デストロイ外伝 『フィッシャーマンズ ライジング』③
今回も細々と更新出来ました。
細々?いや、ひっそりと書いておりますゆえ。
ーー公式来訪前日、PM8時、王立図書館
灯の落ち欠けたロビーをゆるりと進み、シオリは僅かに視線を上げて出入口を見据える。
「………。」
硝子扉を隔てた街灯に背を向け、佇む人影がひとつ……何処か見覚えのあるそのシルエットにヒールの音が鳴り止む。
「お久~☆私の事忘れちゃった?」
一拍の沈黙の後、その声を聞いた瞬間、シオリはにわかに眼を剥いて走り出した……そして。
「まっさかぁ!!んな訳ないじゃん、サラちゃん。」
その人物……碧渦の勇者こと、サラ・ストームへ飛びついて、首に腕を回すシオリの瞳は旧友に出会った喜びで輝きを放っていた。
「ふふ、普段は男装の麗人を気取っている癖に、こういう時は相変わらず可愛いのね。」
「サラちゃんこそ、見た目は娘役トップみたいに華やかなのに、中身は腹グロじゃない。」
抱きついたまま、互いにニンマリと笑い合う……傍からみれば、二人は確かに絵になるカップリングといえるだろう。
「どうせ宿の手配もしてないんでしょう、ウチの邸宅に来なさいな。」
「いいの?……それじゃあ、また語り明かしますか。」
語り明かそう……そう提案された瞬間、サラの表情が幾多の戦場を駆けた猛者を想起させるものへと変化する。
否……それは提案したシオリも同様であった。
「……『定刻歌劇少女 ギャラクシアン・エクスプロージョン 1・11 大阪ミナミホール冬の陣 那須野 飛鳥 引退公演』はどう?」
「アツいわね……第二次ピークの終焉とも呼ばれる伝説の公演。そして私達それぞれの推しが台頭し始めるターニング ポイント……今夜は寝かさない。」
「それはコチラの台詞よ、シオリん☆」
両者の間で不穏な火花を散らせ、互いに獲物を狙う美しい肉食獣が如く、今度は距離を取って牽制しあう二人……。
目的はたったひとつ、シンプルにしてディープ……推しへの狂おしいまでの愛を如何に披露するかである。
その過程で例え相手にマウントを取ってしまう事になったとしても、後悔しない、恨まない。
黒い笑顔を張り付けたまま、ロビーを抜けて夜の王都へと二人は踏み出してゆく。
◇
◇
◇
「……ところで、私に逢いに来た本音を聞かせてよ。」
何故居場所が分かったのか?ではなく、その目的をシオリは端的にサラへ問う。
旧知の仲であり、サラのスキルを知るシオリにとって、自分の居場所など造作もなく割り出すだろう事は安易に想像出来たからだ。
「あら、同好の志に会うのに理由がいるの?」
さも悲しいと謂わんばかりの表情を浮かべ、涙を拭う仕草まで見せつけるサラに対して、シオリは冷めた眼差しを黙って向け続ける……し続ける。
「んもうっ!?冗談の通じない……分かったわよ、言う、言いますぅ~☆」
「……で?」
「今朝、急に託宣が降りてきた……予知映像にアナタが見えたから伝手を頼りに所在を調べたのよ。」
「伝手って……もしかして、直轄機関を総員したんじゃないでしょうね?」
その瞬間、シオリの指摘を受け、サラの表情から一切の甘さが消え失せて、象徴を担う勇者としての顔を覗かせる……。
「それが極めて重要な予知だった……としたら?」
サラからの視線を受け、にわかに寒気を感じて眉間を寄せてしまうシオリ。
自身が映る予知、サラのスキルの特性、そして彼女の直轄である非公式機関を動かした事実……これらが示す真実を鑑み、予知の内容が如何なるものであるのか?
