第三十九話 ドン
と、言うわけで上の階から順に降りていこうと思う。
屋上は無いそうだから最上階の5階から攻めていこう。
「5階は...レストラン?」
エレベーターで5階に行くと4軒ほどのレストランが立ち並び、まるでデパートのようだった。
「この階はお食事処のようですね」
「アル君アル君!」
パルティアが興奮気味に俺の肩をバシバシと叩く。
「あのお店オススメ!すっごく美味しいよ!見た目も綺麗だし!!」
パルティアが指差した先にあった店は......
「す...し...?寿司!?」
そう、寿司屋であった。表のショーケースを覗くと俺の知る寿司がずらりと並んでいた。
マグロ、アナゴ、しめ鯖、サーモン、ホタテにネギトロ、ハンバーグ、エトセトラ。イクラやカッパ巻き、納豆巻きまで完備されている。サイドメニューに味噌汁やフライドポテトも見えた。
「ここの料理がちょっとお高いけどスゴク美味しいよ!」
「私はちょっと苦手だわ、生の魚を食べるのにちょっと抵抗が...」
アガーテは寿司がお気に召さないようだ。
「じゃあアガーテはどこが良いんだ?」
「うふふ、聞きたいかしら?」
俺がアガーテに尋ねると待ってましたと言わんばかりの顔で焦らされた。
「あぁ、聞きたいね。どうしても聞きたいなー」
「なんでそんな棒読みで言うのよ、つれないわね...」
「それで?どの店なんだ?」
「あの店よ」
アガーテが指差す先にある店は質素な外装のお店、先ほどの寿司屋のようなバラエティーに富んだ見た目ではなかったが、一箇所目を引くところがある。
おそらく店名であろう看板に書いてある記号のようなもの。四本線を交差させた〇✕ゲームの盤面のようなものの中心に点が一つ添えられている。
漢字一字で表すならそう、『丼』だ。
「え?丼?」
「あら、よく分かったわね。そうよ、あの店の名前は『ドン』よ。あの記号にドンと言う意味が込められているそうよ、ドンって言うのはこの店の料理の事らしいわ」
「へ、へぇ〜...」
「なんでも、ここの食事処はみんな学園長の創作料理を許可を頂いて正式に売り物にしているそうよ」
異世界の現代日本文化の裏に学園長有りだな。
「ただ、一つ問題があるのよ...」
「そうなんだよぉ〜、味は美味しいし見た目は良いし学園長のオリジナルってことで人気もあるんだけどぉ...」
二人は揃って口ごもり、互いに同じことを言った。
「「すっごく食べづらいのよ(んだよぉ)」」
「アーちゃんもそう思う?」
「えぇ、なんであんな棒2本で食べなきゃならないのよ...」
つまりは箸が使えないと言うわけだ。
しかしまだお昼前、朝食をつい一時間ほど前に食べたばかりだ。昼食にするには些か早すぎる。
「まだ昼には早いし飯のことは後にしないか?」
「そうですね、先程食べたばかりですものね」
「と言うわけだ、ミロ。次の案内を頼む」
「お任せなの!」
〜4階〜
わざわざエレベーターを利用するまでもないので階段で4階に降りると、何やら喧騒に包まれていた。
簡易的なブースが立ち並び、値段交渉や呼び込みや宣伝などが飛び交っている。
「ここはフリースペースなの、ウチに事前に申請をした人達が指定日に自由に商売をすることが出来るの」
フリーマーケットのようなものか、それも毎日行われている。
「売り物の内容もウチに申請しているから危険物は持ち込ませてないし、ウチの従業員を巡回させているから人混みに乗じて怪しい取引なんてさせないの」
安全面も考慮され、一般客も比較的利用しやすい。
「場所代とかはいくらなんだ?」
「基本的にここでの売上の一割、問題を起こした場合は追加で罰金とかなの」
リーズナブルな値段だ。行商に行くには時間と労力が掛かるし、馬の世話にも余計な金がかかる。かと言って店を出すには店舗を構えなければならないし、その際年間金貨3枚を払い《商業ギルド》と呼ばれる組合に属さなければならない。
ここで商業ギルドの説明をしておこう。
名前の通り商いを行う時に所属しなければならない組合だ。国によってはこの商業ギルドに属さない者が勝手に露店なんかを開くと重い罰則が課される場合がある。ちなみにこの国なんかがそうだ。
一見居を構えない行商人や旅商人もどこかの国の商業ギルドに属している。さらに言えば、裏で危ない取引を行っている裏商人でさえも商業ギルドに属している。
ではなぜそんなにもこの《商業ギルド》と言うものが重要なのか、罰則程度のために安くはない年会費を払い所属しなくてはならないのか。
それにはやはりそれだけのメリットがあるという事だ。
まず一つ、さっきも言ったように無断経営の罰則が無くなる。
