三.大雨注意報 2
マーフィ
「ああ…俺が何をしてるかだったよな?
すっかりマオの話に夢中で忘れる所だったよ。
実はな《 都境 》を護る為の〈 結界 〉を張る事になってな……。
その手伝いに駆り出される事になったんだ。
人手が足りなくて、頼まれた宿題を持帰って、此処(家)でしてるのさ。
本当は、持帰りたくなかったんだけどな……。
実行日までに日数が無いから、仕方無いんだが…」
セロフィート
「〈 結界 〉…です?」
マーフィ
「ああ…。
半年前から極稀に〝 怪物みたいな動物を見掛けた 〟という噂話が〈 旅人 〉の間で流行っていてな。
つい最近も、此処(都)よりも離れた場所になるが『 怪物を目撃した!! 』って情報が入って来たんだ。
まあ、それが 一件,二件どころじゃないんだ。
未だ何処も被害が出てないって事で、念の為に『 被害が出ない間に〈 結界 〉を張っておこう 』って流れになったらしい。
≪ 都 ≫を怪物の類いから護る為に《 都境 》に〈 結界 〉を張るんだ。
≪ 集落 ≫≪ 村落 ≫≪ 町 ≫≪ 街 ≫には、他の〈 マギタ 〉が〈 結界 〉を張るらしい。
ああ…〈 マギタ 〉って言うのは〈 魔法使い 〉の略称な。
〈 素質 〉を持たない人達の事は〈 ノマ 〉と呼んで区別してるんだ。
《 神殿 》には怪物も近付かないらしいから、何か起きた時の《 避難所 》になってると聞いたよ」
セロフィート
「ははぁ…物騒です」
マーフィ
「だよな!
それに、今日みたいに大雨が降った後に、怪物の目撃が多いみたいなんだ」
セロフィート
「ははぁ…大雨の後です?
物騒です」
マーフィ
「確かに物騒だが≪ 都 ≫の中は安全さ。
二〇km先には《 都境 》の《 正門 》と、一〇km先には《 都境 》の《 中門 》があるだろ?
一五km先と五km先は《 中間地点 》が設けられているしな。
《 都境 》の壁は横に分厚くて、縦に高くて、頑丈に出来てるから簡単に突破は出来ない造りになっている。
≪ 王都 ≫で鍛えられた屈強の兵士達が《 都境 》を守ってくれている。
何も心配は無いさ」
セロフィート
「心強いです」
マーフィ
「ハハハ!
おっ、風呂を沸かしてから、三〇分経ったな。
そろそろ、風呂に入れるぞ」
セロフィート
「そうです?
御言葉に甘えて、お風呂をいただきます」
マーフィ
「どうぞ!
ゆっくり疲れを取ってくれよな!」
セロフィート
「はい」
マーフィと話を終えたセロフィートは《 洗面所 》へ向かう。
ドアに下げられているドアプレートを『 使用中 』に裏返し《 洗面所 》の中へ入った。
──*──*──*── 洗面所
借り物の衣類を脱ぐと、脱いだ衣類を衣服専用の青色の籠の中へ入れる。
棚に置かれているボディタオルを手に取るとセロフィートは《 浴室 》へ入った。
──*──*──*── 浴室
──*──*──*── 洗面所
入浴を済ませたセロフィートは、使用済みのボディタオルを、ボディタオル専用の緑色の篭の中へ入れる。
棚に置かれているフェイスタオルを使わせてもらい、濡れた長い髪を拭くと、フェイスタオルに髪を包み、頭の上で巻く。
同じく棚に置かれているバスタオルを使わせてもらい、濡れた全身を丁寧に拭く。
衣類を着終ると、髪を包んでいたフェイスタオルを取る。
セロフィートの髪は既に乾いていた。
使用済みのフェイスタオルとバスタオルを、昨日マオに言われた通りに使用済みのタオル類専用の黄色い籠の中へ別々に入れた。
洗面台に取り付けられている鏡で、簡単に身支度を整えたセロフィートは《 洗面所 》を出た。
ドアプレートを『 未使用 』へ裏返すと、セロフィートは《 台所 》へ移動した。
──*──*──*── 台所
セロフィート
「マーフィ。
お風呂をいただきました」
マーフィ
「疲れは取れたか?」
セロフィート
「はい♪
お蔭様です」
マーフィ
「そりゃ良かった!
もう 六時半になるからな。
そろそろ、マオが起きて来ると思う。
此処に居るとマオの邪魔になるから、話すなら場所を移らないとな!」
《 台所 》にあるテーブルの上を手早く片付けたマーフィは、〝 持帰って来た仕事 〟を両手に抱えて《 居間 》へ移動した。
──*──*──*── 居間
マーフィ
「此処(机の上)には置けないな……」
酷く散らかった机の上を見ながら溜め息を吐く。
取敢ず、両手に抱えている〝 持帰って来た仕事 〟を空いているソファーの上に置くと、机の上を片付け始めた。
セロフィートはソファーの上に置かれた〝 持帰って来た仕事 〟に目を向ける。
何やら文字が沢山書かれている。
文章にはなっていない文字は殆どが専門用語の様だ。
絵も描かれている。
魔法陣の類いだろうか。
マーフィ
「見ても何が書かれてるかチンプンカンプンだろ?
