第三章 盗賊領主はハンコウする編 「痩せこけた死神はただ……待っている。」
凄まじい……凄まじ過ぎたかもしれない。
最早これは無双を軽く凌駕し、蹂躙の域で戦況が推移していった。
まぁ端的に言えば、最初のオープニング・セレモニー?であるアッパーカットが出番としての俺のピークで、以後は殆ど活躍出来ない始末だった。
まぁ、それ程三人の戦いが凄絶を究めた……という事でもない。
まずミシェルたんだが、恐ろしい得物をブン回して、自身より遥かにデカいオーク達を撹乱しつつ戦線を維持する見事なタンク役をこなしていた。
そしてその役目を全う出来たのもロジャーとイチが高速戦闘に特化したコボルトを抑え込み、真価を発揮させなかった所が大きい。
つまり、特別な戦術や天地の差程の力量の開きがあった訳ではないのだ。
無論、ただのヒューマンとしてミシェルは異常な強さであり、ゴブリンの種族限界を超えたイチもロジャーも同様であるが、総勢五十名以上のオークとコボルトを相手取り、無双するのは容易じゃない。
端的に言えば多分原因は敵側にあったのだろう。
統制の重しが利かぬ、烏合の衆……徒党の中核を成し、全体を統括すべき者が早々にドロップアウトしてしまった。
そう、最初に撃破した鬼ども、本来ならこの鬼人五人が揃ってその中核の役目を担っていたのではないだろうか?
いやいや、じゃあ初っ端に突っ込んで来んなよってハナシになってしまうが……俺の考え過ぎだろう、傭兵を生業にしていると謳う以上、そんなに馬鹿じゃねーだろ。
いやまぁ、俺たちには寄せ集めで充分だとか勘違いしていたなら、その時点でもアウト級のやらかしだがな。
そう思い、残された二人の鬼へ感覚を向けてみると……愚にもつかない『殺せ』だの『潰せ』といったヤジを味方の背中へ飛ばすだけでやんの。
ちょっと周りの奴らが不憫に思えてきた……等と考えていた間も、敵は一番弱い俺を狙ってたりする。
そして餌(俺)に群がる者達をロジャーとイチがまたまた狩ってゆく。
「残り一分半を切ったぞ……。」
ケタケタと笑いつつ、ダロスが告げた時点で敵の残存数は半数以下にまで落ちていた。
「……なぁ、もう無駄だろ。」
ハイパーバトルゴリラと化したミシェルたんによって無惨に崩れ墜ちてゆくオークの巨体……その背中に腰を降ろし、後頭部をぐりぐりと踏みつけながら、彼女は苛ついた様に溜め息をつく。
「こっちは殺さねぇ様に手ぇ抜いてんのに、そのザマじゃあな。」
えっ?……ウソでしょ?言う程手抜きしてないよね。
さっき迄の俺の見解は的外れも甚だしいって事かよ、恥ずかしい。
まぁ俺ですらまだ半信半疑なのだ、実際に戦りあってる敵にしてみたら、ハッタリに聴こえる、いや、ハッタリであって欲しいよな。
「そっか……じゃあ面倒だから、これから刃向かうヤツは殺しちゃおうぜ。」
何の感情も込めず、淡々と言った俺の言葉にミシェルたんったら『待ってました!!』と言わんばかりの鬼嬉とした表情で自身の肩当てを二回、痛快にロングソードで叩く。
ロジャー&イチもにたりと笑みを浮かべ、残された敵へ尋常ならざる眼差しを向ける。
……もうそうなると敵が哀れこの上無いわ。
ミシェルたんが肉椅子から立ち上がっただけで周囲に異様な緊張感が張り詰め、勝手に敵が恐慌状態に陥ってくれる。
結局、うちのハイパーバトルゴリラが雄叫びを上げた瞬間、鬼どもを残してならず者たちは散って行ってしまった。
暫くの間、呆然と立ち尽くすだけであった鬼二人を俺達は囲み、威圧を込めて見下ろす……。
と、突然イチタロウが鋼鬼へ飛び込み、顔面へ膝蹴りを叩き込んで鼻骨と前歯をごっそりと奪う。
「………!?」
ぼたぼたと鮮血を滝の様に地べたへ流す鋼鬼の頭部を、続け様に踏みつけて血の海に顔面着地を決めさせるイチタロウさん……ちょっとやり過ぎじゃね?極悪過ぎるって。
