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G・G SKILLで異世界奇譚!  作者: 下心のカボチャ
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第四章 王都騒乱編  「残酷な真実との邂逅。」 後編 其ニ


 「……それは?」



 ふらっと街を歩く様な紫色のシャツとデニムに似た素材のワークパンツ?を着こなす巨躯の男……一見すると簡素だが、ひとつひとつは質の高さを思わせる、あまり戦闘には似つかわしくない服装だ。


 いや、貧民街で見かけてもそれは同様だろう……一言で言えばグレンは『浮き世離れ』し過ぎている。


 身を置く環境に染まれない、本人の性格も相まって、その乖離は一層際立って見える気がした。


 そんな男が、俺の眼前で今、ボトムのポケットから気安く怪しい『ブツ』を取り出しやがった。



 「おい、だからそれは何だ!?」



 黙ってニヤニヤと悪ガキみたいな表情を浮かべ、手の平に乗せた嫌な色味の黒い物体、欠片?を自慢気に見せる……何ならかなり臭い。


 しかし皆が嫌がる中で、ひとりロジャーだけがそのブツを食い入る様に観ている。



 「鬼岩蜂ジャイアントバズ・ビー……ですか?」



 その瞬間、グレンの笑みに若干の悔しさが加わった。



 「ご明察ッ!?……まぁ時間が無いし引っ張る意味も無いわよね。

 これは鬼岩蜂の外殻、その欠片を乾燥させた物よ。」



 「以前にババ様から聞いた事があります。

 南方の密林にゴブリンより大きく、自身の放つ匂いで他の虫を惑わせる蜂がいると……その時にこれと同じ物を見せてもらいました。」



 匂い……フェロモンみたいなものか?



 『鬼岩蜂ジャイアントバズ・ビーはこの世界最大級の体長を誇り、背羽を含めおよそ3mをゆうに越える個体も存在し、また長い年月を掛けて自身の外殻に体液を混ぜ込んだ泥を塗り込んでおく事で、危機の際に体温を急上昇させ、体液に含まれるフェロモン成分をより強く周囲へ拡散させる特徴があります。』



 何それ……怖っ!?……3mもあるのかよ、それに蜂って事は群れだよな。



 『当然です、彼等の形成する巣の大きさが名前の由来でもありますから。』



 もう絶句もんだった……そんな俺の顔を見て、何を思ったのかグレンは更に喜色ばんで笑う、だが。



 「……んで、そいつをどうすんだい姐さん?」



 一段低いミシェルの声にハッとした表情を浮かべ、グレンがポケットからもうひとつ何かを取り出す。



 「………ちょっと待ってて。」



 「………?」



 「……あら?点かないわね!?」



 外殻を地面へ置き、両手で取り出した火打ち石を叩き合わせる……が、なかなか火花が散らず、次第に焦りだしているようだ。


 長時間ポケットに仕舞い込んでいた所為でシケってるんじゃねぇか?


 半ば呆れつつ、俺は懐からジッポを取り出して外殻の側にしゃがむ。



 「こいつを燃やせばいいんだろ。」



 「そうそう……何それ?便利な物持ってるじゃないの♪」



 グレンを余所に……外殻を拾い上げてジッポで炙ると、直ぐに変化が表れ始める。


 じりじりと時間を掛けて表層が焼かれてゆくのに反し、大量の煙があっという間に立ち昇り、周囲に拡散してゆく……と同時にあれだけ不快だった匂いが甘ったるい果実の様に変化した。



 「煙を身体に、虫は敏感だからね、例え人間の鼻で匂いが感じられなくなっても数日間は向こうから避けてくれるわよ。」



 成る程な、確かにそれから歩き出して暫くすると、甘い匂いは感じられなくなったが……ロジャーだけはまだ匂いを感じているようで、ちょっと気怠そうに眉間へ皺を寄せていた。


 肝心の効果の方だが、どうやら覿面だったようだ……羽音が止んでいる。


 それと煙自体は霧散したが、俺達の後方から同じルートを辿っているパーティも副次的ではあるが効果を受けられるらしい、もうひとつ街道沿いの方はそもそも離れた場所だから『漆黒の翼爪』の連中も危険はゼロではないが多分大丈夫だろう……。


