44 クエストの報酬と奴隷と優吾・アンナ
「やっと地上か」
そう言って、是認で地上に出た。太陽が真上にあると言うことはお昼ぐらいだろう。
「我が思っていたより、ダンジョンにはいなかったな」
「俺達は数ヶ月単位でいたんだけどな」
優吾はそう言って辺りを見回した。久しぶりの地上で太陽を眩しそうに見つめている。ダンジョンは明るいとは言え、太陽ほどの光源はないからな。優吾は空気を味合うように、深く深呼吸をすると。
「久しぶりの地上だーー!」
優吾は周りの目を気にせず、叫んで腕を伸ばす。
「これが地上」
アンナは周りの景色をキョロキョロと眺めて、空を見つめる。見るもの全てが初めて見るものみたいな反応だ。
「綺麗、優吾すごく綺麗」
「そうだな」
二人が感慨げに空を見上げているが、そんな二人をアルサートが突っついて、ギルドまで引っ張って行く。ゼノンも馬を引っ張りながら、冒険者ギルドに向かう。
「お帰りなさい」
エイミーが受付で本を読んでいたが、俺達に気が付くと本を片付けて、俺たちの対応をしてくれる。冒険者がいないから仕事も無いのだろ。
「後ろの二人は?」
「ダンジョンの中で出会ったんです。それとこの狂犬って知っていますよね? エイミーさん」
「ええ、知っているけど。それがどうかした?」
エイミーは狂犬の名前が出ると、さっきとは違い真面目な顔になる。そんなに狂犬とは危ない人間だったのだろうか?
「ダンジョンで会ったんですが……」
「あ、報奨金ですね」
「いえ、違うんですよ…」
アルサートがそう言うと四枚のギルドカードを出す。エイミーはアルサートから四枚のギルドカードを受け取る。そのギルドカードにはあいつらの血が適当に付着していた。それで全てを察したようだ。
「ま、まさかアルサートが?!」
「いや、あの俺は後ろにいる人たちが強かったからなんですけど。えっと狂犬に口封じで殺されそうになって殺しました」
アルサートが後ろにいるゼノンたちを見ながら苦笑いしている。ゼノンは特に気にせず腕組をしている。優吾とアンナは話を殆ど聞いておらず、周りを気にしている。正直落ち着きの無い感じだった。
「これがギルドか……」
「ガラスがキラキラ光っていますね」
優吾はギルドの内装やクエストが張り付いているボード眺めている。アンナはガラスの中に火を入れて、光源にしているランプを眺めている。
「後クエストの確認を」
アルサートがカバンを逆さにして、パイアの牙を出していく。エイミーが牙の状態を確かめながら
「……ちゃんと数はありますね。クエスト完了です。ギルドカード出していただけますか?」
そう言われると、アルサートとゼノンがギルドカードを差し出す。
「アルサートとそれとー」
俺はそこで気づいてしまった。ここで俺の名前も読み上げられたら、俺が高坂 一真だとばれるだろう。すっかり俺はその事が頭から抜けていたのだった。このままだと優吾に俺が一真だとばれてしまうだろう。
だけど時既に遅し、俺の名前が読み上げらー
「ゼノン……あれ? ゼノンって言う名前だっけ? と言うかあなた人の姿をしてなかったけ?」
ーられなかった。どうやらギルドカードには、俺の名前が記されてなかったようだ。どう言う原理か俺の名前ではなくゼノンの名前が読み上げられた。俺が安心してため息をついてると、ゼノンが話しかけてくる。
(良かったな、バレなくて)
(ああ、だけどなんでゼノンのギルドカードに……)
(ギルドカードは魔力で反応する、今は我が主体だ。魔力が我のものだからギルドカードも変わったのだろう)
(そうかもな)
俺はゼノンの推測を聞いて、納得する。帰りは魔物にやたら襲われた。多分俺のスキルが力を発揮して無かったのだろう。
「いや、我は最初からこの姿だが?」
ゼノンが誤魔化すようにそう言う。ゼノンは意外にポーカーフェイスで、これなら誤魔化せるだろう。正直ゼノンの方が目立つけどな。
「そ、そうですか、それは失礼しました」
エイミーは不審に思いながらも、名前はステータスカードに書かれているし、ギルドカードもしっかりとポイントが追加されている。これはクエストを受けるときにギルドカードを登録したことを証明している。自分の記憶違いと思うしか無いだろう。
「あとこれを換金したい」
エイミーにアルサートはあいつらから取ってきた魔物の遺体を見せる。あの狂犬が所持していたものは、取り敢えず剣などは優吾とアルサートが一部自分の装備にした。ゼノンは馬車と奴隷を持つことになった。装備の方が狂犬と言われ恐れられるだけあって、それなりにいい装備を持っているようだった。余った装備は後で売りに行く予定だ。正直馬車と奴隷はどこに売れば良いか悩んでいる。そこら辺は適当な人間に聞くしかないか。
「金貨13枚と銀貨70枚、それと銅貨15枚と言った所ね」
素材の鑑定が終わったのだろう。アルサートはお金を受け取ったのが、金属同士が当たる音で分かる。分かると言うのもゼノンの視線はアルサートに向いているのではなく、優吾が連れている女に向けているのだ。
(……ドラゴンでも人間の女に欲情するのか?)
