#45
―南部SIDE―
ボスから指示を受けたのは昨晩の事でした。
緊急時用に携帯している通信端末から通信が入ったので出ると
「休暇中に悪いんだが今から言う場所に向かってくれるかい?話は通しているからうちの会社の者だと言えば分かるはずだよ」
こちらの返事を聞かずに話を進めるのは相変わらずボスらしいなどと思いながらその時は何気なく話を聞いていたですが・・・。
話を聞くうちに事の重大性に気づき急いで身支度を済ませると指示された場所に向かったです。
『陸軍局航空技術研究所』
ボスに指示された場所は国軍の陸軍局が航空機の開発や研究などをする施設でした。
正門の厳つい守衛さんに千華警備から来た事を話し身分証を見せると何処かに連絡を入れている様子で、しばらくすると建物から焦った様子の軍人さんが駆け寄ってきたです。
「千華警備の南部さんですね、自分はここの技術官の川崎です」
川崎は敬礼しながら自己紹介をすると直ぐに付いて来て欲しいと言って歩き始めた。
南部は敷地内の建物を横目に見ながら案内されるまま川崎の後を追って行った。
「梶原さんから連絡を貰った時は正直驚きましたが、なんとか間に合わせました」
梶原って誰だろうと思った南部だったがボスの事だと思いだすのに時間が掛かったのは普段からボス、ボスと呼んでいる彼女にとってはしょうがない事だろう。
むしろボスの本名が梶原だと覚えている社員はどれくらい居るだろうか。
恐らく片手で足りるくらいいれば上出来だと思う。
さて川崎によって案内されたのは研究所の一角にある格納庫。
今は格納庫の正面扉が開かれそこに格納されている物が露わになっている。
数人の整備士が最終点検を済ませてちょうど下がっていくようだ。
南部の目の前、格納庫で活躍の瞬間を今か今かと待っているその姿は他を圧倒するほどの存在感を放つ鋼の悪魔。
今もなお各国の最前線で活躍し続ける世界最強との呼び声の高い攻撃ヘリAH-64Dがそこには居た。
対戦車ミサイル(ヘルファイア)や30㎜チェーンガンを始めとする強力な攻撃力や夜間や悪天候でも昼間の如く戦える数々のハイテク機器に高い機動性を誇る空飛ぶ戦車である。
といっても今目の前に居るのはその武装は解除され攻撃力を持たない機体ではあるがそれでもその威圧感は半端なかった。
「武装は解除させていますが念のために自衛装置は使えるようにしてます。まぁ使う事は無いと思いますがね。あとこちらに受領のサインをお願いします」
やや放心状態だった南部は渡された紙にほぼ無意識に近い状態で受領のサインをした。
受領書を受け取った川崎が整備士から最終報告を受け問題無い事を確認している時だった。
「川崎中尉、非常回線で通信が入ってます」
1人の兵士が駆け寄ってくると通信機を川崎に渡した。
非常回線という事で緊張した様子でそばに兵士が待機している。
「非常回線だと?こちら、川崎・・・あぁ・・はい分かりました」
川崎は何度か頷くと通信機を南部に差し出した。
「梶原さんが君に代わってほしいと」
コクリと頷くと通信機を受け取り耳を傾ける。
ゴクリと唾をのみ込むのが自分でも分かった。
これから言われるであろう事を考えただけで緊張する。
「もう着く頃だろうと思ったがぴったりだったようだね。ヘリが操縦出来ただろそいつを操ってうちの屋上まで迎えにきてほしいんだよ、じゃ頼んだよ」
それだけ言うとボスは一方的に通信を切った。
話し終わった南部は通信機を川崎に返す。
「はは、なんというか君も苦労しているようだね」
振り回されているであろう南部を労うように川崎が言う。
彼もまたボスである梶原に振り回された被害者の1人であるようだ。
南部は重い足取りでアパッチへと向かう。
タラップを上り後部座席へと座る。
「整備状況に問題は見つからなかったが何分古い機体だ。あまり無茶はさせないように、これが今回の整備報告書だ。なんの仕事はあえて聞かないが、まぁ何にせよこいつなら少々の事じゃ落ちる事は無いから安心して挑むといい。ご武運を!」
川崎は整備報告書といくつかの書類を渡すとそう言い残しハッチを閉めた。もちろんご武運をのくだりでは親指をサムズアップさせて。
川崎はすぐに整備士に指示を出すとタラップを回収させる。
南部が計器類の確認作業を行っていると不意に景色が動いている事に気づいた。
最初はアパッチ自体が動いているのか思ったがどうやら格納庫自体が後ろへ移動、もしくはアパッチを置いてる足場が格納庫からせり出す形で動いているようだ。
周囲の障害物が無くなったのを確認した南部はエンジンを始動させる為に準備を始めた。
