34 伯爵邸へ
「お祖父様、お祖母様!五日間の間ありがとうございました!」
私たちが伯爵邸へと帰る馬車の前でエドモンドはペコリとお辞儀をした。
今日がまさにお別れの日だった。
「またいつでも来ていいからね」
「ああ、歓迎するよ」
「はい!ありがとうございます!」
二人に笑顔を向けてそう言ったエドモンドが一足先に馬車に乗り込んだ後、私は両親に近付いた。
「お父様、お母様。色々と本当にありがとう」
「エミリア……」
私はお父様とお母様の手を片方ずつ握った。
久しぶりに握った両親の手。
子供の頃に彼らと手を繋いで以来かもしれない。
「話聞いてくれたり、好きなことやっていいよって言ってくれたり……」
「そんなの親として当然のことだ」
「その通りよ、気にしないでちょうだい」
二人は優しい顔で言った。
「お父様、お母様。あのね、私……」
私はずっと両親に伝えたいことがあった。
ずっとずっと感じていたこと。
照れ臭くてどうしても言えなかったことである。
深く深呼吸をした後、私は大きめの声でハッキリと伝えたかった言葉を並べた。
「私、お父様とお母様とところに生まれて本当に良かった!大好きだよ、二人とも!」
両親の顔を見るのが恥ずかしくて、私はそれだけ言ってすぐに馬車に乗り込んだ。
「叔母さん、話は終わりましたか?」
「うん、もう言いたいことは全部言ったから。それより早く出発してちょうだい!」
私は御者を急かしてすぐに馬車を走らせた。
「お祖父様!お祖母様!」
馬車の窓から顔を出して手を振っているエドモンドをよそに、私はまともに両親の顔を見ることが出来なかった。
(ど、どうしよう……あんなこと言っちゃった……)
両親はさぞ驚いたことだろう。
昔からお転婆で我儘な娘があんな風に突然自分たちに対する感謝を口にしたのだから。
「叔母さんはお祖父様たちに手振らなくていいんですか?」
「え、ええ……そうね……」
これで最後になるのだからと分かってはいても、あんなことを言ってしまった後だからかなかなか決心がつかない。
そんなことを思っていたそのとき、馬車の外から耳をつんざくような大声が聞こえた。
「エミリアー!!!」
「……!」
(この声は……!)
私はその声にゆっくりと窓から顔を出した。
(お母様……!)
私の予想通り、突然の声の主はお母様だった。
お母様は馬車の窓から顔を覗かせた私と目が合うなり再び大声で叫んだ。
「幸せになるのよー!エミリアー!」
「……!」
後ろではお父様があたふたしてお母様を止めようとしていた。
しかしお母様は昔からお父様の言うことはあまり聞かない人だ。
そういうところが少し私に似ている気がする。
「とびきり幸せになってオリバーを見返してやれー!!!」
「お母様……!」
私は思わず馬車の窓から身を乗り出した。
そしてお母様の声援に応えるかのように自身も同じように声を上げた。
「絶対幸せになってやるー!!!」
私の返事に、ずっと狼狽えていたお父様もクスリと口元に笑みを浮かべた。
もちろんその隣で手を振っていたお母様もだ。
(お父様、お母様。私絶対に幸せになって親孝行するからね)
私はお父様とお母様に向かって大きく手を振り返した。
わざわざ言わずとも、これくらいは彼らに十分伝わっているだろう。
しばらくして、私たちがいるところから両親の姿は見えなくなった。
馬車は着々と伯爵邸へと向かっている。
「叔母さん、お祖父様とお祖母様と別れるのは寂しかったけどお父様とお母様に会えるんだと思うと何だか嬉しくなってきました!」
「そうね、私も嬉しいわ」
私は馬車の中でとびきりの笑顔を見せるエドモンドに笑い返した。




