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G・G SKILLで異世界奇譚!  作者: 下心のカボチャ
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第三章 盗賊領主はハンコウする編 「闘争の行方」


 ……武舞台上で対峙する鬼と小鬼、その表情に感情の色は見えず、ただただ穏やかにまるで神仏が如く佇むのみである。


 きっと怒りも憎しみも哀しみさえ……今の二人には不要であるのだろう。


 ロジャーには果たさねばならない使命が在る、ひとつはモンテを守り抜く事、もうひとつは唾棄され、軽んじられるだけのゴブリン族を変革してゆく事であった。

 がしかし、今ここに至り初めてロジャーは使命以外で自身の為だけに戦いたいと、戦いたい相手に出会えたのだと歓喜していた。


 そしてそれは赤詠も同様であったのだろう。


 老兵として自身が最期に戦うべき相手……ロジャーが武舞台ヘ上がった時から赤詠はそう感じていた、そういった意味では、鋼鬼が下手人であるかの真偽など、実の所どうでもよかったのだ。

 ただ、怒りや憎しみに囚われると云う事は戦う原動力となる反面、時として冷静な判断を奪い武人を凡夫へと落としてしまう。

 それだけは避けたかった、どうしてもそれらからロジャーを解き放ちたかった……そしてその想いは正しかったと赤詠は痛感する。


 「…………。」


 自分を見据え、半歩分距離を詰めただけのロジャーから先程には無い圧力を受ける。


 (強いな……儂が怯えを感じるとはの。)


 久しく忘れていた感情に思考が一瞬、痺れかけるが即座に立て直す。

 己が一歩後方は断崖絶壁であると、不倶戴天を抱き、感情の全てを御する事こそ肝要であろう……そう覚悟を定めた時、不意にある想いが赤詠の、否、両者の思考ヘ過ぎる。


 (ロジャー殿も……同様に怯えているだろうか?)


 (この方も……きっと。)


 ((恐怖し……それでも尚、))



 ーー尚、貴方(貴殿)に勝ちたい!!



 互いに踏み込んだ次の刹那……周囲で固唾を呑んで見守っていた全ての者達が、鎌と双剣による眩い閃きを目撃し、そして二人の鬼を見失う!!

 否、それはコンマ数秒の出来事であった。


 破砕音と共に、煌めき舞い散る刀身の欠片を残して武舞台両端へと姿を現す二人……。

 凄まじい衝突が故に生じた反発によって吹き飛ばされ同時に片膝を着く、身体を震わせ、砕けた双剣の柄を棄てるロジャーに対し赤詠の右頬が腫れ上がり、唇から血が僅かに伝う。


 その様子に武舞台下から見守る水蓮は悔し気に歯噛みしていた。


 (とんでもねぇ攻防だな、どちらを誉めるべきか分からねぇ……ありゃ頬骨を砕かれてやがるがジジィはそれを承知で武器破壊を選びやがった。)


 双方共にニタリと笑いつつ、再び武舞台中央ヘと踏み出す。

 鎌を失い、不要となった鎖を右拳に巻き付かせ渾身の正拳突きを放つ赤詠に対し、下方から肘によるカチ上げを合わせ、腕を跳ね上げてショートフックの連打を脇腹ヘ見舞う。


 「………ッ!?」


 声に成らぬ呻きを歯軋りで抑え込み、尚も膝を突きだすが赤詠の打撃は空を虚しく切り、コンパクトに織り込まれたロジャーの連撃が牽制以上の効率を以て刺さった。


 (後の先によるフルカウンター……出し惜しみナシでゴブリン・パンチャーを使うのか。)


 眼にしていても理解しきれぬ高難度の攻防に、モンテは背筋に流れる冷たい汗も忘れ眼が離せなくなっている。

 一撃でも食らえば終わりの打撃を悉く躱し、受け切りながらのカウンターは擦り減るスタミナ、精神力共に比べものにならないだろう。


 一見して攻勢のまま推移している様であっても、ひとつのミスも許されない綱渡りをロジャーが強いられている事実に変わりない。

 何より赤詠にはまだ余裕が在る……そうモンテには感じられてならなかったのだ。


 (早く勝負を決めろ!削り切ればお前の勝ちだロジャー。)


