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青い空の向こう

 サイドモニターのグライアイが、


「ちょっと、ダゴン神が火を吐くなんて、ラブクラフト先生も激オコの攻撃だわよ!!」


「このままだと蒸し焼きになっちゃうわよ、蒼太くん!!」


 マリがアクアブルーの肩をつかんでゆさぶった。


「わかったから、ゆさぶるなって!!」


 サイドモニターのソルレッドが、


「ダゴン像の目をつぶせ、アクアブルー!!」


「おうよ、エスパーダ・バルカン!!」


 アクアブルーはドラグーン頭部に装備されたミニ・バルカン砲をダゴン像の両眼に照準をあわせた。

 機銃攻撃で守護神の両眼を破壊し、ダゴン像がのけぞる。


「ぐわあぁっ!! 両眼を潰された!!!」


「いまだ、三機分離(トライアウト)!!」


 重装竜騎兵が三機に分解して宙に飛び、電磁アームの拘束から逃れた。

 再びドック湾内上空で結集し、エスパーダ・ドラグーンに再合体する。


「おのれっ、逃れたか……ならば、ダゴン・メルトスケイル!!」


 ダゴン像の全身から石の鱗がツブテのごとく飛び出し、重装竜騎兵の全身に貼りついた。

 貼りついた石の鱗から分泌される液体が、ドラグーンの装甲を溶かし始めた。


「なにぃぃぃ!? ドラグーンの装甲が溶かされていく!?」


「強力な腐食鱗(ふしょくうろこ)のようだ……このままでは装甲が溶かされるぞ、アクアブルー!!」


「くそっ、一枚一枚はがしていられねえ……『T』、何かいい手はないか!!」


 サイドモニターの『T』が腕を組んで考え込み、


「そうじゃのう……イチかバチか、湾内の海水に飛び込んでみい!!」


「わかったぜ!!」


 重装竜騎兵が湾内の水に飛び込み、水中に潜った。

 すると、石鱗が煙を上げてはがれていった。


「やった、ウロコがはがれていくぜ!!」


「水で腐食液が中和されたようじゃな……良かったわい。マグネシウムやアルミニウムは高温で水と接触させると水素爆発を起こすからのう」


「てっ、おいっ。確証なかったのかよっ、『T』!!」


「すまん、すまん」


「ん……まあ、結果オーライだ『T』」


「そうそう、結果がすべてじゃい」


「なっとくすんな、ソルレッド!?」


「ちょっと、アクアブルー!! ビヒモウスの時限爆弾のカウントはあと残り8分だわよっ!!」


「時間もないときたか……恨み重なる魚人司教だが、さっさと片付けてやるぜ!!」


 湾内の海水から飛び出した重装竜騎兵が、波止場に立ダゴン像に向って飛び降りた。


 ハルバートの斧刃で首を狙うが、三叉槍ではねのけられ、火花が散った。

 背後に飛びすさるドラグーン。メカニ怪獣製造工場の残骸がはじけ飛んだ。


 ダゴン像が三叉槍を頭上で回転させ、遠心力でドラグーンの胸を突き刺した。

 だが、突き刺さる前に、ハルバートの斧刃が三叉槍をはじく。


「これでも喰らえ、ダゴン・フレイム!!」


 ダゴン像の口が開き、高熱火炎がドラグーンを襲う。

 だが、炎の壁を突き破り、重装竜騎兵がダゴン像に捨身の突進をしてきた。


「なんだとっ!?」


「今だっ――ドラグーン・ハルバート」


 エスパーダ・ドラグーンが怪神像のどてっ腹にハルバートの槍穂を突っ込み、穴を開けた。

 石鱗を攻撃でつかい、装甲が薄くなった部分だ。

 内部は機械類で、スパークした回路から火花が散る。


「トドメだ――リアクター・ビーム!!!」


 重装竜騎兵の胸部が開き、ビーム砲口からダゴン像の傷口に高熱レーザーが発射された。


「ぐわああああああああああああっ!!」


 ダゴン像が爆焔をあげて吹き飛んだ。

 石像の残骸が波止場の工場跡に飛び散った。


「やったぜ、親父の仇はとらせてもらったぜ!!」


 ほっとした蒼太の目頭に、思わず熱いものが込み上げてくる。


「やったな、アクアブルー」


 ソルレッドが、モニター越しに親指をつきたてた。


「おうよ!! その、なんだ……ソルレッド、ありがとよ」


「ふっ、照れるなんて、お前らしくないな」


「うっせいやい!!」


 ダゴン像の爆発から、ドック港もあちこち誘爆し、連鎖的に爆発を巻き起こした。


「ちょっと、なに二人で雰囲気つくってんのよ!!」


「なんだか私、後ろの席にいるのが気まずいわよ!!」


「アオハルじゃのう、がっはっはっ!!」


「って、言っている場合じゃないわよ!! リュージョン姫のいった時限爆弾カウントも、あと3分だわよ!!」


「おし、脱出だ!!」


 エスパーダ・ドラグーンが分離して、エスパーダ・フリゲートに再合体した。

 エスパーダ・フリゲート機首から衝角がせり出し、真樽子ピラミッドの外壁に突入した。

 岩塊を突き崩し、外へ出る。


