第二章 領主編 『初めて尽くしの同盟。』
今回は色々と試行錯誤してます。
先に謝罪をしておきます、すんませんでしたぁ(泣)
微かな木々の囁きに過ぎ通る風の感触……のどかな村の風景。
それらは例え営みを送る人間が居なくとも、静かに佇み続けている。
「………。」
民家の玄関口にあるウッドデッキの階段へ腰かけ、俺は上半身裸で婆ちゃんに後ろから包帯を巻き直されている。
やはり胴体に右腕を固定されていてはいざという時に動けない。
治療としては余り勧められないんだろうが、そんな甘えさえ今は疎ましかった。
そんな心情を汲んでか、無言で巻き直しをしている婆ちゃんの手が予期せずに止まる……。
僅かに後ろを向くと、婆ちゃんはデッキに置かれたウッドチェアを見つめていた。
風によって揺りかごの様に揺れるイス……視界の遠くではマイケルが生き残ったゴブリン達を集め、何か話しているようだ。
「婆ちゃん……俺を恨んでるかい?」
不意にそう呟いた瞬間、婆ちゃんの気配がほんの少しだけ揺らめいた気がする……。
「……あの洞窟で何が起きたのか、ロジャーの坊やから聞いたよ。」
「………。」
「儂がヌシを恨む道理などないさ……じゃがヌシにはそう聞かずにはおれない事情があるんじゃな?」
「俺はーー」
「解っておるよ、多くの者を、イチを救うために『天秤』に掛けざるを得なかったんじゃろ。」
天秤……俺にとっては思い上がりを打ちのめす、重い一言だ。
「ーーでも卑怯だろ?俺はそれをイチタロウ本人に黙ってるんだから。」
「儂はそれを卑怯じゃと思わんよ……すまんの、礼を言わねばならんのは儂じゃ。」
「………?」
「儂らの孫のために、ヌシには友に云えぬ秘密を抱えさせてしもうた、ありがとうよ。」
そう言って肩を擦り、再び包帯を締め直し始める婆ちゃん……俺は少しだけ、救われた様な気がした。
きっと婆ちゃんの方が辛いだろうに、俺には想像すらつかない。
人生の大半を共に過ごし、支え合ってきた姉の死に際さえ看取れず、突然に喪うんだ……それがどれ程の穴を心に開けるのか。
「儂らはこれからどうすべきかのう……ヌシはどうするんじゃ?」
煙草を取り出し、無言で婆ちゃんに許しを得てから喰わえる……。
「婆ちゃん達にはフェデルの町へニッカさんを連れて行ってほしいんだ、ついでに当座の拠点として避難してくれない?」
「人間の町かえ?ゴブリンを受け入れてくれるとは到底思えんがな。」
「そのためにミシェルとダナンに仲介として同行してもらうよ……俺は三人を引き連れて魔族領に向かうから。」
三人……そのワードを耳にし、婆ちゃんが溜め息をひとつ吐く。
「負い目から、孫を儂らに同行させるのではないのかえ?」
火を灯す様に一服を吸い込み、煙りを燻らせながら俺はゆっくりと首を横に振る。
……イチタロウを自分から遠ざけたいのか?
その感情がまったく無いと云えば嘘になるだろう。
だが戦力を割り振らねばならないのも、また事実なのだ。
なんせ洞窟から転移させたゴブリンの大半が子供や老人だったからだ。
おまけに中には捕縛した長老が二人入っていた。
呆然自失で事態を未だに把握していない様子らしい、今更余計な事もしないだろうが一応マッコイを監視として付けてある。
「気持ち的には否定出来ないけど、同行する一人はキャサリンに決めてある……あとの人選が悩ましい所なんだけどね。」
キャサリンなら索敵能力に特化している分、楽にフェデルへ辿り着けるだろう。
「今更じゃな……ほれ、出来たぞ、一応三角巾で腕は吊っておけ。」
そう言って俺から煙草を取り上げ婆ちゃんも一服すると、深く煙りを燻らせながら……その行方をじっと眺めている。
原色そのものの、眼がチカチカする様な青空へと煙りが立ち昇り、霧散して消えてゆく。
感傷に浸ってんじゃねぇよ……そう心中で自嘲を宣った時だった。
強風が吹き荒れて庭の芝生を揺らすのが見えた。
いや、揺らすなんて生易しいものじゃない……まるで『上から』押さえつけているような……?
