41 反論
ダミアン卿とダンスをしたことで、私はより貴族たちに注目されることとなった。
「あのご令嬢は一体誰なんだ?出来ることなら私もダンスを申し込みたい……」
「ログワーツ家のご令嬢らしいぞ。ほら、つい最近離婚した……」
「まさかエミリア嬢なのか!?」
「離婚したんなら、つまり今はフリーってことだよな……」
未婚の貴族男性たちの下心を含んだ視線を八方から感じる。
(……話題が逸れるのはいいけど、そういう視線は御免だわ)
私は必死でダンスを申し込もうと機会を伺っている男たちに気付かないフリをした。
しかし、そんな私に堂々と話しかけてきた人物が一人だけいた。
「――あら、ログワーツ令嬢ではありませんか」
「……!」
聞き覚えのある、嫌味を含んだ声。
私にとっては嫌な記憶しか無い、不快感を感じさせる声だ。
関わりたくないと思いながらも、私はその人物と向かい合った。
(やっぱりこの人か……)
そこにいたのは、アデリア・デルタール侯爵令嬢だった。
彼女は公爵夫人になってすぐの私を侮辱し、その後も何かと喧嘩を売ってきた人である。
デルタール令嬢はオリバー様のことが好きで、何かと私を目の敵にしていたのだ。
(本当に面倒だわ……私はもう公爵夫人でも無いのに……)
私がオリバー様と離婚し、デルタール侯爵令嬢よりも劣った家門の人間に戻ったことでこんな風に公の場で恥をかかせてやろうという算段なのだろう。
(……でも、絶対に負けたくない)
以前の私ならオドオドしていただろうが、今の私は違う。
反撃の準備をしているところだ。
デルタール侯爵令嬢は心配そうな顔で私を見つめた。
「ログワーツ令嬢、レビンストン公爵様と離婚したと聞きましたわ」
「ええ、それが何か?」
「いえ、私はただご令嬢のことを心配しているだけですわ」
「心配?」
そこで侯爵令嬢はわざと周囲に聞こえるくらいの大きな声で次の言葉を発した。
「公爵様と離婚して間もないのにそんな風に着飾るだなんて……ログワーツ嬢は新しい殿方でも出来たのでしょうか?」
「……!」
「もしかすると、傷心中のところを悪い男に付け込まれたのではないかと心配で……」
彼女はそう言って困ったように眉を下げた。
わざわざ公の場でそんなことを言うだなんて、本当に嫌味ったらしい人だ。
(心配?ただ私を貶めたいだけでしょう)
本音を言えば今すぐにでも張り倒してやりたいが、ここでは我慢だ。
このような場で声を荒げてしまうのは貴族として失格だったから。
私は不敵に笑う彼女にニッコリと微笑み返した。
「お気遣いありがとうございます。ご心配には及びませんわ」
「あら、本当ですか?」
「はい、ご存知の通り私は離婚したばかりなので新しく趣味を始めることにしましたの」
「まぁ、趣味……でございますか?」
「ええ、お恥ずかしながらファッションへの関心は最近持ち始めまして」
「……そうですか」
デルタール侯爵令嬢の顔から表情が消えた。
自分の思い通りにいかなかったのが不満なようだ。
しかしすぐにいつものような穏やかな笑みを携えたかと思うと、意外なことを口にした。
「ですが驚きましたわ。ログワーツ嬢がこれほど美しい方だったとは」
「……お褒め頂き光栄です」
(……一体何を考えているの?)
デルタール侯爵令嬢が私に対して本心からこのようなことを言うはずが無い。
きっと何か考えがあるはずだ。
「今は実家の伯爵家で暮らしているとお聞きしました。――本当に羨ましい限りですわ、何もしていなくてもそんなに高価なドレスや宝石を与えてもらえるだなんて」
「……!」
「私だったら家族に申し訳なくて……」
「……」
その言葉に、周囲がザワザワし始めた。
デルタール令嬢はおそらくこう言いたいのだろう。
エミリア・ログワーツは伯爵家で居候をしている厄介者という立場であるにもかかわらず散財して遊び呆けている堕落的な人間だ、と。
(デルタール嬢……貴方ここまでして私を貶めたいわけ?)
呆れてものも言えない。
しかし私とてやられるつもりはない。
「――デルタール嬢は少々私のことを誤解なさっているようです」
「誤解……ですか?」
「ええ、このドレスは私が公爵家にいた頃に買ったものですもの」
「なッ……!?」
デルタール嬢が動揺した。
「それにこの髪飾りや宝石は全て義姉であるログワーツ伯爵夫人のお下がりですわ」
「な、何ですって……!?」
「伯爵夫人はとても優しい方なので、私に譲ってくださったのですよ」
その瞬間、周囲の貴族たちの間で再びどよめきが起こった。
「たしかに……ログワーツ嬢が付けているあの髪留め……デザインが少し古い物ですわ。令嬢が美しすぎて気付きませんでしたが」
「それなのにあれほどまでは美しくなるだなんて……ログワーツ嬢はきっと素材が良いのね」
もはや私を悪く言う者は誰一人としていなかった。
(ふふ、形勢逆転ね)
負けを悟ったのか、デルタール嬢は恥ずかしそうに俯いた。
「では私はそろそろ失礼いたします。デルタール嬢と長話をしている時間は無いので」
「……」
そう言いながらデルタール令嬢に笑みを向けると、貴族たちがほうっと感嘆の声を漏らした。
そして私はそのままデルタール嬢の前から立ち去った。
私の完全勝利である。




