第74話 就寝前・1
D01‐70
「何をしているの? 」
この声は、…おそらく沙耶さんだろう。
「ああ、今日のDPの収支表を見ているんだ」
-「結構皆、頑張ってくれていたみたいだな」
「あな…、君は寝ていたものね」
うっ、実は寝たふりだったとは言えない…。
「ねえ、なぜダンジョンコアに頭を押し付けているの? 」
「特に意味はないよ、でもこうしている方が、旅先って気がするんだよね」
「……入って良い? 」
「……いいよ、沙耶さんもここで寝るの? 」
「ええ、そのつもりよ、嫌だった……? 」
「そんなことはないよ、このベッドは広いしね」
-「でも良いの? 」
-「今朝の御輿の上では、男の人は苦手だって言っていたよね…」
言っている間にも衣擦れの音がして、彼女が布団に潜りこんできた。
もう、ある程度は確認したし、なんだかそういう雰囲気でもなくなってきていたので、ダンジョンコアから頭を上げ、手で少し押す。
ダンジョンコアはふよふよとオレから一定の距離を開いて静止した。
オレは改めて沙耶さんの方に目を向ける。
おいおい。
布団を被っているので全てが見えているわけではないが、肩から腕にかけて素肌なので、着物を脱いで寝台に入ってきたのだろう。
オレの方はといえば、普段着の着物姿のままだ。
まあ、寝巻きなどは持っていないし、なんとなく着物を脱ぐ気にもならなかった。
「……沙耶さんって、羞恥心とかあんまり無い方なの? 」
-「脱衣所でも豪快だったよね」
「ごうか……」
-「あなたが下らない理由で、私を無視するからでしょ? 」
-「しかも途中で寝ちゃうし…」
「うっ、それはごめん」
-「なんとなく、気まずかったというか、聞きづらかったというか……」
「それはそうでしょうね、ここが向こうの世界で、相手が全く見ず知らずの人だったりしたら、警察を呼んでいたわ」
-「って、どうして今、首に手をやっているの? 」
-「なにを誤魔化したのか、はく…、…答えてくれるよね? 」
あ、言い直したぞ、感情を抑えている感じがこわいな。
「あ、ああ……、…あれ、実は寝たふりだったんだ」
「…………」
やべぇ、沙耶さんが反応しなくなったぞ。
「いやぁ、沙耶さんの視線を感じて、針の筵だったわ…」
笑って誤魔化そうとしたが、顔が引きつっているのがわかる。
「私はあのとき、独りは寂しいと言ったはずだよ? 」
-「それなのに、そんな仕打ちをしていたのね」
-「それに今朝とは状況が違うわ」
-「目覚めてからあの時までの草次君は、私が苦手とする男の人たちと同じ目でしか、私を見ていなかった…」
-「でも、あのあと、私を気遣ってくれて、不可抗力で倒れたのに謝ってくれて、独りにしないと誓ってくれた、だから……」
「だから? 」
「もういいかなって思ったの」
「……、そんな簡単に決めてしまうと、またすぐ後悔するかもしれないよ? 」
-「自分のことなのだから、もっとよく考えた方がいいよ」
「覚悟はあったよ、最初から」
-「ただ少し、…怖かっただけ」
「解らないな、なぜそこまで思い詰める必要がある…? 」
「ヤズナが言っていたわ」
-「最初に目覚めた時から既に、私と草次君は神々に祝福されていて、…結婚しているのと同じなのですって」
-「それに、私のことは、…君にとっても通過点のようなものでしょ? 」
「…どうしてそう思うの? 」
「ヤズナは、彼女は私を立てて、優先してくれている」
-「でも会話していても途中でぼうっとしたり、草次君に視線を送っていたりすることがあるの」
-「シルコワの方は、君と、…湯殿から出てきてから様子が変だわ」
-「何か心当たりある? 」
-「暇さえあれば中庭の井戸で、水を被っているの」
-「まるで煩悩を抑える修行僧のように…」
ああ、あれ、ヤズナが衣服を洗っているわけじゃなかったんだな…。
まあ薄々そんな気はしていたけどね。
「二人の気持ちは理解しているつもりだ、我慢を強いていることもね、でも……」
「待って」
-「湯殿でなにがあったの、気になるな」
「え、今その話、関係ないでしょ」
「でも、今、君、首に手を当てているよ? 」
「いや、そんなわけ……」
オレは自分の手をチラッと見た。
しまった。
おずおずと沙耶さんを見る。
「……」
「……」
「解った、話すよ……」
-「シルコワの技術って凄いんだよ、常にオレの視界の外に居ることが出来るみたいなんだ」
-「気になってシルコワの方を見ようとしても、いつの間にか外の景色を見ていたりして、ハッと後で気がつく感じなんだよね」
「シルコワの何が気になったの? 」
「いや、だから……」
「気になる格好でもしてた? 」
「うん、…まあね、湯着というのかな、白い着物姿だったよ、動きやすそうな格好だった…」
「それで……? 」
「うん、だから捕まえてみた」
「はい? 」