(そんな事ある訳なかろう……一部のドラゴンを除いては)
(つまり自分は一部のドラゴンと)
(違うと言っている!)
ゼノンが翼を思いきっきり羽ばたかせて、否定する。ゼノンにとってかなり否定したいことらしい。
(じゃあ、なんでそんなにあの女を気にしている?)
(……あれは人間じゃない。人間特有の匂いがしない)
ゼノンは喉をグルグルと唸らせながら答えてくれる。俺の目から見ても姿は完璧な人間だと思うのだが、どうやら違うらしい。
(じゃあ何だって言うんだ?)
(分からん、色々な匂いが混じっているあれは)
ゼノンが鼻にシワを寄せて答える。長い間生きえいるゼノンだが、初めて嗅ぐ匂いの混じり方が不安で仕方が無いようだ。
(一体どんな匂いが混ぜってるんだ?)
(魔族、獣人、吸血鬼、エルフ、人間だ)
(でもどう見たって、あの女にはケモ耳どころか、モフモフさえないぞ。尖った耳でもないし。ハーフとかそう言うじゃ無いのか?)
(だとしたらいくつもの種族の混合だ。そんなに交じることは希だぞ)
(…まあ、そうだよな)
確かにゼノン言う通り、それだけの種族が交じり合うことは稀だろう、だけど……
(それじゃ、何なんだ、あいつは?)
(我もそれに頭を悩ましている。高坂、知り合いなのだろう? そう言う知り合い知っているのではないか? )
(俺たちの世界に、エルフとか吸血鬼なんてファンタジー生物はいない)
それに優吾はダンジョンに落ちてから一度も外に出ていないという事になる。 そこから考えるとこの特殊な女にはダンジョンで出会ったことになる。というかこれしか無いだろう。優吾の言ったことが本当ならだけど。
「よし、終わったよ」
依頼完了と同時に先ほど換金した金で、二人はギルドカードを作ったようだ。その時にエイミーがアンナのステータスカードを見ると驚いたことが息遣いで分かるが、それ以上アクションを起こさずに、アンナにステータスカードとギルドカードを返す。アンナと言う女のステータスが凄いのだろう。無言で氷の魔法を使った所を見ると、魔法の素質は高そうだと言う事が分かってはいる。あれだけの魔法を無言で使ったんだ。膨大な魔力と素質を持っているに違いない。
そんなことを考えていたら、ゼノンが思い出したかのように、エイミーに声を掛ける。
「何です?」
「ここら辺で奴隷や馬車を売ることが出来る場所はあるか?」
「え~っと、たぶんもう少ししたら戻ってくると思いますよ?」
「戻ってくる?」
「はい、ゼノンさんが知っている通り、緊急クエストで冒険者が出て行きましたが、それと一緒に商人も出て行ってしまって」
たぶん、緊急クエストと言うことは物資・武器・奴隷などが売れるのだろう。その膨大な利益を生み出すので、殆どの商人が出て行ったのだろう。
「つまり当分の間は我自身で面倒を見なければいけないという事だな」
「そうですね、そう言う事になります」
正直あの少女の面倒を見ることに、俺もゼノンも消極的だ。
(馬車の方は宿で見てもらえば大丈夫だな)
(確かに宿には馬が置いてあったな)
「ここで解散にするか?」
アルサートは大金が入った袋に頬ずりしながら言う。久しぶりの大金何だろう。だけどゼノンが待ったを掛ける。
「何だよ?」
「我から取ったお金を返してもらってない。今回のお金の半分は返済に充てるぞ」
ゼノンはそう言うとアルサートが何か言う前に袋を取り、先ほど聞いいていたお金の半額を自分の袋に入れる。
「おい、ダンジョンに行けばとったお金はチャラだってー」
「我はそんなこと一度も言ってないぞ」
(俺もな)
「全額取らないだけありがいと思ってくれ、それに稼ぐ力はこちらで用意しているのだぞ?」
ゼノンはアルサートが持っている袋を指さしながら言う。アルサートは少しの間、昨日の記憶を探って、昨日俺がどのような発言をしたのか思い出しているのだろう。
「ちっ!」
小さく舌打ちをすると、バツが悪そうに視線をずらす。自分が悪いことをしたと言う自覚はあるみたいだ。正直半分でもかなりのお金があるから大丈夫だと思うがな。
「そう言えば、あなたたちはどこに住んでいるの?」
アンナが俺たちのやりとりに意を返さず、質問してくる。
「宿だ」
「スラム街」
「だって、ユウゴ」
「ここら辺で今持っている所持金で出来るだけ長く滞在できる場所はあるか?」
アンナの質問では優吾が聞きたいことが聞けなかったようで、優吾が改めて聞いてくる。優吾は長期間この街に滞在するみたいだ。正直俺にとって、良い知らせとは言えないだろう。
「一番安い宿は冒険者ギルドの左二件先にあるぞ」
「そうか、ありがとう。じゃあ、明日もダンジョンに入るのか?」
「ああ、そのつもりだ」
俺が答える前にアルサートが答える。正直俺は心のなかで額を叩いていた。
「俺たちも同行させてもらう」
優吾の中では決定事項なようで、それだけ言うと冒険者ギルドから出て行く。
「お前、また面倒なことをっ」
俺の心の言葉がゼノンの口から思わず漏れてしまう。当分の間は俺はこの姿で出歩かなければならない。
「いや、その悪かった」
「もういい、全く」
俺はそれだけ言うとゼノンの中に引っ込んだ。正直ここでこいつに文句を言っても仕方なので、諦めた。
(一真)
(なんだ?)