 ……難所をひとつ越えられたらしい。



 ◇



 けど……それからどれだけ距離を進んだのか、俺は唐突に心臓が締め付けられる様な感覚に襲われた。



 「………。」



 「おい……大丈夫かモンテ?」



 「ああ、気にするな、大丈夫だ。」



 にわかに足を止めた俺の背中へミシェルが声を掛けてくる。


 そろそろ現場が近い……気にしていないつもりだったが、あの夜の出来事がフラッシュバックしかけた。


 ……横たわる『それ』の脇を通り過ぎ、頬を伝う汗を拭って息を呑む。



 「モンテ様、あれはーー」



 不意に声を掛けられ、後ろを振り向くとロジャーが遠く、木々が立ち並ぶ一点を指さしているのが見えた。


 鬱蒼と生い茂る森の一画……そこだけ直線上に木々が薙ぎ倒されている。



 「凄まじい破壊力の『一撃』ですな……。」



 「!?……判るのか。」



 「はい、破壊の痕跡が連続した同じ軌道、角度……これを為し得る得物も、それを扱う者もそうそう居ないでしょう。」



 刹那、ロジャーの言葉に華火が目を吊り上げる。



 「破壊の軌道は後ろで横たわる『アレ』とも一致します。

 アドの町でマコが遭遇し、瀕死に迄追い込まれた敵……黒鬼の仕業ですね?」



 「多分そうだろう……実際速すぎて認識出来なかったが、最終地点、あの奥の木に刺さっているのは視た。

 すまん、武器には疎くてな、戦斧……だったか?柄が異様に長かった気がするが。」



 「我ら鬼人族が扱う武芸百般には無い武具だ、本当に父上がそんな物を取り回していたのか?」



 「間近で視たマッコイなら詳しく判るかもーー」



 ーーミシェルがそう言い掛けた瞬間だった。



 「………!!?」



 「モンテ様?」



 「話は後だ、先を急ごう。」



 急かした俺の言葉で場に緊張が疾走る……いや、何人かは周囲の濃密な気配に気付いたのかもしれない。


 まだ日も高いのに、MAP表示のグール反応が、明らかに速度を上げて増え始めやがった。


 取り急ぎ俺達もペースを上げて歩くが不安が拭えない……どうする?



 「なぁ……遺体さえ持ち帰れば、多少時間を過ぎても待っててくれるよな?」



 「それは期待しない方が無難ね、下手打てばアイツ、アタシらを置いて帰るわよ。」



 「置いてかれるん……ですかぁ?荷物背負ったまま徒歩で森林街道から王都まで数日かかりますよ!?」



 カルツ君の情けない悲鳴を聞き流しながら、考える……この時点で残り2時間を切っている。


 時間的余裕はそんなに無い、アクシデントが重なれば簡単に詰みかねねぇ事態だ。


 グールを迂回しながら進むか、突っ切るかの二択だが後者を選ぶしか道は無い……そう意を決した、まさにその瞬間だった。



 「………。」



 思わず舌打ちが洩れた、洩れてしまった……まるで真綿で首を絞めるかの様に、またしても状況が悪化したからだ。



 「どうした?顔色が悪いぞモンテ。」



 「………。」



 『マスター……ここはありのまま話した方が良いと思われます。』



 そう……そうだよな、ティン。



 「後方のパーティが退き始めた……多分、竜車に戻る気だろう。」



 「トラブルなのか?」



 「知らん!……だが最後の戦闘から三十分以上は経っている、負傷云々のトラブルじゃねぇだろ。」



 沈黙が広がる、思った以上に空気が寒い……けど仕方ない、ロジャーは何か察しているが他の人間にしてみれば俺の話には根拠が無い、証明も出来ないのだから質の悪い与太話か戯れ言にしか聴こえないだろう。


 しかし……だ、もう一人、居てくれたんだ。



 「理解った、じゃあお前が知り得る現状を話せ、全てだ。」



 意図せず立ち止まった俺の顔はおそらく、相当驚いていたんだろうな……。



 「何素っ頓狂な面してんだ、お前は元々、そういう非常識な事を空気も読まず『ぶっぱ』する奴だったろ?今更なんだよ……それによ、今までも大概言ってる事は合ってたじゃねぇか。」



 「……ミシェル。」



 『………マスター。』



 ………ティン?



 『ひとつ提案があります。』



 「………!?」



 ◇



 そんな事が出来るのか?考えもしなかった。



 『ーー以上の理由から、彼女の協力は必要不可欠と考えます。』



 ……ティンの提案は俺の理解の斜め上を行くものだったが、その方法が少し気後れ、というか迷ってしまった。


 だが渋る時間すら惜しい、今はやらない後悔より、やらかした後悔を選ぶべきだ。



 「ミシェル頼みがある!」



 俺が向き合うと、ミシェルは若干戸惑った様な顔で後退る。



 「んだよ急に……。」



 「時間がねぇ、俺に視えているもの……感覚を一時的にだが、お前と共有させてくれ。」



 「何を言って……」



 「………。」



 「……ミシェル様。」



 「……シェル姉。」



 ミシェルは肩越しにロジャーと華火を数秒見つめた後、息を吐いて俺へ向き直る。



 「何だが判らねぇが、良いよ……で、どうすればいい?」



 俺は頷きながら一歩踏み出し、ミシェルの両手を掴む、と少しだけ彼女の感触が強張った気がした。



 「十秒間でいい……頭を空にしろ。」



 「分かった、何も考えなきゃいいんだな。」



 「よしっ、いくぞ!」



 合図と共に、俺は目を瞑り、自身の額をミシェルの額へ合わせた。



 「ーーー!?」



 その瞬間……まぁこれは後からロジャー達に聞いた話だが、俺とミシェルの額の接触部分から眼も眩む位の光が迸り、俺達を包んだらしい。



 『アートロン・ニューロリンク形成……キャッシュ、バックアップ複製……相互循環、良好……。』



 頭を掻き回される様な十秒間……何故だかティンの言葉の羅列が歌っているように聴こえていた。


 ……やがて光が収束し、消えた後、ミシェルがぽつりと呟く。



 「……これが、手品のタネか……!?」





 つづく



 ◇



 頭痛が酷い……視界は真っ白な光で覆われてやがる。


 異様に永く、引き延ばされたと感じる時間の最中で女……多分、あたしと同年代の声が響く。


 この声はモンテも聴いているんだろうか?



 怖い、自分の存在を塗り替えられてゆくようでひたすらに怖い。


 死ぬ事すらそれまでだと割り切ってきた筈なのに……。


 でも、それでも、全部受け入れてやる……あいつのあんな面、初めてだったからな。



 フザけた奴だけど妙に人懐っこくて気になる、つい力になってやりたくなる。


 まだあたしも、あいつも死ぬ訳にはいかない、死なせねぇ。



 『………。』



 何だ?声が止んだ……?



 『やっぱり、貴女の力を借りて良かった。』



 「………!?」

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