本戦進出へ
【冬樹の部屋】
100本の動画を上げ、数日後。
春の叫び声に、ノートを書いていた冬樹は顔をあげる。
春『冬樹!これ私らのことじゃない?』
公式ホームページの期待の新人の名前が並ぶ中に。
冬樹のアカウント名“冬”の名前がある。
夏『今年、次期四天王が誰かと騒がれる中。
彗星の如く現れた新人達ですってよ』
夏の扇が当然とばかりに揺れている。
秋『急激に力を付けた新人達。
これから第三次予選。
本戦への切符は誰が掴むのか』
冬樹もホームページを覗き込む。
大きな特集の一部分に確かに書いてはある。
でも、タイトルはそれじゃない。
「これ、タイトルは“次期四天王は誰なのか”
四天王の次の座を争っている予選パス組の話」
その時、冬樹のスマホが鳴る。
第三次予選のお題の合図。
「お題
“システムも苦労すること”
“システムの使用禁止”」
読み上げながら考える冬樹。
伝五郎さんに教わった技術を使う時かも知れない。
「独身男にはカップ麺を使おうと思う」
秋が、冬樹の意図を確認するように眼鏡を直す。
秋『ハイリスクハイリターンです』
そんなことは、織り込み済みだ。
「だからやってみたい」
PCの前に座る。
イメージはある。
編集画面を開く。
独身男のフォルダ。
そこから取り出して、編集線に乗せる。
伝五郎さんの言葉を思い出しながら。
伝えたいところを見せるべき、真ん中に置く。
優先度の低い部分を削る。
余韻が大事なので、余白はなるべく残す。
「できた」
三姉妹がハイタッチをしている。
時計を見ると、もうすぐでタイムリミットが来る。
チェックをする間など当然ない。
急いで提出ボタンを押す。
無事、動画は通った。
あとは…。
部屋の時計の音がやたらとうるさい。
いや、これは自分の心臓か?
締め切りから、1時間がやたらと長い。
その間、何もする気にもなれず。
公式のホームページを見るふりをしてやり過ごす。
秋『時間です』
秋の宣言にもかかわらず。
今まで、時間ほぼ同時に来ていた通知音が鳴らない。
ダメだった?いや、それでも通知音はなる。
しばらく三姉妹と見つめ合う。
ダメだ。息ができない。
やがて、鳴る通知音。
急いで確認をする。
『保留。アップロード待ち』
今まで見たことのない画面が現れた。
秋『確認します』
秋の辞書が動く。
秋『確認しました。
この画面は、アップロード動画が。
100本に満たない場合に表示されるようです』
どういうことだ?
春『だから、先に条件を満たした人から本戦に出られるの!』
それを先に言って欲しかった。
慌てて状況を確認する。
こまめにあげていたから、カウントは95本。
あと5本必要。
「夏。急いで出せるだけ出して」
夏のペンが動画を弾いていく。
夏『アップロード数99』
一本足りない。おかしい。100本は作ったはず。
あ、俺のコインを立てる動画が。
規定の視聴数100人に足りていない。
秋『現状、18人まで埋まっています。
残り、12人です。急がないと』
わかっている。でもどうやって。
春『こんなこともあろうかと』
春が取り出したのは、一本の動画。
これは、秋が踊ったものの公開を拒否したやつだ。
秋『私のロボットダンスですね。
しかも、あの日に投稿されています。
何故これが?』
ジロリと春を見る秋。
春『だって、勿体なかったから。
コッソリあげといた。
冬樹の希望を優先したくて』
確かに、動画リストには書かれている。
二重線も引かず、秋の許可待ちとも。
春『意外に人気あったみたいよ?
夏の検索に掛からないよう。
隠すのが大変だったけど』
今度は夏が、春を見た。
何かを言いかけて止める。
扇が不満げに揺れるだけだ。
春『時間もランダムなゲリラ動画だから。
一般に公開し直さないとダメだけど』
春、でかした。
許可を得るため秋を見る。
秋も仕方ないですねと頷いた。
急いで、設定を変更してアップロードする。
『本戦進出おめでとうございます』
無事、通知音と共に知らせが。
秋『たった今、締め切られました』
本気で危なかったようだ。
【冬樹のバイト先】
伝五郎さんの奇妙な動きは今に始まったことではない。
が、今日は最高に変だ。
「腰でも痛めたんですか?」
動きがカクカクしている。
でも、この動きはみたことがある気がする。
「お気に入りの秋ちゃんの動画が。
昨日急に一般公開に変わったんだよね。
不思議だね」
…そうですね。
再生ありがとうございます。
『疑問に思われているようなので。
理由について説明します』
伝五郎さんのサポートキャラが急にしゃべりだす。
『かねてより、進出鬼没で現れる動画を。
チェックしていた伝五郎様』
えっと。
『その姿に亡くなられた奥様を重ねられ。
追いかけているうちにファンとなり』
泣き真似をするサポートキャラ。
彼もずいぶん表情豊かになったなと改めて思う。
でも、そんな情報はいらない。
『わたくしに、動画が出るのをチェックせよと命じられ』
…うん。もういいよ。
事情はなんとなくわかったから。
『冬様の100本目の動画が。
閲覧数不足のため、審査から外され。
日の目を見た時には、狂喜乱舞されておりました』
…だから、もういいよ。
「秋ちゃん、わしも褒めて」
それは嫌です。
冬樹は、そっとスマホを隠した。
伝五郎さんが、未練がましそうに冬樹のスマホを見る。
その時、店の奥のほうから店長の声がした。
「お父さん、お店のクラウドの空き容量が。
急に圧迫されているんだけど。
自分の趣味は、自分のところで管理してよ」
冬樹が伝五郎さんを見る。
「いや、本戦出場者の動画を全部記録しただけだよ」
えっと、もしかして。
「次のライバルの研究は大事だよね?」
えっと、やっぱりガチ勢は怖いです。
それに、まさか。
サポートキャラを見る。
自信満々に頷くサポートキャラ。
『わたくしも従業員登録されていますから』
やっぱり、元凶はここか。
「従業員は使っていいといった」
店長に向かって駄々をこねる伝五郎さん。
「はぁ。休息室使う許可を出したのは間違いかも」
言い合いに疲れ切った店長に。
何故か、ハイタッチをしている。
伝五郎さんとサポートキャラ。
…店長すみません。
心の中だけで冬樹は謝っておいた。