次にもう一つ、商人間での独自の情報ルート、仕入れルートが確立出来る。独自の情報ルート...裏の商人なども属していることから、一般では手に入れることの出来ない情報が手に入る。
例えば奴隷商人からは貴族の好み。店に来た貴族に対応する店員をその人物の好みに合わせることでスムーズな取引が行える。例えば裏武器商人からは武器の売れ行きや取引相手などを聞き出すことによって、いち早く戦争を察知したり、魔物の襲撃に備えたりする事が出来る。
仕入れルート...これはギルドそのものが管理している様々な物品の格安の仕入れルートを好きなだけ利用することが出来るようになるのだ。仕入先の相手に商業ギルドに属していることを示すバッチと合言葉を交わすことで交渉を開始することができるのだ。ザックリと纏めると有力なコネが出来るのだ。
つまりどの世界でも共通して情報は金よりも重く、コネと信頼は命よりも重いということだ。他にも様々な利点があるが割愛する、したがって商業ギルドには金貨3枚と言う大金を毎年払うほどの理由があるのだ。
ではこれらを踏まえたうえでもう一度このフロアを見てみよう。
ここで必死に商売をしている彼らはほとんどが商業ギルドに所属していない人間だ。彼らがなぜここで商売をできるか、それはこのケンシィー商会のオーナー、ジークがここを取り仕切っているからだ。
ジークの名を借りることで特別にギルドから許可がおり、多少の金銭を対価に商売が出来るようになるのだ。
ここからは推測だが、ジークが収集しているものは何も小遣い程度の金銭ではないように思える。
例の監視カメラ、 魔術式映像投写水晶を使えばその場にいなくても情報を手に入れられる。ある意味ギルドにいるちょっとした富裕層の商人達からは入手出来ないような庶民的な情報が転がっているだろう。これだけの人の数だ、中には冒険者や貴族、国の騎士や観光客に主婦や子供まで幅広い層が利用しているところを見るにあながち間違いではない気がする。
一旦学園組の3人とは別行動だ、なんでも3人で買い物がしたいそうだ。
しばらく4階をフラフラとエリーゼと回っているととある商人に声を掛けられていた。
「おや、これはこれはウィルホーキンス様のところのイルマークさんではありませんか」
「あら?あなたは確か......」
「はい〜、いつも御贔屓にさせてもらってます。ワタクシ《メイシム》と申します」
「あー、はいはい!メイシムさんですか!ご無沙汰しております。数年ほど前からお見えになられなかったのでローズベルト様がご心配なさってましたよ」
「いやはや、ワタクシのような一介の商人ごときを心配していただけるとは感謝と謝罪の気持ちで一杯です。かくいうワタクシ、ちょっとしたトラブルに巻き込まれまして...ここ5年ほど王都の地下牢に収容されていました...」
「まぁ!それはそれは...ご苦労様です...」
「いやいや!これもワタクシの不徳が招いた事態、今回の一件でワタクシもまだまだだと言うことを痛感させられました」
「それで、そのトラブルとは一体どのような事だったのですか?」
エリーゼがメイシムと言う男に尋ねた。5年前というと俺がまだ生まれていない頃の話だ、ウチの家族の知り合いの話であれば多少気になる。
「いえ、大した話ではないのですが...」
メイシムはそう言うとポツポツと語りだした。
「あれは、5年と数ヶ月ほど前。ワタクシはいつもの通り王都を拠点として地方へ行商へ行っていました。
荷馬車の護衛にと冒険者を募るべく、これまたいつもの通りギルドへ依頼を出しておきました。そして出発の当日に現れた冒険者達は4人、全員真っ黒い服に深々とフードを被って顔は全く見えませんでした。
黒ずくめの冒険者達のうちの一人が、おそらく彼らのリーダーであろう男がワタクシに声を掛けてきたのです。
『アンタ、東の都市を経由するんだろ?俺らも実は東へ届け物があってだな、ついでに乗せていっても構わねぇか?』と。
ワタクシは特に断る理由も無かったので素直にそれを許可すると、彼らは建物の物陰から両手で抱えるほどの大きさの木箱を取り出したのです。
彼らはその木箱をいそいそと荷馬車に積むとワタクシを急かすように出発しました。
旅に関しては特に問題はありませんでした。魔物が現れれば彼らは依頼通り退治してくれるし、盗賊が現れれば容赦なく追い返していきました。
しかし、東の都市の検問で事件は起こりました。
門兵に交通手形を見せ、積荷の確認をしてもらっている最中雇ったはずの彼らの姿が見えませんでした。ワタクシはおかしいなと辺りを見回していると門兵に声をかけられました。