「ふぅ・・・久しぶりなのでやっぱり緊張するです」
南部はヘリを操縦する事が出来る。
千華警備に就職する前、その手の技術を身に着ける為に一時期海外に留学していた時期がある。
その一環でヘリの操縦技術も習得していたのだが本人ですらその技術を生かす日が来るとは思っていなかった。
久しぶりで緊張すると言ってもやっぱり体はちゃんと覚えているですね。
あの地獄のような訓練の日々も無意味じゃなかったってことでです。
南部は遠い昔を思い出すかのような目でエンジン始動の手順を追っていく。
フュエルスイッチとマスターイグニッションをオンにするとエンジンスタートスイッチをSTARTの位置にセットする。
キュイーンという甲高い音がした。
自動作動装置が始動し圧縮された空気がバルブを伝いエアタービンに流れ込むとエンジンが始動する音だ。
左手をスロットルレバーに添えるとゆっくりと出力を上げていく。
およそ1/4ほど進めるとスロットルレバーから手を離し同じ手順で第2エンジンを始動させる。
第1・第2エンジンの始動が終わると補助動力装置を停止させいよいよ飛び立つ準備が完了したのだった。
―川崎SIDE―
研究所から飛び立っていくアパッチを眺めながら川崎は大きく息を吐いた。
やっと肩の重荷が下りたかたのような大きな溜息だった。
技術研究所で主任技術士である川崎にはそれなりの権限と力がある。
そんな彼に昨晩とある連絡があった。
それも研究所を通してではなく彼個人に対してだ。
見知らぬ番号ではあったが特に気にも留めずに出たのが彼の災難の始まりだった。
「はい、川崎です」
「あぁ私だ、至急準備してもらいたいものが・・・あぁそう直ぐにだ。リストは後でメールするから1日で頼むよ。じゃ」
「え、ちょ・・・っと」
「ツーツー」
いったいなんだったんだ、間違い電話かと思っていたがすぐに携帯が震えて新着メールがある事を知らせてくる。
恐る恐るそのメールを確認すると
『大至急ヘリがいる、それも普通のヘリじゃつまらない。飛び切り性能の良い奴で頼むよ、確かあんたの勤め先に肥しになりかけのヘリがあったろそれでいいから貸しな、明日取りに行かせる。 あんたの恩師より』
恩師という文字を見て携帯を取り落した川崎は額に変な汗が流れるのが分かった。
恩師というのは十中八九あのお方だろう。
まだ川崎がここの研究所で働く前にある教導部隊に所属していた事がある。
その部隊をまとめていたのが皆から先生と呼ばれていたとある女性司令官だったのだがとても変わり者だった。
彼女の振る舞いにとても真面目だった川崎は着いていけずいつも苦労していた事を思い出す。
最初は到底受諾出来るような内容じゃないと思っていたが次第に大きく悩み始める。
もし断ったらどんな仕打ちを受けるか、想像しただけで胃に穴が開きそうだった。
それに今も多くの現役兵士達が彼女の事を慕っていると聞く。彼らに私が協力しなかったという事がばれたら今の仕事も支障が出るかもしれない。
そういった経緯もあり彼は急きょ研究所へと向かい普段ならば最低でも数週間はかかるであろう複雑な手続きをゴリ押しで数時間で済ませると自分の配下の部下を総動員して整備作業にあたらせた。
千華警備会社から尋ね人が来ていると正門の守衛から連絡が入ったのと整備が完了したのはほぼ同時刻だった。
「なんとか間に合ったか、皆ご苦労様。最終点検を頼むよ」
整備士達に指示した後は走って正門に向かう。
正門に着くと驚いた。
到底ヘリの操縦が出来るようには見えない小柄な女性・・・少女がそこには居たからだ。
念の為に端末に送られてきた身分証の特殊免許の覧を確認する。
ヘリを操縦するのに必要な過程も問題なく総飛行時間も研究所にいるテストパイロットと比べると劣るものの問題ない時間だった。
(梶原さんが寄こしただけはあるということか・・・)
格納庫まで案内すると彼女も驚いた様子だった。
詳しく話は聞いていなかったのだろう。誰もアパッチを操縦するなんて思わないだろうし。
だが驚いたのも最初だけのようで着々と発進の準備を進める彼女を見て川崎は感心せざるを得なかった。
・・・
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・・・・・・・・・
「梶原さんも無茶な注文をしてくれるよ。まぁでも倉庫の肥しになるよりか現場で働ける方が奴の為だしな」
もう豆粒のように小さくなったアパッチに敬礼し最後の見送りを済ませると周りにいた整備員たちに指示をとばし格納庫の収容作業を進めた。




