〜恋雨(20)〜閉じ込められた彼女と王子な神
なぜか、ギャグ要素が強くなってしまいました(あせり)。
ーーそれは、視界を奪うには十分な攻撃だった。
こちらを圧倒する眩い光が四人を襲った。
「うわ……っ!!」
「…ちっ」
反射的に自分の目を手で守ろうとした美耶を、すかさず、闇神が庇うように大きな手で美耶の頭を抱え込んだ。
ーー刹那。
「そこにいる事は分かっているんだぞ」
全員が光に襲われる中、闇神が冷ややかな声音でそう言い放った。
え…、と彼が言った事の意味がわからず、咄嗟に顔を上げた時だった。
キィィンっ、と間近で刃物がぶつかり合う音がした。
耳元で聞こえた衝撃音に、心臓が跳ね上がってしまう。
ーーと、その時、気が付いた。
(……え?)
なぜか、伏せていた瞼を持ち上げる事ができたのだ。
神殿内は光に支配されていたというのに。なぜか、美耶の身辺だけが、異常に暗かったのだ。
それもそのはずだった。
美耶を包むかのように、闇神が操る黒の瘴気が彼女の身辺に漂っていたのだから。
「何これ……っ!?」
一体、いつからこんな状態になっていたのか。目を太陽のごとく輝きを放っていた光から守っていた間に、何があったというのか。何もわからない。
また、完璧な暗闇に抱かれているため、目も役に立たない。
だから、今のこの状況を理解するのは不可能だった。
ーーだが。
(音は、遮断されていない)
ついさっき、刃物がいがみ合う音が耳朶を打ったのだ。間違いなく、聞こえた。
ならば、隔絶されたあちら側に耳を傾けるしかない。
そして。
「ちょっとーっ、こんな所に私を閉じ込めてどういうつもりなのよーっ!てか、あなたたち、何してんのよ!!説明しなさいってば!」
全力で、喉が焼けそうなくらい大声で叫びごえをあげた。
隔離された向こうの音が聞こえたのだ。ならば、こちら側の声も、聞こえるはず。
ーーと、決して、冷静にそう判断したうえで叫んだのではなく、激情のままに大声を散らしたに過ぎなかった。
勝手に閉じ込められた事と、そうされる意味がわからない事に対する怒りがその行動に出ていた。
瘴気を取り払おうと、両手で忙しくかき回すが。
「なんで、なにも変わらないのよー!てか、返事してよぉ!」
真っ暗の中一人、か弱い乙女にあんまりではないか。酷すぎる。
必死の叫びに、なにも帰ってくる気配はなし。ただ、聴覚を奪うような爆音がこの瘴気の向こう側から幾度も響いてきた。
一体、なにが起こっているというのか。
向こう側の現状が掴めないことに、しだいに苛立ちを覚えた美耶は、なぜか無意識に懐に直していたスマホを取り出した。そして、それをーー。
「このヤローッ!!」
と、女の子らしからぬ言葉を発すると同時に、瘴気に向かって投げつけた。
すると、それは、瘴気の中をすり抜けーー
ーードコォっ!!
見事に、向こう側で何かに当たった。
途端、呻き声が微かに聞こえた。
「……っ、痛っ!…どこからこんな物が」
苦痛が孕んだ声が、瘴気を超えた先にあった。
この声は、聞き覚えがあるーー。
「あっ、時神!?」
「えっ、その声は…命神!?」
惚けた声だったが、間違いなくその声主はあの少年神だった。
彼がこちら側に反応した事に深い安堵を覚えると、美耶は彼に訴えかけた。
「時神っ、なんか私変な所に閉じ込められているんだけど!この鬱陶しい瘴気は闇神のしわざだよね!?うん、絶対そうだわ。ねえ、あなたここから出してくれる!?」
「えっ、瘴気って……!僕にはなにも見えませんよ!どこにいるんですかっ!?」
「ええっ!?見えない!?なんで!この瘴気見えないの?あいつを体現したみたいに真っ黒いのに!?」
「ええ、はい。まったくそのような物は見当たりませんが……」
「ちょっ、あんの馬鹿神!!ほんとどういう事よーっ!!」
一体、どうしたという事なのか。
この闇の瘴気が、向こう側の時神には見えていないとは。
しかし、どうすればいいというのか。時神には何も見えていない……なら、この状況を打破するには。
(声で教えるしかない…っ!!)
美耶の声がどこら辺から聞こえてくるのか。距離を測ってもらい、彼女が閉ざされている所を探し当ててもらうのだ。
そう考え、大きく息を吸い込もうとした時だった。
「仕方ありませんね。命神、この場だけの時間を遡らせます」
「は…い?」
唐突に、時神が意味不明すぎる事を言い出した。
そして、彼の言葉を理解する間もなくーー
「ぎゃあぁぁ!?」
美耶を包んでいた黒い瘴気が、霧散した。
瘴気によって浮遊していたらしく、その瘴気を失った美耶の体は宙に投げ捨てられた。
そんな美耶を。
「ーーっと、大丈夫ですか?」
時神が抱きとめた。
いきなり宙に放り出されたために、目を瞑っていた美耶は、伝わってくる自分の体の安定感に瞼を持ち上げた。
途端、視界に、自分を難なく支える時神の端正な顔が飛び込んできた。
短い銀髪はなぜか、乱れていたものの、光を反射していてとても綺麗で、紫水晶の瞳はこちらを心配げに見つめているためか影が差していた。
美耶をお姫様抱っこする腕は少女のように細かったが、確かな力強さを感じさせた。
不覚にも、ドキリとしてしまった。
(こ、これは全ての女子が憧れるシュツエーションなのでは!?)
少女漫画や少女小説でしかありえないだろう、美形男子にお姫様抱っこされるというのは。
しかし、これは現実。
ーー呑気に浮かれてしまっていた時だった。
「ーー美耶様に触れるな」
時神の背後に、樹峯が現れた。
ラブは、あったのだろうか。




