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Ghost Mirror ―鏡合わせの七不思議と常世の生者―  作者: 鳥路
第一章:澄んだ世界を合わせたら
10/22

1:露川魚澄が覚えている事象

「四季」

「何かな」

「七不思議探索するのぉ…?ヤダよぉ…怖いし〜…」

「…前々から思っていたんですけど、どうして西間先輩って幽霊風情に対して幼稚園児並みにビビるんです?」

「ド辛辣だな、魚澄。家庭科室に連れ込まれそうになったお前を見捨てたら良かったわ」

「さーせん…」


「確かに不思議だな。四季、何かあったのか知っているかい?」

「なんで俺じゃなくて四季に聞くんだよ」

「絶対教えてくれないだろうから、教えてくれそうな人に聞くのは至極真っ当では?」

「不審者と魚澄、思考回路似すぎだろ…」


虎太郎は目を細めながら、自分の隣に座る露川君と真向かいに座る紘一を交互に眺める。

確かに…なんというか、そっくりだけど…。

せっかくだし、身内に紘一と似た人物がいないか聞いてみようか。


「その話をする前に、露川君」

「魚澄で結構ですよ、今坂先輩。苗字、あまり好きじゃないので」

「わかった。それなら僕の事も名前で良いよ。僕も似たようなものだから」

「…ここはここで似たもの同士だ。流れからして私と君にも類似点が」

「んなものねぇだろ…」

「そうだろうか。可能性を最初から否定しては面白くないよ。案外私達にも類似点があるかもしれない。そういう可能性を狭める行為は人生の可能性を狭める行為でもある。もう少し視野を広く、そして想像力を持ちなさい。それが人生を彩る些細な魔法だよ」


「…人生の可能性ってなぁ。俺もう死んでいるんだが?」

「では来世で活用してくれ」

「覚えている訳がないだろうが無茶言うな」


紘一の話にうんざりしたのか、虎太郎は頬に肘をついてそっぽを向いてしまう。

虎太郎と魚澄が追加されても、紘一の調子は崩れることはない。

むしろ話し相手が増えた分、口数が増えているような気さえした。


「…なぁ、四季。この不審者なんだんだよ」

「不審者じゃなくて紘一。記憶喪失だから沢山喋って記憶を刺激して貰えると」

「…てか、こいつが犯人である可能性は?」

「ないとは言い切れない。今は調査をして彼が犯人でない証拠を集めている途中」

「…そう、ですか。でも、少なくとも彼ではないと俺は思いますよ」

「それは、どういうことで」

「…他の事件ならともかく、なんですけど。俺の事件は…少なくとも親父が加害者なので。原因も、わかっているので」

「…君の、お父さんが?」


衝撃的な話だったのだろうか。紘一の表情が初めて崩れる。

対照的に被害者である魚澄は淡々と話を続けていく。

なんてことない、普通の話のように。


「ええ。うち、寿司屋をやっていたんですけど…今年の四月に廃業しちゃって。親父がそれから荒れて…ああ、この目もその時に抉られたんです」


包帯に覆われた目に手のひらをかざす。

分厚いそれのおかげで気付かなかったが、あるべきものは…そこにないらしい。

彼もまた、向かいに腰掛ける僕と紘一の歪んだ顔は覗けるだろう。

だけど、右隣に座る虎太郎の悲しげな表情を、視界に写すことはない。

もしかしなくても、身体中についた生々しい傷の数々は…お父さんからの虐待でついた傷なのではないだろうか…。


「最期の瞬間、灰皿を頭に叩きつけられたのは覚えているんですけど…頭には傷がなくて。その前についた傷は残っているんですよね。確か、六月の始めぐらいだったかな…」

「…」


魚澄が傷を見せようとしてくるが、紘一が無言で制止する。

そんな彼の行動に、僕も虎太郎も安堵したのは言うまでも無いだろう。


「よく、話してくれたな…こんな赤の他人に…」

「貴方だけだったら話しません。ただ、四季先輩は西間先輩のお知り合いですし…信用、しようかなと。西間先輩が亡くなられた事件、追っているようなので…」

「そっか。ありがとう。つまり…虎太郎、魚澄の事があるから保健室で絆創膏とか包帯とか大量に回収していたの?」

「そういうこと。病院にも連れて行って貰えていないから、死因?になった傷以外は全部そのまま残っていてな。この世界で負った傷じゃないし、なぜか治らなくて…」

「だから、毎日処置が必要だったりします」

「大変だな…」

「いえ…もう慣れましたので」


「慣れるほどここにいたの?」

「言われてみれば、そうですね…でも、具体的な日数はわかりませんね。日付の記録をしてみても、定期的に世界が更新されるのか…それが霧散してしまって」

「唯一記録として残っているのが職員室の鍵貸出リスト。現実で借りている奴らの分が定期的に更新されているみたいなんだが…それでも俺たちが書いた記録は下にスライドして残るんだよ」

