非日常LIFE 便利屋
その黒服の男は金髪でホスト風の顔をしていてスーツのボタンはとめずにスー
ツの下に着ているカッターの真ん中からは黒いネクタイがぶら下がっている。そ
してスーツの袖をまくっていて七分丈ほどにしている。これだけなら普通だった
のだが振り返ったときにまず僕の目についたのはその男が持っていたものだった。
その男の右手には僕の身長より少し高いくらいの長い刀が握られていた。ちなみ
に僕の身長は百七十五センチくらいだ。見るからに危なそうだ。さすがにコスプ
レ帰りなんて言葉ではかたずけられそうにない。まずスーツを着て長い刀を持って
いる様なアニメキャラクターやゲームキャラクターがすぐに頭の中に思い浮かばか
なかった。
「あなたは何者ですか?刀なんてもって物騒ですよ。てか銃刀法違反ですよそ
れ。」
と言って僕は右ポケットから携帯を取り出して1・1・0とボタンを押し呼
び出しボタンを押そうとした。すると黒服の男が右手に持っているサヤに納めた
状態の刀で僕の手をはたき落とした。
「落ち着け少年。警察だけは勘弁してくれ職務質問はもう嫌というほど受けた。
それに俺は君に危害をくわえるつもりはない要があるのはそっちの女の子の
方だ。
と男は少女を指さした。指をさされた少女はおびえるように僕の後ろに隠
れそして僕の腕をつかんでいる。僕の腕をつかんでいる少女の手からは震え
が伝わってくる。どうやら少女は相当おびえているようだ。
「やっぱりあなたにも見えているんですね?」
「あぁはっきり見えてるよ」
「質問を戻しますがあなたはいったい何者なんですか?」
「俺か?俺は幽霊退治を専門にしている便利屋で飛鳥龍時≪あすかりゅうじ≫ってもんだ」
「てことはこの娘を退治しにきたんですか?」
「物わかりがいいね少年。俺は物わかりのいい奴は好きだよ」
「この娘が人に迷惑をかけるような幽霊には見えませんけど?」
「どうやら君は大きな勘違いをしているようだね」
「勘違い?」
「だってその娘、地縛霊だよ。さぁ質問タイムはここまでだ君の後ろに隠れてい
る娘をこっちにわたしてもらおうか」
と言って飛鳥さんはサヤから長い刀を抜いた。僕はこの少女を見捨てるべきな
のか?それとも一緒に逃げるべきなのか?そんなことを考えているといつの間にか少女
が僕の腕をつかむのをやめて僕の前に立っていた。
「少しの間だったが久しぶりに人と話ができてよかった。私もいつかこんな日が
来るような気がしていた。覚悟はとっくにできている」
強がってこんな言葉を言っているが少女の体はガタガタと震えていた。少女の後
ろ姿はあまりにも悲しげであまりにも痛々しくあまりにも小さく見えた。
「君も地縛霊にしては物わかりがいいんだね」
と言って飛鳥は刀を振りかぶって少女に刀を振り下ろそうとした。もうこれ以
上、僕は少女の後ろ姿を見ていられなかった。気づけば僕は少女をかばうように
大の字で立っていた。少女をかばうそれはつまり僕が死ぬことをさす。あぁ俺の
青春はどうやら今日で終わるようだ。振り下ろされる刀が僕の体を切り裂くまで
時間はとても長く感じた。よく見ると振り下ろされた刀は僕の肩のあたりで止ま
っていた。
「どう言うつもり?地縛霊なんかかばっちゃってヒーローぶってんじゃねーよ」
「この娘も地縛霊になるまでは普通の人間だったんだ。地縛霊になったってこと
はなんかの理由で一回死んでるってことだ。死ぬなんて一回だけでもとてもつ
らいことなのにあなたはこの娘から再び命をうばおうとした。たとえこの娘が
地縛霊であってもそんな彼女を見ていられなかった、ただそれだけだ」
「へぇ~じゃあ君は地縛霊のために死ねるんだね。じゃあまず君から殺してあげ
るよ」
飛鳥は刀を再び振り上げて僕に向かって刀を振り下ろした。こんどこそ俺の青
春は終わってしまうんだろう。あぁまったく、実に充実しなかった人生だったよ。
今から死ぬってのに走馬灯の一つ頭に流れやしない。と死を覚悟したが飛鳥が振
り下ろした刀はまた肩のあたりで止まっていた。
「なぁ~んてね。今日は君のその勇気に免じて見逃してあげるよ。それに本音を
言えばいくら幽霊であっても女の子の幽霊を退治するのは気が引けるんだ。一
つ忠告しといてあげるよ。俺みたいに幽霊退治を専門にしてる便利屋はこの街
にまだ沢山いるから気をつけてね。みんな僕みたいに甘くないから。それと君
これからその娘をどうするつもりなの?」
「ご忠告どうも。こいつは何とか僕が成仏させる方法を見つけて責任をもって成仏
させるつもりです」
「そうかい。じゃあ早くその方法が見つかるといいね。あまりこの娘と長くいると
君本当に死んじゃうかもしれないから急いだほうがいいよ。まぁ精々頑張れ少年」
と言って飛鳥は僕に背を向けて去って行った。僕が後ろを振り返ると少女は地面
に座り込んでいた。そして僕と目が合った瞬間ホッとしたのか目に大粒の涙を浮か
ばせながら上目使いで「こわ・・こわかった。こわかったよぉ~」と言って両手で
目をこすりながら泣きだした。さっきのまで強気な感じだった少女にこんな姿を見
せられたらそのギャップにドキッとしてしまうのはしかたない事だろう。そして少
女は涙声で一言
「ありがとう。ええっと・・・ええっと・・・」
「春夏秋冬四季≪ひととせしき≫だ」
少女は僕の名前を聞いてさっきの言葉を言い直した。
「ありがとうございます。四季様」
「なんで急に敬語なんだよ?」
「私、恩人には敬語を使うと決めているのです」
「そうか。でっ、お前の名前は何て言うんだ?」
敬語を使われることわ慣れてはいないが悪い気はしなかった。
「あっ、申し遅れました私の名前は伯桜千春≪はくおうちはる≫と申します」
「そっか。じゃ、自己紹介はこのくらいにしてそろそろ家に帰るとするか」
「はい」
千春は嬉しそうに微笑みながら立ち上がった。そして二人で家に帰った。だが僕は
まだこの時、予測もしていなかった。僕の日常が非日常に変わっていくことなど。そ
う全ては今日この地縛霊、伯桜千春に話しかけたことから始まった。




