46 結婚
デルタール令嬢を撃退し、元夫との最悪な遭遇を果たしたあの舞踏会から一週間が経った。
あれからというもの、私は比較的穏やかな日々を過ごせていた。
今日は王宮でレイラとリーシェお義姉様と三人でお茶をしているところだった。
あの日、私はお手洗いから戻った後二人に定期的にお茶会を開くことを提案したところ、二人から承諾を得ることが出来たのだ。
暇人な私と違って二人は幼い子供を持つ母親なのでなかなか時間は取れないが、今日やっとこうして開催することが出来た。
たまには息抜きも必要であるという考えからだった。
「そういえば、エミリアさんは再婚とか考えていらっしゃらないのですか?」
「え、さ、再婚!?」
「あら、私もその話詳しく聞きたいわ!」
目の前で優雅にお茶を飲んでいたお義姉様が突然とんでもないことを口にした。
レイラにいたっては目をキラキラさせて私を見つめている。
「無い無い!無いです!絶対に!」
期待しているかのような眼差しを送ってくる二人には悪いが、私には再婚する気など毛頭ない。
しかし何故お義姉様は急にそんなことを言い出したのだろうか。
「お義姉様……どうして突然そのようなことを……?」
「いえ、実はですね……」
私がお義姉様に尋ねると、彼女はゆっくりとその質問の真意を話し始めた。
「あの舞踏会の後からエミリアさんへの縁談がいくつか来ているのだと旦那様がおっしゃっておりまして」
「え!?縁談!?」
私は思わず椅子から立ち上がった。
(若い頃は一度も来たことなんて無かったのに!)
まさか私が男性に求婚される日が来るとは。
一体誰が予想出来ただろうか。
「エミリアさん、落ち着いてください。もちろん強制はいたしませんわ。あくまでも、エミリアさんの意思を尊重するそうです」
「あ、そうですか……」
家のことを考えれば結婚に応じるべきなのだろうが、どうも気が乗らない。
オリバー様と離婚してからというもの、再婚するという選択肢は私の中には無かったから。
(でも良かった……)
お兄様が私の気持ちを汲んでくれたようだ。
本当に兄には頭が上がらない。
「ふーん、ついにエミリアにもモテ期が訪れたのね」
「いや、遅すぎるから!」
今となっては別にモテたいとすら思わない。
オリバー様と結婚する前のあの頃に訪れていたらもちろん最高だったが。
「じゃあ、誰か気になる男性はいないの?」
「えっ!?」
ほっとしたのも束の間、今度はレイラからとんでもない質問が飛んできた。
「今のあなたは自由なんだから。誰に恋しようと勝手じゃない?」
「そ、それはそうだけど……そんな人いないから!」
「あら、そう?」
私が必死な様子で否定すると、レイラが少しだけ残念そうにクスクスと笑った。
(恋だなんて……そんなのするわけがない)
オリバー様への気持ちを完全に断ち切ったあの日から私はもう二度と結婚しないことを誓った。
婚姻関係を結んでいたから私はあの窮屈で嫌な思い出しかない公爵邸から出られなかったのだから。
今思えば、それが最も私を縛り付けるものだったのかもしれない。
「と、とにかく!私は全然そんなつもりないから!一生独身でいるつもりだし!」
「でもエミリア、あなたにもこの先良い人が現れるかもしれないわよ」
「いやいや、そんなの絶対無いから!」
「あら、いつ何が起こるか分からないのが人生ってものよ?」
レイラはそう言うが、私のこの思いはそう簡単には揺るがないだろう。