「俺たちが借りている鍵は現実で誰かが借りても消えません。それから誰が鍵を借りているのか…その情報だけは消えないんです」

「ま、生徒が借りられない鍵とかは当然として、一部の鍵は待っても出現しなかったよな。印刷室とか、屋上とか…」

「色々と都合が良いですよね…」

「そっか…」


貸出リストの仕組みは理解できた。上出来だろう。


…しかし、話を聞く限り魚澄の事件は水曜日に偶然起こっただけで、水曜日の憂鬱とは言い難い。

彼の家が経営していた店が廃業したのは偶然だ。彼の父親が豹変したのだって偶然だろう。

今までどんな父親だったかは分からないが、廃業で荒れて暴力を振るうと断言できる存在ではない筈だ。


紘一が言うとおり、可能性の話ではあるけれど…誰もが不幸に見舞われた瞬間に荒れて、絶対に暴力を振るう人間になるとは言い難いじゃないか。

———再起を図る可能性だってあるのに。


それに彼の事件は高校生が関われるようなものではない。

0外部の共犯が直接手を出したケースも考えられるが、店の廃業なんて相当時間をかけないと出来ない。

それに魚澄は一年だ。彼自身が日和見高校に絶対進学するとも言い難い。

彼の事件はおそらく偶然の産物。

人伝いで噂になって…本来は「水曜日の憂鬱」ではない事件が「水曜日の憂鬱」としてカウントされてしまったのだろうと考えられる。


…他にもそれが無いとは言い切れないよな。

何が一連の事件で、何が無関係な事件なのか。

そこから探っていく必要があるが…何にせよ情報が足りないな。


「とりあえず、魚澄が置かれている状況は分かったよ。傷はここで痛んだりしない?」

「その辺りは…まあ、深いものがたまに痛む程度で。横になっていたら緩和しますので」


「そっか。それから…日和見に進学した理由って聞いていい?」

「え、ええ…最寄りの公立受験に落ちちゃったので…」

「確か、浜波商業だったよな?」

「はい。筆記は問題無かったと思うんです。だけど面接で…緊張して、全然話せなくて…それが原因とは思えないんですけど、心当たりはそれぐらいで」

「「あぁ…」」


「滑り止め受けていなかったので、二次試験の受付をしている中で最も近かった日和見に…」

「そっか…気持ちは分かるよ。僕も虎太郎も面接ボロボロで…かみかみで…!」

「痛い思い出だぜ…俺も四季も浜波商業落ちてるからさ…」

「こんなところで嫌な共通点を作らないでくれ…」


流石に受験の結果を左右させるほどの大物が関わっているような「一連」ではないと思う。

僕や虎太郎、媽守先輩はまあ…色々調べる事があるとしても犯行は比較的「簡単」

それらと比較した時、魚澄の事件は手が凝りすぎている。


最初だから派手にした?偶然を利用した?

ああ、考え出したらキリが無い。

せめてその点を調べる事ができたら…。なんて、無い物ねだりしたところで都合が良いものが出てくる訳ではないからなぁ…。

とりあえず、今は聞けることを聞いておこう。


「それから、魚澄周辺に紘一っぽい人っていた?」

「いいえ。これぐらい特徴がある人なら覚えていますので…親戚でも、クラスメイトでも、いたら関わりが無くても覚えていますよ」


「確かに…虎太郎は?」

「ないな」

「そっか」


紘一の外見は割と同年代にしては大人びているし、なんなら格好良いなと思う部分が多い。顔も良いけど、所作全般から育ちの良さを隠しきれていないのだ。

記憶があった頃はさぞおモテになっていたに違いない。


「不審者って女に困ってなさそう。彼女三人ぐらい同時にいそう」

「なんだその不誠実な印象は…!それに私は…彼女は少なくともいた記憶がないぞ。なんなら、親に見合いを勧められていたような…」

「「「見合い!?」」」

「何を驚く」

「いや、一定数いるとは理解しているんだが…」

「今のご時世に、見合いって」

「なかなかに時代錯誤だなと、思いまして」


「まあ、自由恋愛が主だからな。ところで三人とも彼女は」

「「いるわけねえだろうがよ」」

「こんな家庭環境です。いても別れていますよ。いたことないですけど」

「魚澄はともかく…四季も虎太郎もそこまで凄まなくていいじゃないか。ほら、恋愛事に縁が無くたって、私達には友情があるじゃないか。仲良くしよう」

「そうだね紘一」

「俺はまだ不審者と仲良くしようとは思わねぇ…」


頑なに紘一を不審者扱いする虎太郎の態度は軟化することないが、それでも紘一はめげずに虎太郎へ向き合ってくれている。

ここまで嫌われているのに、進む勇気はどこから沸くのだろうか…本当に紘一は不思議な存在だ。


「それで、四季。七不思議を利用するという話だが…」

「ああ。それね」

「生憎私はこの学校の七不思議を知らなくてね」

「それは当然だよね。ま、僕も全然知らないけど」


当然と言えば当然か。次の行動を定めるにあたり、七不思議のことは共通認識にしておく必要があると考えていたのだが…。

生憎僕は俗世的な話題には興味が無く、紘一は部外者だから知らない。


「俺も知りません」


さりげなく魚澄の方に視線を向けてみるが、彼の方も芳しくはなかった。

では、残り一人。

怖いが故に、知っていそうな存在に目を向ける。

しかし彼も話題を避けたいらしく、目を全力で背けてくるが…紘一の前でそれは無意味に等しい。


「虎太郎は知っているかい?」

「なんで俺に」

「苦手だからこそ、こういう話題を知り尽くしていそうだから」

「なんだその発想…。まあ、知ってはいるけど。明日にしろよ」

「どうして?」

「話したら、眠れなくなるだろうが…」

「「「…」」」

「なんだよその目は!わかったよ!話すから!ほら、こっちこい!今日はもう休むぞ!」

「「「へいへい」」」

「お前ら三人なんでこんな短時間で息ぴったりなんだよ!?」


虎太郎からの抗議を受けつつ、僕らは机を動かし、僕と紘一が横になれるよう新たな布団を敷き出す。

四人が横になれるスペースを作成したら、それぞれ上着とネクタイをハンガーに掛けて、布団の上へ寝そべった。

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