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LOST  作者: 藤岡 巴
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灯火は水底に消える

 「取り合えず座って。コーヒーとお茶どっちがいい?」

 「あ…、じゃあコーヒーで。」


 人型に出会った後、2人は予定通り怜奈のアパートへと帰ってきた。寒空の下にしばらく居た為、手足は随分と冷えてしまっている。

 

 取り合えず、あの自分そっくりのものが脳腫瘍の可能性は消えた。怜奈にも見えていたという事は自分の病気による幻覚ではないという事になる。それから、自分の霊的な写し身である可能性も消えた。自分の魂が抜けた姿や生霊であるなら、さっき怜奈が攻撃した際に樹の身体に何の影響も無いというのは考えにくい。そして先ほどの結果から解った新たな可能性が、あの樹そっくりなものは、人的に作られた樹の写し身であるというものである。それもイタズラや好奇心でやっているのではなく、専門的な知識も能力も持った誰かの仕業であるということ。

 それを作ったのが誰かという事やその目的も気になったが、まずは目先の事を一つ、どうしても確認しておかなくてはならない。


 霊的な写し身である可能性がまだある段階で、なんで攻撃をしたのか。


 「…で、何故躊躇わずにあれをやったのか、だっけ」

 淹れたてのコーヒーをテーブルに置くと、怜奈はソファに座る樹の斜め前、テーブルの脇に、壁にもたれかかるように座った。

 「…何の理由も無しとか、そういう訳ではないんだろ?」

 「まぁね。――視たら解るのよ。というか、判別くらいは出来るのよ」

 「それって…、慣れっていうか、直感みたいな?」

 「それもあるけど。…何にでも色があるんだよ」

 「色?」

 「解りやすく言うなら、オーラとか言うのかな。あの写し身は、あんたと色が違ってた。」

 そこまで言うと、怜奈は淹れてきたコーヒーを口にした。

 「…色。それって、昔から視えるのか?」

 「ううん 私が昔から視えてたのは、あんたと同じでああいうものの姿だけ。今みたいな色が視えるようになったのは数年前からだよ。」

 「視え方が変わったって事?」

 「両方視えるようになったのよ 左目は今まで通りアヤカシモノの姿が、右目は色んなものの色が。

  …生きてるモノには全部色がある。一つとして同じ色なんてない 万物には全て魂があるっていう考え方があるでしょ?石にも水にも、魂はある。石一つにしたって全部違うものだから、似てるものはあっても全く同じものは無い。それが、全部色で視えるのよ この右目は。」

 確かに、そういう考え方があるというのは聞いた事があった。そして、皆が視えないものが実際に視えている樹にとっては、自分には解らなくても否定する理由も無かった。

 「でもそれって、眼帯したままでも解るのか?」

 「目隠ししてても目を開けてたら外が明るいか暗いかくらい解るでしょ?はっきりとは視えなくなるけど、ぼんやりとは解るのよ。結構力が強いらしくてね。けど、これを外したらはっきり視え過ぎて気持ち悪いから、普段は隠してるって訳。」

 「…ああ、なるほど。」

 確かに、今まで見てきたもの全てに、別の色がまとわり付いている光景は、気持ちがいいものではない。

 「…あれ、けど、この部屋ではしてないよな、眼帯。」

 「この部屋には結界をしてあるし、それを維持する力の対価をこの目で払ってるの。だからこの部屋の中では眼帯をしてる程度の視え方しかしないし、ここにあるのは全部私の私物だから、色が違うとは言っても長年使ってると似た色になってくるのよ。だから外程不快ではないし、大分慣れたからね。」

 「…そっか。」

 淡々と話してはいるが、同年代で、自分と同じような体質で、これだけの知識と対策をしているというのは、正直凄いと思った。今まで特に影響が無かったからとは言っても、樹はあの視えるものに対して何か対策をと考えたことが無い。視えるのだから仕方が無いと思っていただけだった。

 「…何か凄いな、俺は今まで何も対処とかした事無かったからさ。」

 「それは、今まで特に悪い事に巻き込まれなかったからでしょ?悪い事じゃないよ。」

 「…そっちは何かあったのか?その…色も視えるようになったの数年前からだって…。」

 「―――この色が視える眼はね、元々は私のものじゃないんだよ。」

 「…?それってどういう…」

 「5年前に死んだ、私の双子の姉のものだよ。」

 「………」

 カップを持った手が、思わず止まった。

 

 「父親は私達が小さい頃に離婚、母親はそれから数年後に事故で死んでしまってね。私と姉は田舎の親戚のところでお世話になってたんだけど 中学の時、姉と二人でよく行っていた神社の裏の方に少し大きな池があってね。アヤカシモノの姿を視る事しか出来ない私は、その池にいつもと違うモノが居る事に気付かなかった。私も姉もその池に引きずり込まれて、私は右目を怪我しただけで済んだけど、その後いくら探しても姉は結局見つからなかった。その後病院に行ったんだけど、出血の割には大した怪我はしてなくて、代わりに姉が視ていたものが視えるようになったんだよ。」

