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彼はおそらく、私が彼を好きなほど、私を好きではない・17

DP01-BS17



「沙耶さん……」


 レイナが私の肩に手を置いた。

 レイナの熱が伝わってくる。


「それは社会的にということだよね」

「はい、あなたがたには地位も立場もおありでしょうが、一度全部捨ててもらいます」

「そんなことは織り込み済みだよ、サヤくん、これだけ大きい事件になったのだからね」

「俺たちは一度、力を失う、だからこそ沙耶ちゃんの不安要素を潰していたんだ」

-「こんなことに巻き込んでしまってすまない、聖羅」

「直人さん、心はあなたと共に、……沙耶さんのことは任せてください」

「ありがとう、頼む、お前が妻で良かった」

「直人さん……」


「げふん、げふん、これは……、あてられますな」

-「ところで沙耶姫様、あなた様の映画製作も残っているのでお目こぼし願えませんかな? 」

-「保身のためと言うなら映画製作も重要ですぞ」

「副監督にでも引き継いでください、元々面通ししたのは彼ですから」

「ありゃりゃ、意思は固いわけですね」

「私も否やはありません」

「私も覚悟を決めております」

「いや、レイナは、味方だった事にしようかと思っていたのだけど、轡社長の一番の被害者なわけだし……」

「俺もそれには賛成です、今一番沙耶ちゃんの寵愛を受けている村澤さんが、沙耶ちゃんと離ればなれになる必要はない」

「寵愛って……」

「ええ、そのとおりです、沙耶姫がもっと重篤な状態に陥らなかったのは、村澤さんの功績だと言えます」

「それはそうだね、井崎クンはこれから幸せになって良いとおもうよ」

「そういうわけだ、レイナくんは私たちの分までサヤくんを護ってくれたまえ」

「みなさん、……ありがとうございます」




 話の流れで連絡先を教えあうことになった。

 そういう部分は京子さんに一任していたので思うところはある。

 私が辞めるとなったら、京子さんとはどうなるのか判らない。

 離れがたくはあるので、個人契約という形ででも、どうにか繋がりを持っておきたいけど…。

 どうかな? ダメかな? 


 その後、丁度タイミング良く警察が事情聴取に来た。

 誰かが私たちに配慮した結果なのかも知れない。


 関係者全員がいる場所でいろいろ聞かれた後、個別に事情聴取するらしい。

 そこで解散となった。

 私も2、3、聞かれたが、すぐに開放された。

 どうやら、私は意識朦朧としていたことになっているらしい。

 まあ、あのとき、喋ることもできなかったから、そういう判断になっても仕方ない。


 ひょっとしたら罪を軽減する思惑があって、私の知らないところで口裏を合わせているのかもしれないが、厳正に罪を問う気もないので、後でレイナにでも内容を聞いておこう。

 彼らは、せっかく私の味方になってくれそうな人たちなので、法的には穏便に済ませたいと思う。


 ただ両親がどういう反応を示すのかが判らない。

 私はまだ15歳、未成年で、親権は両親にある。

 両親が私の代理を務めるのは正統な権利と見做されるだろう。

 彼らは、一時的に私と暮らしたいと思ってくれている、ということなので、私を養子にと言ってくれている安城先生や神崎さんを責め立てるのかもしれない。

 あるいは、やはりお金の問題に終始して、示談に持ちこむための値段を吊り上げるのだろうか。

 メガネ以外は金持ちそうなので、全く問題にもならないのかも知れないが。

 どちらにしても係って欲しくないとしか言えない。


 ……ふう、なんだか疲れたな、少し寝よう


 私は寝巻きの胸ポケットからUSBメモリを取り出した。

 ……これ、どうしようか?