刹那、遠くで誰かの叫びが風鳴りで掻き消された事で、一気に緊迫感が張り詰めてゆく。
そして俺が立ち上がろうと視線を向けた時、それは姿を現した。
屋根の切れ目から飛び出す白銀色に塗装された船体……聞き覚えのあるローター音、間違いないギャンビット号だ。
太陽を背に巨大な船影がナボルの上空を跨ぎ、広場でその動きを留める……。
次に来るのはおそらくーー。
そう直感が過った瞬間、異常事態に呼応してロジャー達が俺の周囲へと駆けつけ、遅れてミシェルとダナンが民家から飛び出してきた。
「モンテッ!?一体あれはーーー」
更なる突風がミシェルの激昂を遮った瞬間、上空で小さな影が確かにギャンビット号から射出された……いやはや考えるまでもない。
あの高さから飛び降りるブッ飛んだ思考の持ち主がそうそう居るワケがないわな。
凄まじい速度で降下ーーあわや地面に叩きつけられるという寸前で『彼女』の身体は完全静止し、その場の全員を風圧でたじろがせた後、はためく黒髪を掻き上げゆっくりと大地へ降り立つ……。
ネイビーを基調としながらも、グレーの極細ピンストライプがカジュアルとフォーマルの調和を取っている、まさにクールなオンナの装いとも云えるビジネススーツとそれに準拠する黒く、ソールに赤をあしらったハイヒール……残念なのは肩から羽織ったキシリア派の法衣があまりにも真紅色だったという点か。
ともかく、その女……浄火の勇者こと『シオリ・デストロイ・トラビス』は降臨し、油断のならない微笑みで俺を見据えた。
「………。」
沈黙の最中、何処か薄ら寒い感覚が俺達の間に流れている様にも思える。
ギャンビット号のローター音が遠ざかるのを聞き流しながら、彼女の所作に反して俺は彼女を見るでもなく二本目の煙草を取り出し、火を吸い灯す。
「少し雰囲気が変わったかい?」
相変わらず、言葉だけはフランクだなこの人は……。
「これでも色々とあったんで……。」
「それは……私に対する皮肉かな?」
「質問を重ねる無作法に答える必要はねーな、帰れば?」
「………。」
あざとく大口を開けて煙りを吐き出し、俺は思いっきり冷たい眼差しを心掛けてシオリさんへ視線を送る。
「相当嫌われたものだな……だがこちらも遊びに来たワケでもないのでね。」
不穏な空気がジワジワと肌を食む……実際の所、俺は領主に据えられた事を別段恨んでいる訳じゃない。
ただ、シオリさんには裏がある様に思えた、それは現状では致命的な見誤りへ繋がりかねないのだ。
ニッカの言葉から、エレメンツ教会を手放しで信じるのは危険過ぎる。
カルパティーン洞窟の崩落から、このタイミングで現れたのも疑わしい。
「そうかい、俺の方には用なんか無いから手短に話してよ。」
「不遜だな……分かった、手短に話すとしよう。」
「………。」
「……と言いたいが、その前にキミに確認したいのだけれど。」
俺は手のひらをパタつかせて溜め息をつく。
「……!?」
次の瞬間、シオリさんはコートに隠したガンホルダーから二挺拳銃を抜き、両手を広げてロジャー達へと銃口を向けた。
淀みなく……最速の所作によるセットアップ、おそらく反応出来たのはロジャーだけだろう。
現に他のみんなは、その表情に緊張と恐怖を滲ませていた。
もし引き鉄を引かれていたなら、有無を云わさず死者が出ていたに違いない。
「これはこれは……頂けないなモンテ君?」
「何が言いたいんだ、アンタは。」
いや、解っていた……見開かれた浄火の勇者の眼が容赦ない殺気を宿して 撓んでいる。
「解っているんだろ?……コイツらは、これは下等なゴブリン風情が手にしていい力量ではないぞ。」
その瞬間、シオリさんだけでなく、イチタロウ達にも不穏な殺気が迸る。
と、思ったが背後で牙が軋む音が聞こえた……婆ちゃんも一触即発かよ。
「今一度問おう……君は、何をしたんだ?事と次第によって、私は君を討たねばならなくなる。」
あの時、ロジャー達へ知性化を行った際にミシェルから問われた。
ゴブリンが人類を脅かす存在になる云々の話しか……。
きっとミシェルとダナンは今、俺の背後で複雑な表情を浮かべているんだろうな、何か空気にされてる感じだし。
「アンタと同じ問いをこの二人にも聞かれたよ。」
振り向かず、親指を背後へと差し、あざとく笑ってみた……シオリさんは眉をピクつかせている。
何気な~く視線を僅かに動かすと、マイケルが若干、涙目になっているのが見えた。
これ以上刺激するなとでも言いたい……のだろうか?
「返答を聞こうかモンテ・クリストフ・モンキーパイソン。」
「ん~答えは決まっている……くっだらねぇっだ!」
一瞬……その一瞬、周囲の空気が確かに凍りついた……そして次の刹那!!