 「…それって、お姉さんが、」

 「眼をくれたんじゃないかと思ってるよ。本当、見た目は同じなのに私と違ってお人好しだったから。」

 「…そっか。」

 何となく、沈黙が下りた。予想以上の怜奈の話に、軽率な事を言いたくなかったのもある。

 「…何か、ありがとうな。」

 「…は?」

 「話してくれて。そういうのって、滅多な人には話さないだろ?」

 「そりゃね。けど、聞いてごめんとか言われるかと思った。」

 「まぁ、もちろんそれも思ってるけどさ。やっぱり、ありがとうの方が大きいかなって。」

 「そう。」

 そう言って樹が少し笑うと、怜奈は素っ気無く返事をして顔を逸らした。

 言ったら怒られると思うが、正直ちょっと可愛く見えた。

 「…それで、この説明で納得した?」

 「え?ああ、うん。大丈夫。」

 「…それより、問題はあの写し身を作ったのが誰なのか、よね。」

 「ああ、けど俺、何も心当たりとか無いんだけど、」

 「力を持った者やアヤカシモノの中にはね、あんたみたいなのを利用しようとしたり狙ったりしてるものも居るのよ。だから、心当たりが無いからって安全という訳じゃないの。」

 「なるほど、」

 「いつからだったっけ 例の”自分みたいなもの”が出だしたのって。」

 「えーっと、2~3週間ってとこかな、」

 「それだけ付き纏うって事は、何か目的があるのよね。」

 「まぁ、気まぐれに付き纏うにしては長いよなぁ…」

 「2~3週間見続けているのに向こうから何かはしてこない、姿は見せているのに正体は明かさない、こちらが捕まえようとしてもすぐに逃げる…か…」

 そう言うと、怜奈はしばらく考え込むようにしてコーヒーのカップを眺めた。テレビも何も付けていない部屋に、再びしばらくの沈黙が下りる。

 「…しばらく、見かけても追うのは止めた方がいいかもね。」

 「…へ?」

 「向こうの目的もはっきりしないんだし、あんたを襲う気ならとっくに襲ってる。出方が解らない以上、こっちから何か行動を起こすのはお勧めしない。」

 確かに、言われてみればそうだった。強行的に樹に何かしようと思っているなら、とっくに襲われているはずだ。今まで樹は別に何か対策を立ててきた訳ではないし、極力会わないようにしていただけで、これといった回避もしていなかった。

 「まぁ、こっちもちょっと調べてみるから、あまり深追いはしないように。」

 「何か迷惑ばっかりかけてごめんな、助かるよ。俺一人じゃ何調べていいかすら解らなくてさ。」

 「気にしなくていいよ。私も調べ物してる身だから、情報はいくらあってもいいし。」

 「調べ物?」

 「ちょっとね。探してるものがあるのよ。」

 「そっか。ありがとうな。…けどさぁ、一つだけ言ってもいい?」

 「なに?」

 怜奈が、視線だけで樹を見る。

 「その…、俺にとっては非常に有難いんだけどさ。原因調べるのに付き合ってくれたり、こうやって匿ってくれたり。…けど、ちょっとは人間の方も警戒しろよ?」

 「…どういう意味?」

 突然樹が言い出した事の意味が解らないらしく、怜奈は微かに眉を潜めて首を傾げた。

 「だからさ、…簡単に見ず知らずの男を部屋に泊めるのは危ないんじゃないかって事。いや、俺はそれで助かったんだけど、もちろん有難いと思ってるけど。仮にも怜奈は美人だし人の目引きやすいんだからさ。」

 「お世辞をどうも。」

 「いや、だからさ!お世辞とかじゃなくて、本当に心配してるんだけど…」

 そこまで言って、何となくこれ以上言っても無駄な気がしてため息をついた。何と言えばいいのか解らなくなってくる。

 「…ありがと。でも、話した事無かったけど私篠田くんの事知ってたから。」

 「…え?なんで?」

 「さぁね。」

 怜奈が樹を知っていた理由なんて、検討も付かない。別に目立つ方ではないし、むしろ普通に平凡に過ごしているつもりなので、逆に不安になってきた。 

 「……俺何か、そんなに目立つ事大学でやらかした?」

 案外真面目に聞いたつもりだったのだが、それを聞いた怜奈は一瞬目を丸くすると、くすくすと下を向いて笑い出した。

 「…え、ちょっと、」

 「違うよ。それに、篠田くん視えるからどうしてもそっちに視線が行くでしょ?」

 「あー…、それでか。なんだ。」

 内心ちょっと安心した。けど、今はそれどころではない。

 「心配性だね。」

 「いや…」


 思わず顔を逸らした。

 大学では、灰色の髪をした黒服で眼帯の美人、けど、冷たい雰囲気や一匹狼という印象で人ともあまり話さないし、ましてや笑った顔など誰も見た事がないであろうと噂されている怜奈が、

 目の前で、微かではあるが笑っている。

 それが樹にとって不意打ち過ぎて、自分でも赤くなってるのが解って、とても顔を見られなかった。

 「どうかした?」

 「いや、何でもない、」

 「そう。ならいいけど。」

 



 まずい。

 やっぱり怜奈には警戒心が無さ過ぎる。

 今度こそ本当にため息を付いて、顔を手で覆った。

 これじゃまるで、直人の言う通りだ。


 気付いてしまった。

 家に上がりこんで、散々迷惑をかけて、今更遅いとは思うけど


 自分はどうやら、伊月怜奈を好きになってしまったみたいだ。


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