転生者を殺す転生者
転生者、レッドハンマーは息を切らして走っていた。
己を追う黒い転生者から逃れるために。生き延びるために。
「ハァー、ハァー! 畜生!」
どうしてこうなった。俺は、選ばれたのではなかったのか。神に祝福されたのではなかったのか。何もかもを思い通りにできるのではなかったか。
否。レッドハンマーは力に酔っていた自身の愚かさを呪った。
自分以外の選ばれし者がいることなど、容易に想定できていたはずなのに!
「逃げても無駄だ!」
転生キラーは死刑執行人の如く冷徹な声を放った。
「貴様は俺が殺す。」
「おおおお! ヒートアロー!」
レッドハンマーは腕を振るうと、超自然の火炎が転生キラーに射出された!
「無駄だ。」
火の矢は0.5秒前まで転生キラーが居た位置を通りすぎた。
的を外したヒートアローは天井を破壊し、通路が塞がれた。
「これで貴様に逃げ道はない。情報を吐けば楽に殺してやる。」
「ハッ、クソが! 死ぬのはてめぇだ!」
虚勢ではない。レッドハンマーには策があった。それを遂行するだけの力も。
「俺がただやみくもに逃げ惑ってると思ったか!」
「……。」
転生キラーは理解した。
今彼らがいる場所は、路地裏の袋小路、四方が壁となっている空間だ。
そして今、唯一の通り道が破壊されたのだ。
「俺はこの街で生まれ育ってきた。地の利は俺にある!」
レッドハンマーは希望を確信した。生還の道を。
「ヒヒハハハハ! これが俺の力!」
レッドハンマーの全身が燃え上がる! 密室空間の温度が急上昇!
「灼熱無限爆撃!!」
超高温の業火が瞬間的に爆発! 転生キラーは火炎に包まれた!
「ヒャハハハ! ざまあみやがれ! これで俺は自由……何!」
レッドハンマーは驚愕した。
「爆発するだけの技か。今までの中で最も脳の無いチートスキルだな。カードを切るまでもなかったか。」
転生キラーは無傷であった。
「馬鹿な……生きて……!」
何故無傷? チートスキル? カード? こいつは一体何を言っているのだ!?
敵は青白い結晶状の光に覆われ、また、その冷淡な瞳の片方は以前の黒色から、青に変わっていた。
「このチートスキルの名前はパーフェクトガードというらしい。先日殺した転生者のスキルだ。どんな攻撃でも一度だけ防ぐ。」
言葉の意味は理解できなかった。故にレッドハンマーは考えるより行動することを選択した。
「死ね!」
足元で爆発を起こし、超スピードで敵に飛び込む!
しかし苦し紛れは通用しなかった。
転生キラーはジェットパンチを最低限の動きで回避し、レッドハンマーの胸を手刀で貫いた。
「ア、アバッ……。」
レッドハンマーは数秒前まで100度を超えていた体温が、急激に下がるのを感じた。
「他の転生者について知っているか。」
血を浴びた男は低い声で尋ねた。
「し、知らない……。」
「……。」
戦闘を通して予想していたが、今回も外れだ。転生キラーは静かに苛立った。
転生キラーの目の色がもとに戻り、結晶状の光の鎧は消え去った。
「死に……たく……ない……」
男の脳内に人生がフラッシュバックした。
平凡に生まれ。何の能力もなく。しかし突然に炎の力と、常人の倍近い身体能力と、誰も知らない異国の知識が手に入った。
それからは何もかもが自由だった。
しかしそれは、短い夢だった。
レッドハンマーは死んだ。
「取得。」
転生キラーがつぶやくと、レッドハンマーの死体から虹色の光の粒が溢れた。
そして光は転生キラーの手の中で、カードの形となった。
それにはレッドハンマーの絵と、チートスキルの解説が書かれていた。
ザリザリザリ。転生キラーの頭に音声が鳴った。
「こちらレイン。片付いたのか?」
女の声だ。
「そうだ。無駄骨だ。」
「ははっそりゃあ残念。」
声の主はたいして残念そうでもなく言った。
「ま、これで情報もなくなったわけだ。これからどうするつもりよ?」
「足で探す。」
転生キラーは迷わずに言った。
「マジかよ! でも私はもう手伝わんからな! そのレッドハンマーの情報と戦闘ナビゲートで、借りはチャラ! OK?」
「俺は一向に構わん。」
「よし、それじゃあ私は痕跡消して国外におさらばだ! じゃあな……いや待てよ? なあそのレッドハンマーって金とか宝物とか溜め込んでたりしねぇ?」
「相当にあるようだが。」
「それを私が貰って国外逃亡に使うのは?」
「それならばまだ協力しろ。」
「……。」
レインは一瞬悩んだ。しかし欲はリスクを上回った。
この狂人に協力すれば、稼げる!
「OK、交渉成立! 情報収集、文書偽造、なんでもやってやんよ!」
「……わかった。ならば俺はそちらに戻る。」
「ちゃんと金もってこいよな! へへ、ケーキの準備は?」
「いらん。」
転生キラーは塞がれた壁をキックで破壊し、夜の街に消えた。
その背後では、レッドハンマーの死体が煙となって消滅した。