推し測るのは困難だろう、しかしひとつ確かなのは……。
「私に予知の内容を語れば、最悪の結末へ至るのだな。」
淡々と問い掛けられた言葉に対し、静かに頷いてみせるサラであったが……直ぐに緊張を解き、微笑んだ。
「でも伝えられる事もあるのよ♪」
「是非聞こうか。」
「託宣以外でシオリんを占ったんだけどね♪……出た結果は『契りを揺るがす者』 『黄昏から暁を見出だし足る叡知』のふたつ、それと方角は北西が吉よ。ねぇエライ?誉めてくれても良いのよ。」
「方角はともかく、ワードはふたつとも抽象的過ぎて分からんな、どう解釈したらいいの?」
……夜の王都を歩きつつ、何気なく前髪を人差し指で巻くシオリ。
その癖を目にし、サラは思わず声に出して笑ってしまった。
「サラちゃん?」
「いえ……ふふっ、ごめんなさい……アナタの困った時の癖、久々に見たものだから、ついね。」
直後、サラの何とも云えないはにかみに……シオリもつられて笑い声を上げてしまう。
それは華やかさと同時に余りに儚げな余韻を残して、夜の静寂へと溶けていった。
(シオリ……私、貴女の事が本当に好きよ。例え貴女が私を嫌いになっても……。)
◇
◇
◇
ーー出立当日、早朝
ジルコニアベルトの朝は早い、漁師街だけあって朝方の3時から船を出して沖へ定置網などを引き揚げにゆく。
市場が開くのが7時で、漁師組合員から割り当てられたシフトに則って開場準備に勤しんでいる。
「………?」
防寒着に身を包み白い息を吐きながら、集合場所であるアックス&ブレイダー前にやって来たシオリは驚愕の光景を目にして絶句してしまう。
「来たか……。」
……其処には犬艝4台に固定された大量の荷物とそれを曳く狼犬28頭、人員10名という大所帯が待ち構えていた。
「バララ……これは何の騒ぎだ?」
「ああ、シーズンオフで休業中の案内人達に声を掛けておいた……みんな喜んでいるぞ。」
刹那、さも当たり前だという雰囲気を醸し出すバララの首根っこへ腕を回し、ガイド達に背を向けて彼を睨み付ける勇者……。
「そういう事じゃないでしょ……バララくん(怒)」
「お言葉だが、まさか俺達二人で目的地へ行くつもりだったのか?」
「………。」
その問い掛けに苦々しく口をつぐみ、シオリは横目で町並みを……遥か遠くの山々を見据える。
そう、200年程前にジルコニアンイエティが棲息していたとされる地点はいずれも、北に聳えるキリング・マッチャロ連峰に点在していたのだ。
(……こういう所は元の世界と変わらない道理なのか?)
「ところで……いくら払ったんだ。」
鋭い眼差しとプレッシャーを間近で受けながら、尚、バララは淡々と事実だけを述べる。
「艝を含めた物資で金貨三枚、狼犬のレンタル料が金貨一枚、ガイド一人につき銀貨10枚、俺の取り分と、延滞金を見越して、あとは成功報酬で総額金貨11枚だな。」
「金貨11枚(約385万円)だとッ!?」
その瞬間、驚愕の事実に眼を剥いて、シオリはガイド達へ振り返る……みな、ホクホクとした満面の笑みを浮かべ、狼犬まで嬉しそうに息を切らせていた。
ーーちゃっり~ん……そんな音が鳴り響き、脳ミソが溶ける様な感覚に襲われる。
「謀ったのか?バララ。」
「……いや、ちゃんと依頼締結の書類に俺の条件事項として明記してあった筈だ。見逃したのはそちらのミスだな。」
「ぐぬぬ……。」
ーーかくして、勇者は旅立った(笑)
つづく
如何でしたか?ちょっとコメディにしつつ、勇者二人の事情も出せてほっとしております。
しかし……まだ外伝の佳境まで描けてない(汗)