『おい、この木箱。リストに入ってないぞ?』
『はい、ワタクシが雇った冒険者の一行が持ち込んだものでして、それのリストはおそらく彼らが持っていると...』
そう言いながらも辺りをキョロキョロと探しますがどこにも彼らが見えません。すると、門兵の口から不思議なことを告げられました。
『何を言っている、お前がここに来るときにお前以外に人なんていやしなかったぞ』
ワタクシは一瞬彼が何を言っているのか分かりませんでした。確かに冒険者の彼らはワタクシと共にこの検問所へ入りました。検問所より外は高い草や木が生えていない広い草原、しかも真昼間です、あの黒い服の彼らを遠目でも見逃すと言うことはありえないのです。
そう思っていると、異変に気付いた違う門兵が彼らの木箱をこじ開けようとしていました。
『おい、とりあえず中を確認する。危険物や盗難品でなければ素通りしていいから』
門兵はそう言うと杭抜きで木箱をこじ開けました。すると中には.........なんともおぞましい黒い魔物、長年行商を営んできたワタクシも見たことの無いような種でした。蜘蛛のような複数の脚、しかしそれには関節のようなモノはなく、海を漂うクラゲの足のようにしなり伸縮していました。
その脚が集約する身体の部分は巨大なひょうたんのような形をして、口は十字に割れて大量の白い歯が覗きました。今思い出しても鳥肌が...。
騒ぎを聞きつけた兵士は騎士を呼び、その魔物を討伐しているとき、私は異様なものを見つけました。荷馬車の周りに点々と落ちている4つの黒い布、1枚を手に取り広げるとそれは冒険者達が着ていたそれだったのです。
そこでワタクシの意識は一旦途切れます。ドスンと言う鈍い音と共に気を失い、次に気がついた時には既に牢に入れられていました。
何が起こったのかさっぱりわからないワタクシは見張りの人に声を掛けました。『ワタクシはどうしてこんなところに居るのですか』と。
すると見張りの人はとんでもない事を口走りました。
『貴様は都市に凶悪な魔物を連れ込んだ大罪人だ、現在処遇は検討中だがいずれ相応の処罰が下るだろう』
ワタクシは耳を疑いました。大罪人。ワタクシはただいつもの通り行商をしていただけ、ただいつもの通りの仕事をこなしていただけ、それが転じて大罪人。
まぁその後はあれよあれよと言う間に王都へ転送、手足を縛られ国王の前に放り出されて罰せられました。
罪状は《国家準反逆罪》、供述用の特殊な魔術を掛けられるもワタクシが首謀者でないうまを伝わり、死罪は免れました。しかし罰金として金貨20枚と永久的に商業ギルドから除名、そして5年の懲役が下りました。
そうしてこの間5年経って釈放された私はギルドを除名された今もここでこうして商い業を営んでいるということです」
「まぁ...そんなことが......」
「一応お触れが回ったと思うのですが、国王の鶴の一声でワタクシの名前は出されなかったようです」
「それはそれは、不幸中の幸いというやつですかね」
「そうですねぇ、ワタクシには商術しか取り柄が無いゆえ、そんな風に悪名が広まってしまうと仕事に支障を来たす事を国王は汲み取ってくれたのでしょう」
その話を聞いて俺は思った。
「それにしても随分と処罰が甘いんじゃないか?」
「......えっと...この...利発そうなお子さんは?まさかエリーゼさんの...?」
「はい!ワタシの自慢のご主人様、アルバート・ウィルホーキンス様です♪」
「ウィル...あぁ!エリオット様の弟様でございますか!確かにどこか似ています」
メイシムが手をポンと叩き俺に向かって深々とお辞儀をしてきた。
「改めましてワタクシ元行商人のメイシムと申します」
「こちらこそ改めまして。アルバート・ウィルホーキンス、ウィルホーキンス家の次男坊だ。よろしくな」
「はい、ウィルホーキンス領へ行商へ伺うことは出来ませんが、ここでならほぼほぼ毎日会うことができますので御用があればよろしくお願いします」
「おう、それで...さっきの話だが、ハメられたとはいえ罰が軽くないか?」
するとメイシムが眉をひそめ唸り始めた。
「これは...言っていいものなのでしょうか......」
「言いづらいことなのか?」
「そうですねぇ.........まぁ、ここで会ったのも何かの縁。特別にお教えしましょう!」
メイシムがそう言うと俺の耳に手をかざし、いかにも内緒話をしますよと言った声音でボソボソと話した。
「実はですね......」
今週から定期テストの2週間前になるのでしばらく投稿出来ません!すいません!!