それ等はな〈 マギタ 〉にしか解読が出来ない〈 魔法 〉が掛けられているんだ。
〈 ノマ 〉には読めないんだ」
セロフィート
「〈 素質 〉…です?」
マーフィ
「〈 素質 〉ってのは〈 魔法力 〉の事さ。
〈 魔法力 〉を持っている人間にしか〈 魔法 〉ってのは使えない力なんだ。
〈 魔法力 〉を持っていると自然界の力の 一部を借りる事が出来る様になるんだ。
使い方を工夫すれば便利なんだが、悪用がは出来ないんだ。
便利なんだが、扱い方は難しいんだよ…」
セロフィート
「マーフィ…〈 魔法 〉の悪用は出来ます。
但し〈 久遠実成 〉のお力の 一部を御借りする〈 魔法 〉を悪用した場合、別の形に変わり発動者へ返って来ます。
その事を肝に命じて〈 魔法 〉を使う事です。
〈 久遠実成 〉から見た善悪と人間から見た善悪はと違います。
使いこなすのは難しい事でしょう…」
マーフィ
「セロの言う〈 久遠実成 〉ってのは…………〈 大陸神エルゼシア様 〉の事か??」
セロフィート
「……そうです」
マーフィ
「セロは〈 旅人 〉だったな。
セロの故郷では〈 久遠実成 〉って呼ぶのか?」
セロフィート
「……そうなります」
マーフィ
「へぇ。
同じ≪ 大陸 ≫でも場所に依っては呼び方も違ったりするんだな!
面白いな」
セロフィート
「はい。
面白いと思います。
マーフィ…〈 素質 〉を持っている事はどうして知ります?
自分で判ります?」
マーフィ
「いや、自分では判断は出来ないな。
≪ 都 ≫で暮らしている都民は《 神聖堂 》へ行けば〈 神力者 〉に視てもらえる様になってるんだ。
視てもらう前に申込む必要があるけどな。
年齢制限は無い。
マオを引き取った時、序に〈 神力者 〉に視てもらったんだ。
まあ、見事に〈 素質 〉は無かったよ。
マオの奴〈 魔法力 〉が無いって判って、ガッカリしてたよ。
半端無い落ち込み様だった」
セロフィート
「それは残念ですね…。
〈 魔法 〉が使えれば〈 守護衛士 〉のお役目にも役立てる事も出来たでしょうに…」
マーフィ
「そうなんだよな〜〜。
せめて〈 魔法 〉さえ使えてれば、俺も少しは安心出来たんだが…。
何せマオは──、男にしては背が低くて、小柄で、華奢で……≪ エルゼシア大陸 ≫には珍しい黒髪,黒瞳,童顔だ。
声変わりも済んでるのに高いしさ、男なのが残念なくらい可愛いもんだから、余計に心配心に拍車が掛かるんだ」
セロフィート
「ふふっ…マーフィの気持ちならワタシも少しは分かります。
見知らぬ男性に森の中へ連れ込まれてしまう程らしいですから」
マーフィ
「はぁあ?!
何だよ、マオの奴!
そんな事までセロにカミングアウトしたのか??
ハハハ!
余っ程だな!!」
セロフィート
「はい?」
マーフィ
「マオが其処まで気を許すなんてな……。
〈 吟遊詩人 〉ってのは凄いんだな…」
セロフィート
「そうです?」
マーフィ
「そうなの。
そういうもんさ」
セロフィート
「ふふっ…。
マオの口癖はマーフィの影響を受けているのですね」
マーフィ
「そうなのか?」
セロフィート
「はい。
そっくりです」
マーフィ
「ははは…こりゃ参ったな〜〜〜…」
セロフィートとマーフィが《 居間 》とは呼べない状態の《 居間 》で話していると、何処かのドアが閉まった音がした。
マーフィ
「おっ、マオが起きたみたいだな」
セロフィート
「一時間以上前に起きるのですね」
マーフィ
「そうだな。
料理には下拵えが必要だからな。
今日は何を食べさせてくれるんだろうな?
八時が楽しみだ」
セロフィート
「はい♪
ワタシも楽しみです。
マオが作ってくれたサンドイッチという食べ物は、とても美味しかったです」
マーフィ
「へぇ…昨日の朝食はサンドイッチだったのか?
随分と手のこんだ朝食だったんだな。
──嗚呼…俺は惜しい事をした!!」
セロフィート
「そうです?」
マーフィ
「まぁな。
俺は好きなんだけどなぁ……。
マオはあまり、サンドイッチを作ってくれないんだよ!
『 手間が掛かるから嫌だ! 』ってな。
『 食べたきゃ自分で作れ! 』とまで言うんだ」
セロフィート
「ははぁ…そうです?」
マーフィ
「──っと、出来ればずっとセロと話していたいんだが……、この仕事を片さないとな。
悪いな、セロ。
俺は部屋に戻るわ。
また、後でな!」
セロフィート
「はい、マーフィ。
また、後で会いましょう」
マーフィはソファーに置いた〝 持帰って来た仕事 〟を再び両手に抱える。
マーフィは、そのまま そそくさと《 居間 》を退散すると、自分の部屋へ向かった。
《 居間 》に残されたセロフィートは、空いたソファーの上に腰を下ろして座った。
入浴シーンに期待された方には残念な回でした……。
入浴シーンは、脳内でイメージしてください。