「頭が高げぇ……ちゃんと並べや。」
真横で起きた惨劇に顔面蒼白となった残りのひとりへ冷酷非情にそう言い放ったイチタロウ、その後方からミシェルとロジャーが倒れていた三人を蹴り飛ばして一箇所にゴミを集める。
「………。」
「おいおい、すげぇブルってんじゃん、どうした?」
「ガーチャの家族を襲ったクズ共って、五人だったよな……人数的には合ってるし、コイツらじゃね?」
鋼鬼のツレっぽいし、当たりか?本人に確かめようにも今は喋れないだろうよ。
とか考えている内に、一列の真ん中で唯一、無傷で恐れ慄く鬼ヘゆっくりと近づくロジャー。
「答えろ……お前たちか?」
だらんと両肩を脱力し、地面ヘ垂らした双剣がガリガリと音を立てて、鬼に返答を迫る。
……答えに窮し、沈黙を引き延ばす鬼に対して、次の瞬間、躊躇など許さぬ一撃が容赦無く閃く。
「………ァガッ!?」
跪いた上から内腿を双剣で刺し貫き、脹脛迄到達させた刀身を90度捻り、捏ねくり回す……夥しい鮮血が飛沫を上げて、急速に血溜まりを広げていく。
「ーーアアアアアァッ!!!知らねぇ!!お、俺は知らねぇ!!関係ねぇんだ、許してくれ!!」
必死に弁解してるが、どうよ?ティンさんや。
『拷問によって心拍数、発汗、血圧から動揺を推察するのは困難ですが、おそらくは虚偽でしょう。』
……ほう、理由は何だい?
『対象の鬼が無関係を主張した瞬間、他の四人の反応が顕著に現れました……嘘を咎める激情、怒りに似た反応だと思われます。』
まぁ、土壇場の言い逃れだとしても裏切りだからな、そりゃ許せねぇわな。
そんな事を考えていると……不意に気配みたいなものを感じ、俺は周囲ヘ視線を巡らせる。
暫くしてから視線を戻すとイチタロウと目が合う……。
「………。」 「………。」
何気なくイチタロウがロジャーの肩ヘ手を置くと、やがて溜め息を吐きつつ双剣の柄を離してロジャーは立ち上がり、背中を向けた。
さて……一応、他にもガーチャ関連のクソ鬼が居ないか聞こうと思ったのだが、人数的に合っていたが故に杞憂だと思い直して止めた。
これ以上、この町に居る事自体が胸糞悪かったからだ。
「じゃあもういいや、後は勝手にしな……ダロスさん待たせたね、行こう。」
「おいおい!?ちょっと待てよ!!きっちり殺して報復しないでどうすんだ、あぁ!?」
おいハイパーバトルゴリラ、本当に物騒だよ君ィ。
まぁ……荒ぶってるが、それだけロジャーを身内と捉えているのだろう。
そんな彼女に、ロジャーは一言だけ「行きましょうミシェル。」と呟きながら、一瞬だけ視線を切った。
その仕草に暫く沈黙を守っていたが、彼女も思う所が在ったのか、ぶつくさと鬼に文句を言いつつも俺の元ヘ歩み寄ってきた。
「……敢えてか?」
ポツリと小さな呟きが聴こえた、俺はただ沈黙を以て肯定を示すだけである。
俺達の意を受け、ダロスは一瞬で足元に数m程の複雑な紋様の転移魔法陣を展開させて陣の内側へ入る様に促す。
こうして俺達はこの最果ての町からお暇したのだが……残されたあの五人がその後どうしたのか、まぁどうでもいい。
少なくとも今後、俺達の前には現れないだろう。
何故かって?……それはあの場に渦巻く夥しい敵意と悪意の視線に気付いちまったからだ。
もうひとつ、遠巻きにあの痩せこけた犬とまた眼が合った……気もした。
何処かで、あの五人の鬼を殺す事が憚られる様な感覚、いや、手負いで置いてゆくのを望む意思を感じたとでも言おうか。
個人的には二度と訪れる事はないと、思っていたのだが……いつか。
随分後になってから、俺はもう一度だけ、この最果ての町だった場所に訪れる事となる。
つづく