(帰ったら、買ったハチミツ菓子食べていいか?)
(そんなことか、好きに……いや、色々終わったらな)
ゼノンが俺の言葉を聞いて鼻息荒くガッツポーズしている。昨日は色々忙しくて食べる時間も無かったからな。
俺達はその後、解散して、俺は自分の姿に戻る。馬車の動かし方は分からなかったが、奴隷に動かすように命令したら、馬車の椅子に座って、自由自在に馬を動かしている。正直助かっている。
宿についてから、宿の主人に相談したら無料で面倒を見てくれるそうだ。金がかからなくて良かった。
「奴隷は宿には上げて欲しくないのだけど」
「どうしてだ?」
「その匂いと汚れで宿を上げるのは……」
宿の主人が言うように、近づいてから匂いがしていた。この状態で宿に入れるのは、他のお客さんにも迷惑が掛かるだろう。
「取り敢えず着替えと、こいつの体を洗い流せる場所はあるのか?」
「そうですね……着替えは私たちの方で、古着で良ければ用意しますよ」
「助かる」
「お風呂は裏に井戸があるから、体を洗えます」
「分かった」
俺は主人に言われたとおり、奴隷をつれて井戸まで連れて行った。体を洗わせる。石鹸なんて贅沢なものは用意されてなかったから、水洗いだ。外は水洗いをしても風邪をひくほど寒くは無いので、洗わせても大丈夫だと思う。
背後で水がバシャバシャと水が地面を打つ音がする。そこから体をこする音。石鹸が無いが、体の垢を体落とすスポンジみたいなものはあるのだろう。俺の特に何もすることが無いからだろう、その音に自然と意識が集中する。片足を上げて、足の裏を洗うのが気配で分かった。だがそこで突然俺に仕切り板が俺に向かって倒れてくる。
「おい!?」
俺は突然のことで驚いて倒れてきた奴隷を見る。奴隷が突然こちらに倒れて仕切り板と一緒に倒れている。
「気を失っている?」
(たぶん録に食べていなかったのだろう。腹の減りすぎで気を失っている)
確かにゼノンの言う通り、脇腹には骨が見えてる。確かにこんな状態では倒れてもおかしくはないだろう。
「起きたら何か食わせないと、倒れないように」
ため息混じりの俺の発言に、ゼノンが頷く。
「取り敢えず、こいつの体最後まで洗おう。幸い体は洗ってあるから、頭を洗うだけだ。ゼノン手伝って」
(分かった)
俺はそう言うと、自分の服も脱いで裸になった。このまま体を洗ったら自分の服まで濡れてしまう。俺は来ていたローブを脱いで裸になる。奴隷の体を寄りかからせて、頭を洗う。ゼノンには横からシャワーのようにして、水を出してもらう。俺はその奴隷の頭を洗い流す。長いこと洗っていなかった髪は、ボサボサで指に引っかかり、洗うのにものすごく苦労する。
「くっそ、面倒だな」
俺はそう言う指先をカミソリのようにする。これは自分の中に吸収している魔物の鎌だ。俺はその鎌で長い髪をバッサリと切り落とした。
「これで洗い易くなった」
俺は短くなった髪をわしゃわしゃと乱暴に洗った。髪が短くなった分、髪は洗い易くなった。髪の先の方が傷んでいたので、その部分が無くなったからだろう。切った髪が俺と奴隷にくっつくが、後で洗い流せばいいと考え、気にせず洗う。他人の頭など洗ったことは無いが、こんなもんだろうと適当に洗う。髪がすんなり指を通すようになるのを目安にして洗う。前髪、後ろ髪、耳の後ろ、即頭部を順番に洗っていく。
「つ、疲れた~。他人の頭を洗うのはこんなに疲れるのかよ」
締めにそう言うと自分の体についた髪を洗い流すために、俺も頭の上から水を流していく。体のついていた髪を洗い流すと同時に、奴隷が目を覚ます。
「起きたか? さっさと俺から離れろ」
俺はそう言って体を離すと。奴隷が目を白黒させる。そして俺の存在に気づく、そして自分の姿、さらに俺の姿を見て悲鳴を上げて、俺のことを突き飛ばされた。
何なんだ一体……




