「え、ですから、無理だと……」


「いいからっ!!」


「だめです」


この、非情薄情馬鹿糞神!!と、あやうく叫んでしまうところだった。

なんとか、口には苛立ちを、出さなかったものの、彼の華奢な腕に爪を立ててしまった。


「もう、こうなったら!」


「!?」


気づけば、手が勝手に自身のスカートのポケットに入っていた。

中をゴソゴソと動かすと、ある物を掴んだ。


「こっちがいけないんなら、あっちが来ればいいのよ!」


と、手に収まっていた物を全力で投げた。

そう、学生必須の消しゴムとシャーペンを。今にも世界を殺しそうな森神と闇神の間へと。特に、闇神寄りに。


(名付けて、筆記物理攻撃!!)


ヒュンと勢い良く飛ばされた消しゴムとシャーペンは、しっかりと二神の間を過ぎた。

はっ、と二神が自分たちの前を通り過ぎた物を目で追い、そして。


「美耶さま…?」


「美耶?」


やっと、二神の意識をこちらに向かせることが出来た。

二人とも、虚を突かれた目をして美耶を振り返った。


「……うわ、なんてことを。命神。せっかく逃げていたのに」


時神がやっちゃた、と苦しげに端正な顔を歪めたが、そんな事に美耶は構わず。


「ちょっとーーっ!闇神、私は樹峯と話がしたいの!大人しくそこからどいてよ!!あと、樹峯。とりあえず落ち着いてよ!私は大丈夫だから!」


そう叫ぶと、二神は張り詰めていた雰囲気を一瞬霧散させーー樹峯が、瞬時に床を蹴った。


「ちっ、やっぱり来たよ!」


心底嫌そうな顔をした時神は、美耶を抱え直し、宙を飛ぶ速度を上げた。


「時神、急げ!!」


焦燥を孕んだ闇神の声。

彼は、時神を急かし、彼自身も駆け急いだ。


(一体、これ、どんな状況なのよ!!)


凶暴さが増した蔓を切り裂きながら、時神は神殿の入り口の方へと急いだ。


「なにこれ、ほんと!」


再び回り始めた目に気分を悪くしながらも、落ちないよう、必死に時神の首に腕をまわした。


あと少しで神殿の外に出ようとした時だった。



ーーゾッ。



得体の知れない気配が、美耶を襲った。

威圧的で。冷たくて。怖くて。とても、そんな言葉で言い表せない、なにか。


一瞬にして、悪寒が走った。どっと、全身から冷や汗が吹き出る。


「……ち、まさか奴が来るなんて」


憎憎しげに口許を歪めた時神の美耶を抱く腕に力が込められる。


刹那。


視界に、黒が入ってきた。

全てを覆い尽くす黒。どんな色をも塗りつぶす黒。あらゆるものを喰らい尽くす黒。


「ーーお久しぶりですね、時神」


それは、影のような男だった。


時神の纏う気配が一転した。

彼の全身から溢れ出たのは、激憤。憎悪。殺意。


「幻影……っ!!」


男が、嗤った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