第三章 盗賊領主はハンコウする編 「交差する印象」
今回はちょっと短くなりました。
「………。」
窓から射し込む斜陽の中では揺蕩う塵芥が煌めいている。
その様を一人、眼を細めて眺めていた老婆は溜息をつきつつ先程までやり取りをしていた青年モンテを思い出していた。
若いクセに飄々とした物言いと、それでいて危うさを感じさせる……判断に困ったとしか今は形容出来ない印象であった。
それだけに彼らが捜している村人達の情報を話して良いのか躊躇ったが、事情を聞いた限り鬼人族が奴隷商をしているのは知っていたので、いずれ辿り着いていただろう。
そう思ったからこそ、事実を正しく伝える事が命の恩人に報いる方法であると判断したのだが……。
(………。)
やはり拭い切れない漠然とした不安が老婆ヘ陰を落とす。
揺蕩う塵芥だけが気怠げに停滞を維持し、何処までも続きそうな雰囲気であった。
いや、それは永くは続かなかったのである。
次の瞬間、停滞を破る様に平屋の戸が開け放たれた。
そして陽射しを背にしたその人影に老婆は微笑みを向けて呟く。
「やっと戻ってきたかい、この風来坊が。」
ーー鬼人の居住地、正門
「さて、行くか。」
俺達はさっき通り過ぎた正門迄戻ってきていた。
今度は正面きって門番の前に歩み寄って門構えを見上げている。
「お前ら何だ、散れ散れ!!」
まぁ正常な反応ですな、ご苦労さまで〜す。
俺はあざとく勿体振りながらフードを捲り上げて見せる。
「人間!?さてはお前らがオーク共が捜していた者達か!!」
「いやはや〜〜話しが速くて助かるわ、鬼ィちゃん。」
舐めた態度の俺に対して、門番二人は手にした金棒を交差させて首元ヘ挟んでくる……が、それが彼等にとって致命的なミスになるとは思ってもみなかっただろう。
フードを脱いだ瞬間から、彼等の意識は俺へ向いていた、そう、俺だけにだ。
刹那、えげつない炸裂音を響かせて門番達はヒザから崩れ落ちてゆく……うわっ、けしかけたとはいえ同情してしまう。
桁違いに頑強な肉体であっても意識の外から急所ヘ一撃を食らえばひとたまりもない。
特にミシェルのロングソードの腹による顔面殴打は人中を捉えていたっぽい、前歯が砕けて気絶してやがる。
今後はミシェルたんを怒らせないようにしよう、明らかに以前よりパワーアップを果たしていた、常人ならこれで死んでいただろう。
「……ミシェル、お前、手加減した?」
「えっ……いや、鬼人相手にそんな事出来ないだろ。」
こいつ、自分のパワーアップに気づいてないのか……コワッ!
多分だが以前に一度、グール化直前までいった事で身体能力が大幅に強化されているのだろう。
より顕著なのは反応速度だ、精神と身体の結びつきとでも云えばいいのか、一流のアスリートでも欲しがる聖域を常に発動している様な……いや、何かやっかみそうだからこれ以上は考えるのを止めとこう。
「さて、行くか。」
「ロジャーは待だねぇのか?」
「ああ、思念伝達しといた、すぐに合流するさ……それより此処からは別行動だ、頼んだぞイチ。」
「問題ねぇ、むしろオラの方が安全だべや。」
右肩をぐるぐると回しながら、大口を開けて笑うイチタロウ、頼もしい限りである。
やがて一瞬で俺とミシェルを残し、イチタロウはその姿をNINJAの様に消して行った。
それから俺とミシェルは正門をくぐり抜け、真っ直ぐに目的地ヘ進み始めた。
ーー約十数分前
「御前試合?」
素頓狂な声を上げ、モンテは唇を尖らせて老婆を見やる。
「……単純に言えばね、鬼共は奴隷商だけでなく傭兵稼業を種族ぐるみでやってんだよ。当然、兵士の練成と維持は必須だろう?」
「で、定期的に首領の前で殺し合いをさせんのか……けどそんなもん、オレ達にどう絡めと?」
そう溜息混じりで言い淀むミシェルであったが実の所、老婆の接ぎの一句、頼み事の内容を察していたのかもしれない。
話しの腰を折る様な物言いの端々で彼女の本音が垣間見え、老婆だけでなくモンテやイチタロウまでが理解していた。
……ああ、コイツきっと面倒くさいんだなと。
「それが絡めるんだな〜これが。」
「………あぁん?」
「アイツら飛び入り参加を認めてるんだよ。この町の住民を黙らせたいのか、それとも挑発する意味合いか分からないけど『文句が有るなら戦え』と下知を気取ってるのさ。」
そこから老婆は淡々と町の事情を含めて語り始めた。
ある日突如として現れた鬼人族が町を制圧し、見せしめと云う恐怖を以て短期間であの居住区を住民に拵えさせた事。
更に鬼の首領である繕玄はその居住区の中で顧客ヘ武力を示す為のパフォーマンスとして御前試合を定期的に開催しているという。
……話しの結びまで、終始モンテは老婆から視線を外さなかった。
彼女の語り口、身振りや所作に僅かな違和感が無いかを直感と理性で判断しようとしていたのだろう。
結果として老婆の話しは第三者の目線に立った中立かつフラット過ぎる印象をモンテは受けた。
(俺達を害する意図も、意味も無い……か。)
モンテの脳裏に先程、老婆がベッドの埃を払った姿が過る。
……おそらくこの平屋は彼女の家ではない。
日常生活を営む者の仕草として、また性格的に不精だと仮定しても一連の動作の不自然さは否めなかったのだ。
そう思考を巡らせるモンテヘ不意に老婆が視線を合わせてきた……見透かすかの様に微笑んで。
(なるほど、ハナッからこっちが疑っても別に構わないって事か。)
あの時、放っておけば確実に老婆はオークに踏み殺されていた、そこに自分たちを巻き込もうとする策略めいた意思は無いと思われる。
……命をチップにした博打なら別だが、余りに分が悪い。
あくまで助けられた縁、渡りに舟で利用しようと云う事だろう、或いはRPGお決まりの素直に助けを求めてきた町人……とはどうしてもモンテには考え難かった。
だが老婆ヘ微笑みを返して、彼、彼女等は頼みを聞く選択をした。
飛び入りで御前試合ヘ参加し、『住民たちの意地を示す』と云う頼みを……。
つづく