「………!!?」
気づいたら、俺へと向けられた銃口から既に硝煙が立ち上っていた。
正確には銃声と硝煙が同時にきたと言うべきか……。
俺は微動だにせず、シオリさんを見据えていた。
漠然とだが、きっと撃たれてもロジャーが弾丸を何とかしてくれるだろうという期待があったのだ。
現に俺は無事だ……感謝を込め、ロジャーへ視線を向けると……向けると?
ロジャーは『その場』で俺へ驚愕と困惑の入り混じった表情を浮かべていた。
まるで『そんなの反応出来ませんって。』と言いたげだ。
ってかウソだろ!?一瞬遅れで全身にアリの大群が這い上がる様な恐怖感が涌きやがった。
何でだ!?何で俺は助かった!?視るとシオリさんも怪訝な表情で固まっている……だが少し、視線が下な様な……。
顔面を引き吊らせ、俺もほんの僅かに視線を下げると……そこには超意外な人物が俺の前に起っていた。
「ば……婆ちゃん?」
何処から取り出したのか、鉄扇を逆手に構え、音もなく佇む小柄な背中……。
「黙って聞いておれば小娘が……下等?風情?笑わせるのぉ。」
「………!?」
この時、俺の視界において二人は直線上で結ばれており、婆ちゃんの顔は見えていなかった。
だが、婆ちゃんから発せられたであろう威圧感は確実に真後ろの俺をも萎縮させ、直接相対しているシオリさんの余裕をその表情から剥ぎ取った様に思えたんだ。
おそらく二人を囲んでいた全員が気圧され、動けずにいたのだろう。
先程までの不穏な雰囲気とはまた一線を画す、濃密な死の匂い……絶対的な生死の境界線へと俺達を起たせているのは果たしてどちらの圧力であるのか?
イチタロウが、キャサリンが……マッコイやマイケルが後退りするのを堪えている最中、やはりロジャーだけが牙を食い縛って半歩踏み出す、そして。
狂ってしまいかねない沈黙が、永い永い数秒の刻がーー
ーー不意に終わりを告げる。
一転、先に躍動したのはシオリさんだった。
瞬きの速さで二挺の銃口を前方へと構え、後は引き鉄を引くだけ……だったのだろう。
しかし彼女の瞳は見開かれたまま、動けずにいる。
……何故なら、既に婆ちゃんはシオリさんの背後で佇んでいたからだ。
その事実に遅れる形で、二挺の拳銃は上半分が斬り裂かれ、崩れてゆく……。
「馬鹿な……そんな……あり得ない!?」
「それが現実だ……あとな、少なくとも婆ちゃんに関して俺は何もしてねぇよ。」
「………!?」
「アンタが下等と侮ったゴブリンは自身の研鑽と知識でアンタを打ち負かしたんだ……そして俺の仲間もそうだ、俺は彼等にキッカケを与えたに過ぎないんだよシオリさん。」
「だがッ!?……だがキミのした事で人類は。」
それは消え入りそうな呟きだったと思う。
「何を守りたいんだ?……この異世界で、勇者として人類だけを守って他の種族は根絶やしか?それとも人間が盟主にでも座ればいいとでも?」
その瞬間、シオリの脳裏にサラ・ストームの示唆した予言が過る。
ーー釈壁、その本質は小さき灯火を護り、世に広げて歩く者……されど其は全てを護る盾に非ず、必ず世を割るだろう。
(やはりモンテ君は危険過ぎる。)
幸い今のモンテ自身は大した脅威ではなく、息の根を止めるには最大にして唯一の機会に違いない。
仄暗い感情が涌き上がる中で、武器を破壊された現状において……彼女にモンテを殺す手段は無いと思われた。
否、正確には彼女自身には無いと言うべきだろうか。
シオリは事前に副官であるバララに対し、ある命令を下していた。
それは彼女からの特定の信号弾を確認次第、眼下のナボル村をギャンビッド号の全火力で焼き払うというものだった。
ジャケットの袖に仕込んだ小型の緊急時用信号弾……モンテを標的とするために、信号弾を射てば位置的に自身も命を落とすであろう悲壮な覚悟を求められる。
彼女にとっては今更と吐き捨てられる覚悟だろう。
しかし、そんなシオリの心中に先程のモンテの言葉がリフレインされていた……そしてその言葉は彼女に小さな変化をもたらす、どうしてもシオリはモンテに訊いてみたくなったのだ。
「ではキミはッ!!何を守ると言うんだ!!何を目指し、掲げる気なんだ!!」
そう叫んだ瞬間、モンテは明らかに憤慨した様子でシオリへと歩み寄ると、彼女の襟首を左手で掴み……そして!!
「……!?」
BooBoo♪BooBoo♪
BooBoo♪BooBoo♪
【や、やりやがったぁ♪】
【シビれる、憧れるぅ♪】
【シビれる、憧れるぅ♪】
Oh! success!! & burst!! & stylish!!! & fantastic!!!
