5 最悪な目覚め
「……」
窓の外から小鳥の泣く声が聞こえる。
ぐっすりと眠りに就いていた私は、その音で目を覚ました。
「あ……」
目を開けると、既に朝になっていた。
窓からは太陽の光が差し込んでいる。
ここはオリバー様の部屋だ。
私は広い寝台の上に一人ポツンと横になっていた。
彼のベッドに敷かれている白いシーツの上には血が付いている。
(そうだ……私昨日……彼に抱かれて……)
昨夜のことはハッキリと思い出せる。
愛も情も無い行為だったことをよく覚えている。
忘れられたらどれほどいいだろうか。
しかし、人間の頭はそんな都合の良いようには出来ていない。
「……」
私は重い体を起こしてベッドから立ち上がった。
ふと鏡で自分の姿を見てみると、体のいたるところに青アザが出来ていた。
そして、動くたびに体中に鈍い痛みが走った。
「いてて……」
それは、昨日彼との初夜を済ませたという証拠だった。
しかしそこに良い思い出は無く、思い浮かぶのは凍てついた彼の紫眼だけ。
その恐ろしさに、今でも体が震え上がりそうになった。
そして、その後のことは……正直思い出したくない。
「……」
正直に言うと、夢だと思いたかった。
これは現実では無いのだと。
そのことを考えると、唐突に目から涙が溢れてきた。
「ううっ……ふぁ……あぁっ……」
私は部屋にオリバー様がいないのをいいことに、幼い子供のようにおもいきり泣いた。
***
どれだけ時間が経っただろうか。
ようやく涙が止まった頃、私は着替えを始めた。
本来ならば侍女が手伝ってくれるものだが、彼女たちはここに服を持って来てすぐに部屋を出て行ってしまった。
(私の着替えは手伝いたくない……ということかしら)
この屋敷の主人は私ではない。
オリバー様だ。
そんな彼に嫌われている私だから、何をしても咎められないとでも思っているのだろうか。
しかし、私は我慢するほかなかった。
そのことをオリバー様に言ったところでどうにもならないことを知っていたからだ。
それに告げ口したと使用人たちに知られれば面倒なことになるだろう。
これ以上嫌われるのだけは避けたかった。
(何より、私が我慢すれば彼の手を煩わせなくて済むし……)
そこまで考えて、再び私の頬を一筋の涙が伝った。
――惨めだ。
こんな目に遭わされても未だに彼のことを想っている自分が情けなくて、どうしようもなくて。
この想いを断ち切れたらどれほど良いだろう。
いっそ彼を想う気持ちも全て失って感情の無い人形のように生きた方がマシだと思えてしまうほどだ。
しかしそれでも、私は彼が好きなのだ。
このような形になっても良いから彼の傍にいたかった。
(馬鹿ね……私ったら……あの人は私を嫌っているのに……)
朝起きたとき、体の痛みよりも昨夜の恐怖よりも彼が隣にいないことに寂しさを覚えた自分がいた。
そんな自分が大嫌いだ。
彼は私のことを少しも愛してはいない。
そのことを知っておきながら、私は彼のいなくなったこの広い部屋を見て何度も涙を流すのだ。
これから先もずっと。
「……」
着替えを終えた私は、嫌な記憶の残るこの部屋を出た。




