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20 誘拐

裁判があったその夜、一真は布団の中で寝ている所を激しく体を揺すられて起こされる。

「誰?何?」

一真は擦りながら目を開ける。一真がさらに言葉を紡ごうとする口を塞ぐ。

「一真様静かに」

そこにいたのはティファナだった。ティファナは半裸と言っていい様な姿だった。だが一真は次の言葉でそんなことがどうでも良くなった。

「一真様急いでお逃げください、騎士団が命を狙っております」

「はぁ?どう言うことだよ!」

一真が思わず大きな声が出てしまう。

「静かに!見張りはまだいるの」

ティファナは口調を強めて、ドアの様子を見る。

「お食事の際言いましたよね、気を付けて下さいと」

ティファナに怒ったような口調で言われたが、一真は覚えていなかった。

「……覚えてない」

「……あなた以外に抜けているのね」

ティファナは呆れたような声を出して、ため息をつく。

「いい、今すぐここから逃げ出して!」

ティファナの発言と同時に、ここに向かって歩いてくる沢山の足音が聞こえてくる。

「遅かった」

一真は咄嗟にティファナをベッドから落とした。

「イタッ!」

「ベッドに下に隠れてろ」

さらに足でティファナをベッドの下に押し込んだ。

「待って!これを」

ティファナが渡してくれたのはナイフだった。今は手元に武器が無く、しかも隠せる小さい武器は願ってもなかった。一真は受け取ると手首の服の内側に隠して、布団に潜り込んだ。それと同時にドアがゆっくりと開けられる。俺が寝ているのを確認すると大勢が入ってくる。


「おい、寝ているか確認しろ」

若い女性の声と男の声だった。小声でそれくらいしか分からなかった。

「了解」

それと同時に俺に掛けていた布団が剥ぎ取られる。

「寝ています」

「そうか、起きないように魔法で眠りを深くしろ」

「了解しました」

一真は魔法で焦った。正直眠っているふりをして、隙を見て逃げ出そうと考えていたからだ。

「我が呪文によりて、深き眠りに誘え。シュラーフ」

いきなり眠気が襲ってくる。一真は焦った、このままでは眠ってしまうと。一真は眠くなりそうな体を無理矢理動かして、ベッドの上から自分の体を落とした。顔面から床に落ちて眠気を飛ばした。痛みで眠気が吹っ飛ぶ。

「おい、起きちまったじゃないか?」

男の焦った声が聞こえる。俺は痛みに耐えて狸寝入りを続けた。誰かが俺の体をひっくり返して、俺の顔を見る。

「だ、大丈夫。魔法が効いてるんだろう。呑気に寝てやがる」

「じゃあ、こいつの中に入れろ。早くしろよ」

若い女の声がしない。その様子からして若い女は出て行ったようだ。目を瞑っているから、たぶんとしか言えなかったが。一真は手首をロープで縛られ袋の中に入れられる。そしてそのまま抱えられて連れ去られた。





俺は一体どこに連れてかれるんだ?周りが見えないから分からない。すでに手首を縛っていたロープに切れ目を入れて力を入れればすぐに千切れるようにしてある。


ガラガラ、パンッ! ガラガラ


車輪の音とムチの音で馬車に乗せられたのは分かった。馬車に乗せると言うことはかなり遠くに連れて行くようだ。たぶん城どころか城下町からもかなり離れているはずだ。途中から振動が激しくなった。たぶんこれは、舗装されない道を通っているからだ。一体どこまで連れて行く気だ?


三時間ぐらい馬車を走らせただろうか?俺は地面に投げ出される。俺はうめき声を出さないように我慢する。

「目を覚まさせてやれ」

若い女の声だ。こいつがリーダーだろう。さっきよりはっきりと聞こえた。そしてその声は聞き覚えのある声だった。


バシャン!!


頭の上から水が掛けられる。俺はそこでやっと目が覚めたふりをする。

「ゴホゴホ。ここは?」

俺はそこで初めて目を開けた。周りを見ると星さえ見えないほど暗かった。よく見ると、ここは洞窟だった。星が見えなくて当然だ。洞窟の天井の一部だけは穴が空いていた。だからそこまで暗くは無かった。

「寝ぼけているようだ、一発入れてやれ」

「喜んで、フンッ!」

鳩尾に蹴りが入った。俺は痛みのあまり蹲ってむせる。だが両脇にいた男二人が無理矢理俺を立たせて、無理やり前を向かせる。

「お前らは!」

俺は目の前にいる女が誰か分かった。あの裁判でいた騎士団副団長だ。他にも見覚えのある顔が幾つかある。ダンジョンに潜った騎士だ。それを確認すると同時に顔面が殴られる。手にはガントレットが嵌めてあった。鼻が折れて鼻血が噴き出す。

