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見知らぬ世界で、ほんの少しの幸せを  作者: すえゴハン
第十九章 眠れない理由

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第十九章 眠れない理由


朝。


俺――ジャクイユは、目覚ましの音で目覚めた。

今日は朝のドッキリは、なかった。


外からスコップで土を掘る音が聞こえる。


(スケさん、もう始めてるのか)


台所へ行くと、すえぞうが入ってくる。

ドッグフードの袋の前で座り、こちらを見る。


「おはよう、すえぞう君」


餌を準備し、自分の朝食も準備する。


腸詰めが焼き上がる頃には、すえぞうは居なかった。


食べ終えて、

ポケットにスーパーの袋を入れる。

毎日持つことにした。


家から出ると、スケさんが手を振ってくれる。

俺も振り返す。


すえぞうはスケさんにべったりだった。


(ちょっとだけ…寂しいな…)


歩いて薬屋へ向かう。


――――――――――――――――――――


薬屋に入ると、一升瓶がカウンターの後ろに飾ってあった。


目立つ位置に。


(あー、…自慢したいのかな)


ラベルそのままの一升瓶を見ると、少し恥ずかしかった。


作業場に行くと、いつもの種剥きセットがなかった。

代わりに、

すり鉢とすりこぎ棒、薬研が置いてある。

木鉢には乾燥した薬草。


(……今日はゴリゴリ君ですか)

(…地獄の種剥きよりかマシだな)



ミリナが先にお手本を見せてくれた。


俺は、


――粗め?


――細かく?


――これ、どっち使うの?


と聞くと、


「気にするな、とにかくやれ」


と手で言われた。


薬研を使うのは、小学生の社会見学以来だ。

すりこぎとは比べものにならない楽さに、正直驚く。


俺は、次々と粉に変えていった。


今日のミリナは、俺の顔を見るたびに、にやりとする。


(なんだろう、逆に怖いんだけど)


俺は、気にせずごりごり続けた。


―――


お昼。

今日はポトフだ。


見覚えがある腸詰めが入っている。


(おぉ、…結構美味いね)


俺は、親指を上げて、美味しいと伝える。

ミリナの顔は、少し嬉しそうだった。


――――――――――――――――――――


午後からもひたすら薬草を粉にしていく。


粉になった薬草を、次々と小瓶に移すミリナ。

底に残った細かい粉は、脂か何かと混ぜていた。


ミリナのにやり顔が、午前中より露骨になってきた。



そして、

エレジアがご来店。

今日は、いつもより少し早い。


ティータイムも早めに開かれた。


今日もあの苦いお茶だ。

味には慣れないが、不思議と好きになってきた。


二人は、笑いながらひそひそ話をしている。


(言葉分からないから、一緒なのに…)


――突然。


「ジャクイユ」


ミリナは、にやにやしながら、俺の名前を呼ぶ。


――明日は、早く来い。


――エレジアと。


――街に行け。



「……は?」



間の抜けた声が、思わず口から漏れた。


ミリナは、楽しそうに肩を揺らしながら、もう一度同じ仕草をする。


――明日は、朝一。

――エレジアと一緒に。

――街。


「……マジで?」


思わずエレジアを見ると、

彼女は少し困ったように笑いながら、小さく頷いた。


(え、待って待って)

(街? ……明日?)

(エレジアと一緒?…初心者村からいよいよ外の世界に?)


頭の中で、考えが一気に渋滞する。


そんな俺を見て、ミリナは満足そうに鼻を鳴らした。


――朝飯は食って来い。


――朝6時。


――遅れるな。


それだけ言うと、

「もう用はない」と言わんばかりに、二人でお茶に戻ってしまった。


(……投げっぱなしかよ)


仕事終わりまで俺は、

しばらく呆然としてたが、

気を取り直して作業を続けた。



16時過ぎて、

ミリナに帰っていいと言われる。


――朝6時。

――遅れるな。


ミリナに念を押されて、俺は薬屋を後にした。


エレジアは、少し恥ずかしそうに、小さく手を振っていた。


――――――――――――――――――――


家に戻ると、

スケさんは相変わらず外にいた。


(しかし……、広いな。…昨日より広くなってないか?)


……スケさんをよく見ると。


「え?」


ガレージから引っ張り出したハンマーで、

地面の硬い部分――ほとんど岩みたいな場所を、

ゴン、ゴン、と割っている。


(……応用力、高すぎない?)


近付くと、スケさんは気付いて、

誇らしげに胸を張った。


「すごいな、それ」


思わず素直に言うと、

スケさんは、少し照れたように、頭を掻く仕草をした。


俺は割れた石を指差してから、

畑の縁をなぞる。


「これで境界、作ろうか。

余ったら、家の横に集めておいて」


スケさんは、二回、しっかり頷いた。


(……本当に頼りになるな)


代わりに、スケさんが楽になればと、

”それ用”に使ってた貫通ドライバーを渡した。


(ごめんよ、家にはタガネが無いんだ)



俺は、スケさんを手伝おうとして、

転がっている石を端に移動させようとした。


だが――


はっきりとスケさんに止められた。

「怪我をしないで欲しい」と言っているように見える。


スケさんの気遣いを感じながら、俺はまた肩甲骨を撫でていた。


「ありがとう、スケさん」


(妙に気持ちいいんだよなぁ、スケさんの肩甲骨)


そうして、みんなで家に入った。


―――


今日は、ポトフを作ることにした。


ミリナのが、やたら美味かったからだ。


腸詰めと玉ねぎは問題ない。

キャベツは少し危ういが大丈夫だろう。

人参は全部芽が出ているが使う。


(う~む……)


使えそうなものだけ使い、

残った人参とキャベツの芯、ついでに腐りかけの白菜や、

その他、芽が出ている野菜ををスケさんに見せる。


「これは、明日にでも植えてくれる?」


スケさんは、また二回頷いた。


少し時期は早いけど、

まぁ、どうにかなるだろう。


(種取って…。まぁ数年はいけるだろう)


煮込んで、味見。


「……薄いな」


顆粒だしを、ほんの少し足す。


(ミリナのポトフ、なんであんなに美味いんだ?)


部屋で、ポトフを食べる。


「あ、そうだ」


ふと思い出して、時計を指差す。


「明日、俺、朝早いんだった」

「スケさん、すえぞうの餌、お願いね」


「帰りも、多分遅くなる」


ジェスチャーでそう伝えると、

スケさんは、当たり前みたいに頷いた。


(……もう、この骸骨ひといないと生活無理だわ)


―――


夜。


布団に入っても、

頭の中は、明日のことでいっぱいだった。


街。

エレジアと二人。

知らない人、知らない場所。


不安と、

それ以上に勝ってしまう、妙な高揚。


(……初めてのお使いが、いきなり街か……)


目を閉じても、

なかなか眠れない。


(もしかして…デートでは?)


そう思うと、

期待が先走りして、心拍数が増えていく。

眠れないことが心配になり、余計に眠れなくなる。


俺は、無理やり目を瞑って、すえぞうにくっ付いた。



第十九章 終わり

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