81 正体
途中、別視点入ります。
「着いたみたいだな」
「ええ、そうね」
しばらくして、馬車が伯爵邸へと到着した。
先に降りたルークが私にスッと手を差し出した。
(あ……)
あのときは色々あって気にしていなかったが、今思い返してみると何だか恥ずかしくなる。
手を繋いだのも、あんな風に体を寄せ合ったのも初めてだった。
(男性慣れしていないからかしら……ドキドキしちゃうわね……)
私はそんな気持ちを必死で抑えながら、彼の手を取って馬車から降りた。
「ありがとう」
「ああ」
私が帰ってきたことを誰から聞いたのか、すぐにお兄様とリーシェお義姉様が私たちの元へ駆け付けた。
「エミリア!」
「エミリアさん、よくぞ無事で!」
「お兄様、お義姉様……」
二人はずっと心配していたのか、無事に帰ってきた私を見て安心しきったような顔になった。
(心配させちゃってたみたい……)
「私は大丈夫ですよ、お兄様、お義姉様」
「なら良いが……」
「公爵様に何もされていないようで良かったです」
そこでお兄様の視線が私の後ろにいたルークに向けられた。
「……そちらの方は?」
「ああ、この人が前に言ってた人だよ!私を助けてくれたって人!」
「……」
お兄様はルークを見つめてじっと黙り込んだ。
それとは反対に、お義姉様は親しげに彼に一歩近付いた。
「初めまして、エミリアさんの義理の姉のリーシェ・ログワーツですわ」
「……どうも」
彼は無愛想に返事をした。
(今でこそかなり打ち解けたけど……私も最初の頃はこんな風だったっけな……)
元々ルークはツンケンしている人だ。
私がこれほど仲良くなれたのも奇跡と言っていいだろう。
そのとき、ルークから私へ視線を移したお義姉様が何かに気付いたように口を開いた。
「あら、エミリアさん。その服装では寒いでしょうからひとまず中に入りましょうか」
「あ、そうですね。このドレス薄くてめっちゃ寒いです!」
「旦那様、私たちは先に戻りますわ」
「ああ」
私はお義姉様と一足先に邸の中へと入った。
そして、門の前にはお兄様とルークだけが取り残された。
***
エミリアとリーシェが完全に見えなくなった頃。
残された二人の間には、沈黙が流れていた。
お互いに話すことなど何も無いはずなのに、ケインはここから去ろうとはしない。
あからさまに疑いの目を向けてくるケインに、ルークもまた立ち去ることが出来なくなっていた。
先に口を開いたのはケインの方だった。
「――妹に、どのような目的で近付いたのでしょうか」
「……俺を怪しい人間だと思っているような聞き方だな」
「怪しまない方がおかしいでしょう、ルーク……いや、――ルドウィク王弟殿下とお呼びするべきでしょうか」
「……」
ハッキリとした声で発せられたその言葉に、ルークの表情が暗いものになった。
「そんな風に呼ばれるのは好きじゃないんだ。今後は控えてくれ」
「何を……」
――ルドウィク・セレナイト
セレナイト王国の国王アルタイルの実の弟であり、元々第二王子だった人物だ。
しかし彼は兄と違って滅多に表舞台に姿を現わすことは無かった。
”人々から忘れ去られた王子”それが彼の呼び名だった。
「何故俺の正体が分かった?」
「エミリアから事前に貴方の髪と瞳の色を聞いていたんです。黒い髪に青い瞳と言えば、先王陛下と同じ色ですからね」
「そうか……」
先王陛下。
ルークの実の父親だった男だ。
そして彼に一生消えない傷を与えた男でもあった。
この国の王家の象徴を完璧に受け継いだとも言える彼の髪と瞳。
しかし、彼にとってはそれは忌まわしいものでしかなかった。
鏡を見ては何度自分の目を抉りたいと思ったか。
「エミリアにはいつか自分の口で話すつもりだ。だから今だけは……彼女の傍にいることを許してくれないか」
「……」
その言葉にケインは不服そうな顔をしていたが、しばらくして折れたように頷いた。
「そうですか……妹も貴方を信頼しているようですし、とりあえずは信じておきます」
「助かるよ」
彼はそれだけ言うと、エミリアとリーシェと同じように門の中へと入って行った。
一人残されたルークはというと、彼らが去って行った方向をただじっと見つめていた。
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