 もちろん処分するつもりだが、今はどうしようもない。

 枕の下につっこんで寝ることにした。




 目が覚めたら傍にレイナがいた。


「申し訳ありません、起こしてしまったようですね」


 レイナは今の今まで事情聴取を受けていたようだ。

 結構時間がかかったね、複雑な立場だったからかな……。


 クーーーーッ


 うっ、おなか減ったな。

 考えてみれば今日は何も食べてない。


 …………


 レイナがお見舞い品のリンゴを剥いてくれた。


 シャクシャク



 ところで入院だが、経過観察も含めて2週間に伸びた。

 血液中の悪性の成分は機械で濾し取ったはずだが、轡宅から押収され、こちらの病院に回ってきている、もともと注射された薬物の成分の解析がまだ終わっていないようだ。

 この先なにか不都合が起こってはいけないということから、大事を取って入院することになった。


 その間、シルクや菊佳さんもお見舞いに来てくれた。

 日本橋監督も病室前まで来たそうだが、京子さんに言って帰ってもらった。

 大人気ないと言うたいなら言うがいい。

 一緒に来ていたカストルさんのお見舞いは素直に受け入れた。


 また、両親も何度も見舞いに来ていたようだが、寝たふりをして、やり過ごした。

 多分、不審に思っているだろうし、寝たふりなのもバレているのでしょうけど。


 サガサンも、何度も病室に来て、物欲しそうに私をみていたが、USBメモリは死守した。


 京子さんは忙しそうに「轡社」社屋と病院を言ったり来たりしていたが、時間の許す限り私の傍に居てくれた。

 レイナも私に付き添ってくれていたが、京子さんに引っ張られて連れて行かれることもあった。


 レイナが病院に乗ってきたワゴンの運転手が怒鳴り込んで来たこともあった。

 彼の剣幕は凄いもので、女性看護師の川崎ありすさんは怯えていたが、丁度居合わせていたレイナが彼の耳元に何事かを囁くと、急に青くなって帰っていった。






登場人物紹介

門倉沙耶……15歳、女性、ダンジョンパートナーNo.1。日本橋監督が来たら追い返し、両親が来たら寝たふりをしてやり過ごした。

門倉彩……44歳、女性、ダンジョンマスターNo.84。沙耶の母。王将による謝罪と、知らないところで沙耶が生死をさまよっていたことを知り、憑き物が落ちたように母親の(かお)を取り戻した。

門倉王将……49歳、男性、ダンジョンパートナーNo.84。沙耶の父。沙耶に対する今までの行為を深く反省している。もしも許されるなら、もう一度一緒に暮らしたいと思っている。

八井津京子……34歳、女性、ダンジョンマスターNo.80。沙耶のマネージャー。収監された轡社長の後任を務めることになった。

籐郷睦助……35歳、男性、ダンジョンパートナーNo.80。沙耶の護身術の先生。「むっつりすけべえ」先生。作中には出てこないが多分いるはず…。

日本橋螺羅(本名:名塚夕)……30歳、女性、ダンジョンマスターNo.30。見舞い拒否。

長谷川カストル礼司……30歳、男性、ダンジョンパートナーNo.30。見舞いに来た。

万屋シルク……16歳、女性、ダンジョンパートナーNo.4。見舞いに来た。

長田菊佳……27歳、女性、女優。人が良い。見舞いに来た。

村澤レイナ……31歳、女性、ダンジョンパートナーNo.79。連絡先交換。あまえ要員。

安城文彦……41歳、男性、ダンジョンマスターNo.77。連絡先交換。少し敷居が高いかも。

神崎直人……32歳、男性、ダンジョンマスターNo.78。連絡先交換。少し耳が痛いかも。

神崎聖羅……29歳、女性、ダンジョンパートナーNo.78。連絡先交換。あまえ要員かも。

嵯峨優一……34歳、男性、ダンジョンマスターNo.83。連絡先交換。京子さんに一任したいかも。

メガネ……32歳、男性、ダンジョンマスターNo.85。本名・朔恭司。連絡先交換。一番納得の行く連絡先交換だったかな…。

衣笠幸四郎………27歳、ダンジョンマスターNo.77の秘書。空気。

川崎ありす……25歳、女性、沙耶専属に選ばれた女性看護師。

中田隆志……19歳、ワゴンの運転手。レイナに蹴り落とされたことにより、尾てい骨を打撲し、しばらく治療に専念していた。数日後、当時のレイナの言葉からワゴンの所在地を類推し、病院にまで来た。病院の駐車場で自分の車を発見し、病院からの連絡が無かった事に憤り、病院内に怒鳴り込んだが、居合わせたレイナに「私を襲ったことが発覚しても良いのか? 」と囁かれ、冷や水を浴びせられたような気分になって帰っていった。




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