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G・G SKILLで異世界奇譚!  作者: 下心のカボチャ
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第三章 盗賊領主はハンコウする編 「嵐の前での選択」


 「………!!」


 月明かりしかない夜闇の森の上部から風鳴りに混ざり、癇に障る嫌な絶叫が微かに流れていた。


 視界の悪さに怯えを滲ませる乗馬ヘ手綱をしならせて鼓舞するダナンの脇をキャサリンが並走している。


 「思った以上にネチっこいわね……。」


 「まだこっちには気づいてないだろう。」


 冷静な声音でそう言葉を紡ぎつつ、視線を向けずにダナンは『キャス。』と名を呼ぶ……それだけでその一言に内包された意味を彼女は理解した。


 次に視線を合わせたキャサリンの微笑からもそれは明白であった。


 「二人を信じましょう。」



 ーー数時間前



 夕刻前にフェデルを出立したダナン達であったが、コルカドへの進路ルートについて、早々に最短を諦めての迂回を余儀なくされてしまう。

 当初は多少強引であっても大平原を北上しつつ、キャサリンの索敵能力でグールの薄い地点を駆け抜ける算段でいた一行だったが、陽の傾きかけた頃、問題が発生した。

 最初に気づいたのはやはりキャサリンであった、遥か上空において旋回する統率者マスターグールの存在を確認したのだ……それも四体もだ。


 出鼻を挫く想定外の存在、モンテやアドの一件を経て更にフェデル残留隊の見解を鑑みても尚、飛行型のグールが太陽を克服しているとは誰も考えていなかったであろう。


 「ありゃあ、どうなっておる?」


 即座に平原脇に広がる森林ヘ逃げ込み、木陰から上空を伺う一行……婆は眉間に更に皺を寄せ、理屈に合わないとでも言いた気なニュアンスを含めて声を継ぐ。


 「太陽を克服してるなら、あの蝙蝠ヤロウはリッチ由来じゃないんですか?」


 そう婆の言葉に反応を示したダナンの頬に恐怖という汗が滲む、だがそれも仕方のない事であろう。

 ただでさえ制空権を握り、群れを統率する厄介極まりない化け物であるのに、唯一の弱点すらも無くなってしまったとなれば士気低下どころではない大問題なのだ。

 寧ろそんな心境でも敵の考察を試みるダナンの胆力の方が際立っているとさえ言える状況である。


 しかし婆はダナンの心理的背景を見透かしつつ、淡々と彼の疑問を否定する。


 婆曰く、吸血鬼とリッチという造物主としての両者の性質には著しい隔たり、違いがあるという。


 「あの蝙蝠は吸血鬼の眷属にしか生み出せん、故に主の特性が反映されて太陽を忌み嫌う。それは能力として備わったものじゃろう……対してリッチの造り出すグールは本来なら技術、或いは魔術の範疇じゃ。あれは使役する邪霊を憑依させる形で『物体』を動かしておるに過ぎんし無論、憑依後の形質変化は出来ん。つまりは依代とする物が死体リビングデッドであるか案山子スケアクロウであるかの差異しかないハズ……。」


 「……けど、それじゃあアレの道理が着かないでしょ!?」


 尚も腑に落ちず、困惑と恐怖で表情を引き攣らせながら上空ヘ視線を向けるダナンに、今度はマイケルがぽつりと呟く。


 「道理や理屈はともかく、目の前の現実が全てだ……今更だが、モンテの旦那の悪い予感って、これを危惧していたんじゃないか?」


 「………。」


 「………。」


 言い知れない不安に苛まれ、一行の間ヘ静寂だけが拡がってゆく……だがそうしているだけでは状況の悪化を助長させるのみである。

 そんな現状に対し口火を切ったのはダナンであった。


 「現状で下せる判断はふたつ。強行突破で予定通り救援に向かうか、もしくは新種の蝙蝠ヤロウの情報を拠点に持ち帰るかですね。」


 僅かな沈黙の後、ひとつ目の案の歯切れの悪い声音を聞き逃さず、だが第三案として此処での統率者の『殲滅』を主張するでもなく……婆は代わりにダナンへ視線を送り、敢えて『ヌシの判断に従おう。』と言葉を紡いだ。

 そしてそれに追随する様にキャサリンとマイケルもにわかに頷いて見せる。


 第三案は選べない……この時内心で全員の見解は一致していた。

 ダナンの側からみれば最初からその判断を選択肢に入れなかった事に対し、指摘が無かった時点で察している。


 ではこの後に選ぶべき行動も全員の間で一致していたのだろうか?


 おおよそ似通っていた、否、実の所では悪い意味で寄り添い過ぎていたのかもしれない。

 この場で最たる強者である筈の婆がダナンに判断を一任した事が顕著足る証であろう。


 最重要とも断言出来る新種の情報とそれら『四匹』が使役しているであろう、キャサリンさえ把握しきれていない群れの動向……下手をすればその矛先はフェデルに向くかもしれないのだ。

 大局を見据えたなら生き残っているかも判らぬ人間をフェデルと天秤に掛けるべきではない。

 しかし、限られた時間の最中においてダナンの下した判断はあくまで『救援』であった。


 ……婆を始め、ゴブリン達は一言も異論を挟まなかったという。

 正否の有無ではなく全員が感情を優先した瞬間だった……だが。


 「森の北端へーー」


 「待てダナン。」


 意を決し、そう囁やきを紡ごうとしたダナンをマイケルが遮った。


 「俺と婆ちゃんが陽動を仕掛ける、その間にお前とキャスは平原を抜けろ。」


 その瞬間、ダナンだけでなくキャサリンまで眼を見開き、表情を強張らせる。

 ただでさえ少ない人員を割る等、愚策でしかない、そう即座に食ってかかろうとしたキャサリンを片手で制して、マイケルは続けた。


 「全員で突破はムズぃだろ?蝙蝠ヤロウの眼を派手に引き付けるヤツが必要だ。」


 「は?なら一番非力なワタシが陽動組でしょうが!!」


 明らかに怒気を含んだ声音に一歩分退いてしまうマイケル……が、今度は助け舟を出すかの様に溜息と共に婆が口を開く。


 「地の理に聡いダナンと高い索敵能力を有するヌシはこの先の展開で必須じゃろうて。逆に儂らの戦闘力は陽動向きじゃ。」


 先のキャサリンとは段違いの圧力に、キャサリンはおろかダナンまでもが反論を封じられてしまった様子であった。


 「安心せい、儂らだけならば問題無く逃げおおせるわ……後で必ず追いつく。」


 ほぼ一方的に話を断ち切り、マイケルの足元を一瞥すると婆はニタリと邪悪な笑みを浮かべる。


 (震えておるのか……そうまでして格好をつけるとは難儀な小僧よな。)


 そのまま有無を言わさずマイケルの首根っこを掴み、背中を向けると『機を伺え。』とだけ呟いて婆は木々の間を占める暗中へと音もなく駆けて行った……。


 「………。」


 「こうなったら、婆様の心配をするだけ野暮だろうな……。」


 「……ええ、そうね……。」


 ぽつりと相槌を打ったキャサリンであったが、口ごもり何故だか僅かに首を振った……様にダナンには見えたという。



 木々の葉を揺らす風に紛れ、死せる者達の怨嗟が渦巻きつつあった。

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