2:日和見高校七不思議
布団の中に入って、野郎四人で頭を付き合わせる。
「なんだかいいな、これ。青春というものだろう?」
「喜ぶな不審者…」
「修学旅行で夜話す時にやるノリっぽいですよね」
「まあ、やるのは恋バナとかじゃなくて怪談なんだけど」
「ムードの欠片もないよな…」
「では早速一番目から!行ってみよう!」
「お前が仕切るのかよ不審者!?俺もそこまで知らないからな!?」
虎太郎は咳払いをした後、ゆっくりと語り始める。
「まずは第一の七不思議「ものまね幽霊」。この世界で遭遇しやすい七不思議で、俺たちをからかうのが好きなのか、見知った人間の真似をして油断させ驚かせてくる奴だな」
「お二人に会う前、西間先輩は四季先輩の真似をしたこいつに騙されて…「あの時罪をなすりつけてゴメン」と必死に土下座を…」
「…魚澄」
なるほど。虎太郎はこいつに引っかかったから警戒をしていたのか。
いたずら好きなんて自我を持つ七不思議。ものまねの性質は使えるだろうけど、虎太郎同様その後は不快感を抱かせる可能性があるな。
利用するには捕獲する必要も出てくる。それに使いどころも十分見計らわないといけないだろうな…。
しかし、いたずら好きって自我が確定しているのか。
…対話、可能だったりするか?
「第二の七不思議「開かずの美術室」。これは生きている頃も有名だったよな」
「それなら僕も知っているよ。確か旧校舎が普通に使われていた時代に、美術室で生徒が一人自殺して、それからずっと閉鎖されているって話。校長以外が近づくと、怪現象が起きるらしい」
「…怪現象、というのは?」
「紘一、気になる?」
「少しな。今後、旧校舎を調べなければ行けなくなった時、その怪現象とやらで行動不能に陥りたくはないからな。どういう代物か分かっていた方がいいだろう。虎太郎、そこはどうだろうか?」
「さあ…色々あるって話らしいから、なんとも。でも、校長以外が扉を開けることが出来ない程度とは聞いたぞ」
「僕は無理に開けようとすると、金切り音が聞こえたりするって聞いた」
「ふむ…」
紘一が神妙な顔で考え出す。
旧校舎を調べると言えば、噂の肉塊の事もある。
安全とは言い難そうな環境だ。念には念を入れたい気持ちも理解できるが…。
「でも、なぜ校長だけが扉を?何かあるんですか?」
「その自殺した生徒、校長が新任時代の時に受け持っていたクラスの生徒って噂だし、何かあるんじゃないか?」
渡々枝校長って、新任教師時代からずっと日和見高校に勤めているのか…。
もうすぐ定年って噂もあったし、最初から最後までこの高校にいたって事なんだよな…。
何か、凄いな…。
「とりあえず、第二はこんなところ。第三の七不思議は「押収された理想コンパクト」だな」
「コンパクト?」
「ああ。中にはファンデーションが入っているらしい」
「化粧品…ですか」
「ああ。学校では地味子、でもその正体は人気アイドル!みたいな女子生徒が在籍していて、その生徒が「理想の可愛い」になるために使っていたらしい。でも、当時は校則違反だからって没収されてから仕事が上手くいかなくなって…学校もアイドルもやめて、消息不明になったって話」
「でも、こう言ったらなんだけど…たかが化粧品だよね。同じ製品だってあったんじゃない?」
「同じ化粧品を手に入れようとも…同じコンパクトを手に入れても…それは彼女が用いていた唯一ではないだろう。それでなければいけない理由があったんじゃないか?」
「…家族にプレゼントして貰った、とか?」
「そんなところだ。私達にとって「数あるものの一つ」でも、彼女にとっては「唯一無二の大事なもの」だったりしたのだろう」
「そっか…」
手元に戻れず、こんなところで七不思議をやっているということは、コンパクトは持ち主の元に帰れなかったらしい。
