2 違和感
それからおよそ半年の月日が経ち、私とオリバー様は結婚した。
(本当に夢みたい……!)
つい先日結婚式を終えた私は、オリバー様の生家であるレビンストン公爵家に足を踏み入れていた。
私は彼の婚約者でありながら公爵邸には入ったことがない。
彼から家に来ないかという誘いを受けたことが無かったため入れなかったのである。
(公爵邸ってこんなに広いんだなぁ……!)
私の実家である伯爵邸もかなり大きな屋敷だったが、それ以上だ。
やはり王国の名門公爵家は格が違う。
ここがオリバー様が生まれ育った場所なのだと思うと、何だか感動してしまった。
「――奥様、お部屋までご案内いたします」
「あ、はい!」
ボーッと屋敷内を眺めていると、公爵邸の侍女が話しかけてきた。
(いけないいけない!私はもう公爵夫人なんだから!)
オリバー様は少し前に父君である先代の公爵様から爵位を継いで公爵となった。
そのため、彼と結婚した私は今日から公爵夫人である。
しがない貴族令嬢でしかなかった私に公爵夫人の荷は重いのではないかと何度も不安になったが、愛しいオリバー様の隣にいられるのなら不思議と耐えられるような気がした。
私は一貴族の令嬢としてではなく、心からオリバー様を愛していたから。
たとえ彼が何の地位も持たない平民だったとしても好きになっていただろう。
「奥様、こちらがお部屋でございます」
「あ、ありがとうございます!」
私が通されたのは代々レビンストン公爵家の正妻が使ってきた部屋だ。
(オリバー様の隣の部屋……)
ここに来てようやく、彼の妻になったのだという実感が湧いた。
実のところ、オリバー様と結婚したのだということが未だに信じられないときがあった。
とても幸せな夢を見ているのではないかと、何度も疑ってしまいそうになった。
「あ、あの!」
「……何でしょう?」
私は部屋まで案内してくれた侍女に勇気を振り絞って声をかけた。
彼女は私の声に反応してこちらを向くと、何の感情も映していない瞳で私をじっと見つめた。
「オリバー様は……いえ、旦那様はいつお帰りになられますか?」
「……」
私の問いに、侍女はすぅっと目を細めた。
「旦那様は夜にお戻りになられます」
「えっ……そんなに遅いんですか……」
今は朝の九時だ。
てっきり昼頃には帰宅するのだろうと思っていた私は、侍女の前だというのに驚きを隠せなかった。
(まだ結婚して一日も経っていないのに……)
仕事が忙しいのだろうか。
私がしょんぼりしていると、侍女がハァとため息をついて言葉を続けた。
「旦那様はお忙しい方なんです。このようなことはしょっちゅうあります」
「そ、そうですか……」
「では私はこれで。奥様と世間話をするほど暇ではないので」
「あ、はい……」
それだけ言うと、侍女はすぐに部屋から出て行ってしまった。
「……」
彼女が去って行ったことで、部屋には私だけが取り残された。
広々としたこの部屋にいると、何だか寂しい気持ちになる。
実家の伯爵邸にある自室はこれほど広くはなかったし、いつも誰かしら傍にいてくれたからだ。
(……何だろう。私、あんまり歓迎されてない?)
私がその考えに辿り着くまで、そう時間は掛からなかった。
先ほどの侍女の態度。
あれはどう考えても、主人の正妻に取るようなものではない。
(嫌われているのかしら……?)
もうそうとしか考えられないが、理由が分からない。
私は公爵邸に今日初めて来たため、使用人たちとは初対面である。
だから彼らに疎まれる理由など無いのだ。
(どうして……?私、何かしたかしら……?)
考えているうちに自然と暗い気持ちになっていった。
それに気付いた私はハッとなって首を横に振った。
(……いや、そんなことないわ。今は嫌われていたとしても、私の方から歩み寄っていけばきっと彼女たちとも良い関係を築いていけるはずよ)
そうすればオリバー様とも良い夫婦になれるはずだ。
だから私が悩む必要なんて少しも無い。
だけど――
「……………本当に、そう上手くいくかしら?」
一人になった部屋で、私は無意識にそんなことを呟いていた。