 そんな思惑を他所に、より激しさを増してゆく打撃の応酬……見事に連撃を切られ、単発での攻撃を繰り出すのみの赤詠ヘ合わせ、ロジャーの軽快なるコンビネーションがしなりを利かせて放たれる。

 如何に鬼人族が屈強なタフネスを誇ろうとも、蓄積されたダメージが限界に達すれば倒れるは必定、避けられぬ。

 現に赤詠の身体は眼に見えて肉が潰れ、無数に内出血を負い続けている。

 おそらく数か所に及ぶ骨折も在るだろう、それでも尚、ダメージを省みずに愚直な迄の攻撃を敢行していく。


 ……やがて何度目かのフックをロジャーが紙一重で躱した瞬間、それは訪れた。


 完全なるタイミングで放たれたカウンターの掌底が下方から突き抜ける様に顎を捉え……赤詠は思わず呻き、後方へと首を仰け反らせてしまう。

 その姿に確かな手応えを感じ、即決で畳み掛けようと踏み出すロジャー……が直後、仰け反らした首を反動で振り、赤詠がカウンターの頭突きを繰り出す。


 虚を突く巧妙で見事な反撃であった、あったのだがロジャーにとっては想定内、折込み済である。

 最初から踏み込み速度を二段構えで加速させ、頭突きが最大限の威力域ヘ達する前に受け掴み、止めの飛び膝を刺すつもりだったのだ。


 しかし、二段目加速を生む為に左脚のつま先が石畳を捉えた刹那……本当に僅かな殺気の膨らみを察し、ロジャーの本能が警鐘を鳴らす。


 (つま先踏み(ステーク・シフト)!?)


 頭突きの挙動を餌に、ロジャーの動きを封じるべく左足甲ヘ鋭い踏み足が杭打ちが如く襲いかかる。

 時間にしてコンマ数秒を正確に狙った技巧は……だがそれでも成就しない。

 咄嗟に足首を捻り込み、踏み足をスライドさせた事で踏み降ろしを回避せしめた。


 (前ヘ出過ぎたか、牽制で(流れを)切る!)


 ……ロジャーの選択は概ね正しい、常に冷静沈着を努め、有利に立ち回る事こそ勝利への近道であろう。


 だが気付けていない、思考を張り巡らせその感度を上げたが故に、本当に僅かな『安堵』という感情への欲求を、結果的に見通せなくなる……刹那の攻防がまだ続いている事に。


 赤詠が大振りとも取れる裏拳をロジャーの顔面へと放つ。


 「………!?」


 問題無い……自分は今、牽制打を撃つ為に上半身を反らすモーションに入っている、これまで同様に裏拳が届く筈はないのだ。

 『安堵』への欲求は蠱毒となり、赤詠の真意を思考の霧ヘと追いやった。


 次の瞬間、ロジャーの右眉尻が裂け、鮮血が飛び散る。


 苦悶の表情で後方ヘ飛ぶロジャーの右眼を滴る血が紫色へと染めてゆく……その様を見つめ、悠々と拳を構える赤詠。


 「土壇場でやりやがったなジジィ。」


 初めてダメージを受けたロジャーの姿に何が起きたのか、大多数の鬼は無論、モンテやミシェルも正確に事態を把握していない。


 水蓮は掌内の汗を握りしめ、思わず呟いていた……。


 右拳に巻き付けられていた鎖鎌の残骸……何時の間にか、10cmにも満たぬ遊びを持たされた寸胴が紫色に染まっている。

 全てはこの寸胴を掠める為のブラフ、餌撒きに他ならなかった。

 頭突きも踏み抜きも裏拳さえ、ロジャーの目測を誤らせ、完全に近い予測カウンターに歪みを齎す為の布石であったのだ。


 「……卑怯だと思うかね?」


 涼やかに笑み、そう愚問を問う赤詠ヘ静かに笑みを返すロジャー……。


 「いえ、これこそ闘争でしょう……。」


 張り詰めて赦さぬ空気ヘ風鳴りが砂を巻き上げて運んでゆく……ゆっくりと確実に終局が近い事を二人は悟っていた。




 つづく

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