それは盛大に、そして雑多に鳴り響いた好感度変動のSEだった……ちきしょう、やっちまった(泣)
視界に好感度関連の文字が凄まじい勢いで綴られるが、即座に消す。
……勢い込んでシオリさんの襟首を掴んだあの一瞬、俺はどうしても言葉が出てこなかった。
明確な怒りと反論があったのにも関わらずにだ。
きっと言葉にしてしまったなら……どんなに大切な想いであっても嘘臭くなる気がした。
……その時、頭が真っ白になった俺の眼に、シオリさんのリップが見えた。
俺は……俺は、彼女の『それ』に吸い着いていた。
自身の舌を捩じ込み、それこそ夢中で貪る。
貪り続けた、離れようと抵抗するシオリさんの嬌声と息遣いが更に俺を加速させた。
腰に左手を回し、引き寄せて……彼女が俺の舌を噛んでも構わずに口端から血を滲ませても絡ませ、吸い上げたのだ。
眼を剥き、視線を逸らさずに……やがて、シオリさんが腰砕けの状態で崩れ落ち、唇を離しても俺は彼女を見下ろしていた。
そして、ふるふると震えながら半泣きの彼女に対し俺は何故か叫ぶ。
「これが答えじゃあッ!!」
BooBoo♪BooBoo♪
いやはや、俺って最低だ……。
そうエセの男気全開で叫んだ直後、効果音と同時に俺は顔面へ禍々しい衝撃を受け、4~5m程吹き飛ばされていた。
まさしく鬼の形相で振りかぶられたマッコイ&キャサリンの拳が容赦なく突き刺さったからだ。
まさか身内の攻撃で走馬灯を視るとは……。
「乙女の敵がっ!!」
二人はシオリさんの前に立ち塞がり、激昂を轟かせる。
その様子に周囲の男共は青ざめるしかないだろう……ロジャーでさえ、戸惑いの表情で俺をやっと介抱しにきた位だ。
「しっかりして下さい!!傷は浅いですよ!!」
声が……遠いよ……ロジャー。
視線の定まらないグロッキー状態の俺の頬を平手打ちし、意識を戻そう……とするのは理解出来るが痛い。
当のシオリさんはというと、マッコイ&キャサリンが援護に入った事が解せないのか、放心状態で二人を見上げている。
「初めてじゃあるまいし、大袈裟じゃよ……。」
シオリさんの背後でそう婆ちゃんが辟易した様子で呟く……その言葉に乗じて男どもは俺のフォローへ転じようとしたが……結果、それがいけなかった。
婆ちゃんの一言でシオリさんが唇を指でなぞり、本格的に泣き出してしまったからだ。
「ま、まさか……は、はじめーー」
刹那、驚愕の一言を吐こうとしたマイケルの身体が綺麗にくの字形で宙を舞う!?
何処ぞの世紀末覇者を彷彿とさせるマッコイの剛拳が炸裂したのだ。
不味い……二人に変なスイッチが入った、このままでは男連中は全員粛清されてしまう。
おそらくロジャーでも事態を打開するのは不可能だろう。
先程とはまた違った死臭が漂い始めた……その時だった。
「やめい!!小娘共がッ!!……もう充分じゃろ。」
最強存在の鶴の一声に場が静まり返る。
流石に二人でも、婆ちゃんの圧には溜飲を下げざるを得ないらしい。
何とか助かった……のか?
「さて小娘よ、場が荒れてしもうたが続きを戦るかね?」
「いいえ……今は素直に負けを認めます、私はゴブリンを侮っていた、謝罪します。」
俯きながら、絞り出す様に謝罪を述べるシオリさん……。
「ふむ、こちらも儂らの大将の愚行を詫びるよ……じゃが儂らもそちらを疑わねばならぬ理由があったのでな。」
「疑う理由?」
それは彼女にとって意外だったのか、怪訝な色を滲ませた表情で顔を上げた。
「んもう、ほら起ちなさいな、今日から貴女も乙女同盟の一員よ♪」
力強いマッコイの笑顔に促され、その手を取るシオリさん……何故だか気恥ずかしそうにしていた。
「モンテ君……その……どうやら、我々はお互いに行き違いがあったようだ、どうだろう、まずは情報交換……しない?」
妙にもじもじしながら、上目づかいでの提案とは……あのお姉様が!?
新鮮な感覚にまた悪戯心が芽生えかけたが、傍らで凄むマッコイ&キャサリンの圧に俺は自重する事にした。
いやはや、また厄介な同盟が結ばれてしまったものだ……いや、俺の身から出た錆なんだけどね。
つづく
久し振りのギャグ?回でしたが、如何でしょうか?
何やらツボを心得てないという突っ込みを受けそうですが、どうか今後も広い心で読んでやってつかぁさい。