「ヴヴヴヴ」

俺は痛みで声から唸り声が出てくる。

「何のづもりだ?」

「何のつもりだと?まだ寝ぼけているようだな!目を覚まさしてやれ!」

俺の質問がかなり勘に触ったようだ。女副団長は部下に指示を出す。部下は親の仇を見るような顔で見てくる。憎しみが篭った暴力が俺を襲ってくる。顔、腹、腕、足、体のあらゆる部分に痛みが走る。俺は目をつぶってその痛みに耐えるしか無かった。今逃げ出したところで、逃げ切れないことは分かっていた。逃げるために足だけは庇った。ある程度殴ると女副団長は部下を止めた。

「貴様のせいで貴様のせいでな!」

騎士団副団長は俺の胸ぐらを掴んで俺の目を覗き込んでくる。騎士団副団長の目には憎しみで一杯だった。

「私たち騎士団はダンジョンの事で責任を終わらせて解体!それだけでなくダンジョンで死んだ騎士団長は本来なら名誉の死で讃えられるはずだった。だけど騎士団長はその責任と取って、不名誉ばかりかその遺族に支払われるべき金さえ貰えないのだぞ!貴様に分かるか!あの人の遺族にこの話をする辛さが!!この話をした時の妻と子供の顔を見る辛さが!!」

女副団長は一気に言うと『ハァハァ』と息せきを切る。言い終わると同時に拳が顔面に飛んできた。あまりの痛さに涙さえ出てこなかった。

「寝るにはまだ早いぞ」

髪を掴まれ、顔を上げさせられる。もう体中が痛い。顔は腫れ上がって片目は見えなくなっていた。でもまだ逃げられる状態じゃ無かった。殴られながら人数を確認したが、少なくても15人近くはいる。俺は最低限逃げるために必要な身体機能を確保するために、回復魔法で体を少しづつ回復させる。どこかで逃げなければいけない。


「いいか、筋書きはこうだ。判決で罪を償うのを怖がった貴様は城から逃げて、我々が後を負ったが行方不明。そして貴様はここで死ぬ。ダンジョンで逃げた貴様にはお似合いの筋書きだろう」


俺は『ここで死ぬ』と言う言葉に焦りを感じたが、自分に『まだだ、まだ逃げられない。』と言い聞かせて落ち着かせた。今逃げても捕まるからだ。


「副団長!」

誰かが焦ったように目の前の女副団長を呼ぶ。

「どうした?」

焦ったように返事をする。俺は誰かが助けに来てくれたことを期待した。

「洞窟の奥にお宝が!」

「宝?」

「はい」

背後から数人が走り寄って、女副団長に持っているものを見せる。俺からで見えるくらい、数人が腕一杯に金貨を抱えていた。

「そんなにあるのか……これなら団長の奥さんが受け取れるはずだったお金だけじゃなく、私たちが遊んで暮らせるくらいは……キューイ、数人連れて持てるだけ金貨を持ってくるんだ。」

「了解」

女副団長は騎士団の一人のキューイとやらに金貨を持ってくるように命令した。俺は金貨に気を取られている間に逃げ出そうと考えていた。

「金貨を見つける切っ掛けを作ってくれたお礼だ。ここで楽に死なせてやる」

女副団長はそう言うと腰から剣を抜いて剣を振り上げた。



バサバサ!



羽ばたく音と突風が洞窟の中に吹き込んでくる。音源は上。俺は真上を見る。洞窟の天井の穴からドラゴンが入ってきたのだ。


「逃げろ!今すぐこの洞窟から出るんだ!!」


女副団長が焦ったように、指示を出す。俺はそれと同時に腕に思いっきり力を入れて、縄を切る。俺を捉えている腕を振りほどくと、隠し持っていたナイフで俺を捕まえていた騎士の太もも突き刺す。俺は結果を見ず、全力で洞窟の出口を目指して走った。





だが現実は甘くなかった。一真の背後から火の塊が飛んできて、背中に直撃する。一真を逃がさまいと、騎士団副団長が魔法を使ったのだった。一真はこけて盛大に体を地面にこすりつける。今までの暴行もあり、一真はすぐに立ち上がることは出来なかった。その間に騎士達全員が一真を追い越した。騎士団副団長はそれを確認すると一真に向けて不気味な笑みを向けて、手のひらを洞窟の天井に向ける。一真はそれで全てを察したと同時に騎士団副団長の手のひらか魔法が放たれて、天井が爆破される。天井は崩れて出口への道を塞いだ。そして一真の頭に天井の破片の一部が運悪く直撃して、意識を失った。



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