理想の可愛い…彼女にとって理想の姿になれていたということは、これを用いることで理想の姿に変化したりするのだろうか。
…第一の七不思議と組み合わせたらやりたい放題だな。
「次は第四の七不思議「家庭科室のプロフェッショナル」。元シェフが家庭科教師に転向したは良いけど、こだわりが強すぎて生徒が授業について行けず…泣く泣く学校を去ったが、自分の授業について行ける存在を求めて未だに家庭科室に陣取り、生徒に補習を仕掛けているらしい」
「クソ過ぎるでしょ」
「よかったー。その時代の生徒じゃなくてー…」
そんな先生に遭遇したら、僕の家庭科はボロボロどころでは済まないだろう。
むしろ家庭科が足を引っ張って留年なんてこともありそうだ。
そんな僕が悠長に成績の心配をする中、紘一は別のことを…その七不思議が発生させている被害に対して目を向ける。
「そこに、女子生徒が一人囚われているんだよな?」
「零咲先輩な。なに?不審者知り合い?」
「そういうことではなく…危険なことに巻き込まれているのだろう?何か出来ることをしたいじゃないか」
「…零咲先輩は俺が家庭科室に連れ込まれそうになった時、庇ってくれたんです。助けられるのであれば、何か出来ることをしたいなと俺も思います」
「俺も、早く助けたい気持ちはあるけど…鍵はないし、あの骸骨が用意するらしいマナー補習をクリアできる自信もない…」
虎太郎が渋る横で、魚澄が紘一に賛同してくれる。
魚澄も魚澄で事情があるらしい。
土壇場でも自分を犠牲にして後輩を守った零咲先輩…どんな人なのだろうか。
「あ、でも不審者ならテーブルマナーとか知ってそうだからワンチャンありそう」
「…テーブルマナーが求められるのか?」
「ああ。他にも何か調味料とか調理方法とか細かく問われるらしい。ポワレ〜とか」
「ぽあ…?その辺りは、自信がないな」
「紘一にも自信がないことが…あるのか…」
「…四季。忘れて貰っては困るが、私は記憶喪失だからな?」
「むしろその状態でテーブルマナーはどうにかなりそうなのは何なんだよ」
テーブルマナーは紘一がクリアできるが、それ以外は自信がないらしい。
魚澄の方も、似たような状態らしく…小さくため息を吐いた。
「調理方法は軽く囓っているので分かるんですけど、流石に本職には敵わないでしょうし…勉強する環境が欲しいですよね」
「図書館で勉強してから挑む?」
「そうしたいけど…あそこは今媽守先輩が籠城しているからな…よっぽどの理由がない限り入れてすら貰えない」
「入れてくれないって独占しているようなものなのか?」
「そんなところ。ま、俺たちも理科室占領しているし文句は言えないんだよな。水も出るし、アルコールランプどころか、ガスバーナーもあるから購買から持って来たカップ麺が唯一食える環境だし」
「その気になればパンも焼けますしね…」
「「便利だな理科室…」」
「ま、一番手っ取り早いのは媽守先輩の協力を得ることだろうさ。あの人は大企業の令嬢だし、これぐらい楽勝だろうさ」
「たまに食堂で調達してきたのか、材料片手に理科室の備品を使って料理を作っていますよ。凄く手が凝っていて美味しそうですが…食べさせて貰ったことはないですね。絶対お持ち帰り」
媽守先輩がどんな存在なのかは上手く理解していなかったが、割と良いところのお嬢さんらしい。
確かに、彼女の協力を得た方が楽に進みそうだが…。
絶対無理だろ。初手でカッターナイフ向けてくる女なんて…。
話は通じそうだが、何をしでかしてくるか分からない人と一緒にいられるわけがないだろう。
脳裏によぎるカッターナイフを必死に頭から追い出していく。
そんな僕を横目に、虎太郎は残りの三つに関する話もしてくれた。




