25 何故だ? オリバー視点
私はこの日、結婚して十年目にして妻と離婚した。
「旦那様、離婚が正式に受理されたそうです」
「……そうか」
元々愛など無い結婚だった。
何故なら私には真に愛する人が既にいたのだから。
「ローザとリオを公爵家に迎え入れる準備をしろ」
「承知しました」
ログワーツ伯爵家の令嬢エミリアとの結婚は元々父が取り決めたものだった。
私にはそのとき既にローザと恋仲になっていたが、父は厳格な人で平民出身のローザは公爵家の正妻として認められなかった。
しかもそれだけではなく、父は私にローザとの縁を切れとまで言ってきた。
障害があると余計に恋は燃え上がる。
私は結局、ローザとの関係を切ることが出来なかった。
政略結婚で嫁いできた妻を蔑ろにし、ほとんどの時間をローザと過ごした。
いけないことだと自分では分かっていながらも、正式な妻になれず日陰者として生きるローザが可哀相で彼女の元へ足繁く通っていた。
あの世にいる父親が知れば卒倒するだろう。
(だが、その父親も今はもう死んでいる……)
私を縛りつけているものはもう何も無い。
平民であるローザを私の妻にするという決定も、反対する者は誰もいなかった。
むしろ屋敷の使用人たちは何故だか嬉しそうだ。
元妻が出て行った後、嬉々として二人を迎え入れる準備をしていた。
そんな使用人たちを不思議に思いながらも、私は少し前に見た元妻の顔を思い出した。
(最後に見たあの女の顔……)
元妻のエミリアは仕事面においては優秀だが、気の弱い女だった。
いつだって私の前でオドオドしていて見ててイライラした。
しかし、あの日からは何故だか彼女の様子がいつもと違ったのだ。
『私は、旦那様からの信頼など望んでいないと言っているのです』
覚悟の決まったような、力強くも冷たい眼差し。
あんなことを言われたのは初めてだった。
エミリアは結婚当初から私を愛していたから。
正直に言うと、別にあの女の気持ちに気付いていないわけではなかった。
しかし、まともに向き合おうとはしなかった。
(……とにかく、これで愛しいローザとリオを連れて堂々と歩けるんだ)
あれほど願っていたことだったのに、何故だか私の気持ちは浮かばれなかった。
それは元妻に対する罪悪感から来るものだろうか。
自分でもよく分からない。
「旦那様、ローザ様を公爵夫人にする手続きはどうなさいますか?」
「……それはまだ後で良い」
ローザを公爵夫人にするにも時間がかかる。
この国では一夫一妻制が敷かれていて、愛人は認められていない。
父があれほど強くローザと別れろと言ってきたのにはそういう理由があった。
(すぐに妻にしたら、それこそ社交界で噂になってしまうな……)
もしそうなれば、あの女の言った通りローザもリオも辛い思いをすることになってしまう。
それにローザはついこの間まで市井で暮らしていた平民だ。
貴族としての礼法は身に着いていないだろう。
リオも本格的に公爵家の後継者としての勉強を始めなければならない。
私の血を引く子供はあの子だけだから。
(……何だか面倒だな)
父が死に、政略結婚で結ばれた妻と離婚してようやく幸せな生活を手に入れられると思ったのに、案外そうではないようだ。
(リオの方はまだ後でいいとして……問題はローザだな)
「……ローザに淑女教育を施す。そのための講師を付けるつもりだ」
「はい、旦那様」
私はそれだけ言って再び目の前の書類に目を向けた。




