76 公爵家のパーティー①
そして、とうとうパーティーの日になった。
「お嬢様、とてもお綺麗です」
「ありがとう、皆」
私は鏡の中のメイクアップされた自分をじっと見つめた。
(王宮で開かれた舞踏会に行ったときと同じ姿ね……)
一週間前に適当に選んだ青いドレスは私によく似合っていた。
ひとまず容姿はこれで良さそうだ。
しかし、それでもなお私の不安が完全に消えることは無かった。
(何もなければ良いけれど……)
あの日からオリバー様が私をパーティーに招待した意図をずっと考えてみたものの、結局答えは出なかった。
嫌いならば、顔も見たくないと思うのが普通ではないのだろうか。
(一応十年あの人の妻だったけれど……相変わらず読めないわね……)
そもそも、彼とは共に過ごす時間などごくわずかだった。
そんな私が、オリバー様の考えなど分かるはずが無い。
「お嬢様、馬車の準備が出来たそうです」
「すぐ行くわ」
侍女に声を掛けられた私は、エントランスへ降りた。
***
(何ヶ月ぶりかしら……)
あれからしばらくして、私はレビンストン公爵邸の前に一人ポツンと立っていた。
相変わらず立派な屋敷だが、どうもこの場所には良い思い出が無い。
邸を出たあの日から、二度と来ることは無いと思っていたのに。
(……今日はいつもより早めに帰ろう)
王宮で開かれた舞踏会と違って、今日は私の味方になってくれるお兄様もリーシェお義姉様もレイラもいないのだ。
長居しても良いことなど無いだろう。
私はそんなことを考えながら、公爵邸の近くにあるパーティー会場まで歩いた。
「――エミリア・ログワーツ伯爵令嬢が到着されました」
会場に入ると、既に大勢の貴族たちが集まっていた。
(かなり遅くなってしまったみたいね……)
皆が私を見てヒソヒソしている。
彼らですら、私がこのパーティーに招待されたことに対して驚きを隠せないようだ。
「ログワーツ伯爵令嬢だぞ……」
「何でここに……レビンストン公爵とは既に離婚したはずだろう?」
(そんなの私が聞きたいわよ!というかオリバーに聞け!)
心の中でそんなことを思いながら、私は主催者の登場を待った。
待っている間、とあることを思い出した。
(そういえば、以前オリバー様とここでパーティーに参加したことがあったっけ……)
私がまだ彼の妻だった頃、この場所で開かれたレビンストン公爵家主催のパーティーにオリバー様と参加したことがあった。
「……」
忌まわしい、最悪な記憶でしかなかった。
エスコートは義務的で夫は一度も私を見ることは無く、集まった貴族たちにはみずぼらしい姿を嘲笑された。
(……早く帰りたい)
嫌な記憶が頭をよぎり、ハァとため息をつきそうになったその瞬間――
「キャー!!!」
「!?」
突然黄色い歓声が耳に響き、顔を上げた。
「公爵様よ!」
「いつ見てもお綺麗だわ……!」
どうやら主催者が現れたようだ。
数ヶ月ぶりに見る私の元夫である。
(オリバー様……不愉快だから仮面でも着けてくれないかしら)
ホールの中央に立ったオリバー様は、令嬢たちの憧れの的である完璧な貴公子そのものだった。
裏の姿を知っている私は別に何とも思わなかったが。
「――本日はお越しいただきありがとうございます」
彼はそう言ってフッと笑みを浮かべた。
令嬢たちの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
上辺だけで気持ちのこもっていないこの微笑みに騙されて、貴族令嬢は皆惚れてしまうのだ。
昔は私もそのうちの一人だったから、彼女たちの気持ちも理解出来ないわけではない。
(でもあの人と結婚してよく分かったわ、男は中身よ!)
可能ならば、この教訓をオリバー様が好きな令嬢たちに力説したい。
「それでは、楽しい時間をお過ごしください」
主催者のその一言で、ようやくパーティーが始まった。
参加した貴族たちが我先にとオリバー様の元へと集まった。
(待って……これって主催者に挨拶しに行かないといけない感じ……?)
そして始まると同時に、私は絶望の淵に立たされたのだった。
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