初めてのお泊まりその6
移動中は、他愛もない世間話をしながらゆっくり車を走らせた。
気がつけば、辺りは夕暮れ色に染まり始めていた。
遊園地に着くと、夕方だというのに園内にはまだ多くの人がいた。
「マキナ。人多いし、はぐれないように手繋ごう」
そう言うと、マキナは一瞬驚いた顔をした。
「えっ?」
でも、すぐに柔らかく笑う。
「うん!」
そう言って、少し照れくさそうに手を差し出してきた。
「まさか太一から言ってくるとは思わなかった……」
そう言われて、俺も少し恥ずかしくなる。
はぐれないようにと思って言っただけなのに、急に意識してしまった。
その後、俺たちはアトラクションを三つほど楽しみ、土産物を見ようとショップに入った。
その時だった。
「あれ? カルナちゃん?」
突然、後ろから声がした。
振り返ると、二十代後半から三十代くらいの男女四人組がこちらを見ていた。
マキナを見る。
マキナは、嬉しそうな、でもどこか気まずそうな――そんな複雑な表情を浮かべていた。
すると、男性2人はマキナの方に近づきながら
何してるの?
まさか…店外デート?
もしかして…彼氏?
少し意地悪そうな笑顔しながら男性2人はマキナに話しかけた。
マキナは気まずそうな表情をしながらも、
違うよー。友達と遊びに来ただけ!
と明るく言い放った。
一瞬
えっ⁈
とは思ったが、多分デリヘルの客かお店の人だろうと思い話しを合わせる事にし、軽く男性達に会釈をし、マキナに、
店内うろついてるわ
と言い、逃げるようにその場を去った。
商品を見るフリをしながら横目でマキナの様子を伺うと、マキナは楽しそうな表情で話しをしていた。
お店の人ではないようだと安心しつつも、1人取り残された様な気持ちになりつつマキナを待っていた。
15分程待っただろうか。
男性達の
また、指名するからその時は気持ちよくしてなー
と笑いながら言う声が聞こえた。
ものすごくイライラしたし、どうすれば良いか分からない複雑な気持ちだった。
しばらくし、マキナが
ごめんね
と戻ってきた。
何て言えば正解なのか分からない。
でも変な空気にはしたくない。
だから、無理に笑顔をつくり
大丈夫だよ。あの人達は客?
マキナの顔は見る事ができなかった。
我ながら、
余裕ないな…
そう思いながら、聞いてみた。
うん…お客さん。
3ヶ月ぐらい前に呼ばれて接客したの。それから、軽い常連さん。
マキナは気まずそうに無表情で答えた。
ねぇ…怒ってる?友達って言った事…
少し、不安そうに震える声で聞いてきた。
彼氏とは言えない事は頭では理解している。
でも心が理解しきれていなかった。
別に。
そう答えた瞬間、自分でも分かるくらい声が冷たかった。
空気が、一気に重くなる。
マキナは少しだけ俯いた。
「……そっか」
短い返事。
その表情を見た瞬間、俺は後悔した。
怒っている訳じゃない。
でも、どうしてもモヤモヤした気持ちを隠せなかった。
しばらく無言のまま店内を歩く。
さっきまであんなに楽しかったのに。
たった数分で、こんな空気になるなんて思っていなかった。
すると、不意にマキナが立ち止まった。
「太一」
名前を呼ばれ、顔を上げる。
マキナは真っ直ぐ俺を見ていた。
「さっきの人達ね、確かにお客さん」
「でも、今の私にとって特別なのは太一だけだよ」
突然の言葉に、俺は何も言えなかった。
「友達って言ったのは、ごめん」
「急に聞かれて、どう答えていいか分からなかった」
「それに……」
マキナは少し困ったように笑う。
「彼氏ですって言ったら、太一が嫌な思いするかもしれないと思ったから」
俺は思わず聞き返す。
「俺が?」
「うん」
「だって、太一優しいから」
「変に気を遣いそうやし」
そう言うと、マキナは少し照れくさそうに笑った。
そして。
「だから、そんな顔しないで?」
そう言いながら、周りに人がいるのも気にせず、俺の手をぎゅっと握った。
「今日は、私と初めてのデートやろ?」
「嫉妬してくれるのは嬉しいけど、ちゃんと楽しも?」
そう言われた瞬間。
胸の奥にあったモヤモヤが、少しだけ軽くなった。
嫉妬なんて、格好悪いと思っていた。
でも。
それだけ俺は、マキナの事が好きなんだと改めて実感していた。