 そのとき、兵器庫にあったビヒモウスの時限爆弾もカウントが終わった。


 真樽子ピラミッドが爆焔に包まれ、海底神殿は崩れていった。


「真樽子ピラミッド――アビサロンの海底神殿の最期だぜ……」


「竜宮城のもとになった遺跡だものね……なんだかもったいないのだわ」


「ん……しょうがないさ、グライアイ。ビヒモウスは危険な代物よ」


「そうねえ……」


 和鷹マリが思い出したように、


「あっ、しまったわ……海底神殿を携帯で撮影しておけばよかったわぁ。特ダネになったのに……」


「悪いけど、マリさん。これは報道できない案件だぜ」


「そんなぁ……」


 エスパーダ・フリゲートが本土へ向け飛び去った。青空に飛行機雲をえがきつつ……




 アビサロン事件から一週間後――


 神奈川県真樽子市の海水浴場では、ゴミ拾いボランティアが集まり、ビーチクリーンがおこなわれていた。


 その中には蒼太や樹里、海璃の姿も混じっていた。


「蒼太兄ちゃん」


「おう、拓哉。お前も参加していたのか」


「うん。父さんと母さんもあっちにいるよ」


「これは……先日はありがとうございました」


「お父さん、蒼太兄ちゃんを知っているの?」


「ああ……海で遭難して困っているとき助けてくれたんだ」


「へえ……すごいや」


「拓哉、一人にしてすまなかった。これからはずっと一緒だ」


「うんっ!!」


 拓哉少年が海辺で父親と母親に甘えているのが見えた。

 それを見て、ちょっぴりうらやましいと思う蒼太であった。


 蒼太たちがイクシード・フォースであり、彼らの活躍で海底神殿から救われたことは秘密となっていた。


 海底牧場の職員たちは、救助船で逃れて漂流していたことになっている。また、拓哉がやってきて、


「ねえねえ、蒼太兄ちゃん、BS大空の『ホワット!?ミステリー㊙情報部』見た? 真樽子に出たUFOが映っていたんだよ」


「ああ……あれね」


 その番組のミステリー・リポーターの和鷹マリとは、真樽子のハイウェイで出会い、真樽子の倉庫街で再会した。


 彼女に気に入られ、カフェテラス『ローレライ』で焼売をおごってもらったのも、拓哉少年が起因であった。


 牟田口プロデューサーらが偶然撮影した、UFOは番組で公開された。

 しかし、エスパーダ航空機のことは、和鷹マリからの連絡でイクシード・フォースの蒼太に連絡があり、テレビ局の方にマニズ財団から圧力をかけて放送させず、映像データを没収した。

 防衛軍の開発中の戦闘機ということで、機密あつかいということにしてあった。

 当然、アビサロンの存在は伏せられた。


 川崎区工業地帯にあるグレート・ダイナモ社の工場の爆破事件が報道され、中には首長竜のような怪獣が現れたという噂があったが、あいにく撮影映像がなく、都市伝説にとどまった。


 海洋観測艦『つくよみ』とF-15Jイーグルの遭難事故はいまだ原因不明となっている。

 米軍のバージニア級原子力潜水艦の消失事件は、米軍基地によって隠蔽された。


「神奈川県はね、昔から謎の飛行物体の目撃が多いことから、『UFO』の聖地なんだって」


「まあ、ほとんどがその多くはサーチライトやライブの照明テストなんかの見間違いや、フェイク画像なんだけどな……」


「もう、夢がないなあ、蒼太兄ちゃんは……」


「あはっ、そうかなぁ……」


 アビサロンの侵略は、まだ伏せておくというのが、民間軍事組織イクシード・フォース、ひいては日本国政府の相違であった。


 もっとも、やがては隠しきれなくなる事態になるかもしれなかったが……


 拓哉少年が親もとに戻り、樹里と海璃が近付いてきた。


「ちょっと、あの子に秘密を洩らさないでよ、蒼太」


「おれがそんなヘマするかい」


「ふっ……蒼太は腹に抱えた炎が消えて、憑き物がとれたように、すっかり別人のようになったな……」


 樹里が蒼太を意味ありげに見つめた。


 蒼太は父親の啓作の仇討ちをして、心の中に澱(おり)のようにたまっていたものが浄化されたようだ。


「そうか?」


 蒼太が照れくさくて顎の下をかいた。 


「しかし、大したゴミの量だな、これは……」


 ボランティアたちが集めた砂浜のゴミはトラック十数台でも運びきれない。


 だが、蒼太はこうも思う。

 仇討ちの相手である魚人司教が人類をあそこまで憎んだ理由とはなんだったのかと。


 アビサロンは人類を毛無し猿とさげすみ、海を穢(けが)す民と憎悪していた。


 それはその通りであるかもしれない。


 人類の科学の発展の裏には、海洋汚染の影がつきまとった。

 19世紀の産業革命による工場排水や未処理の都市下水が河川を通じて海に流れたのが始まりであった。


 石炭をエネルギーとした工業化が進み、工場から流れ出る有害物質や煤煙、廃水が川から海へ流れ込んだ。

 水質汚染は、コレラなどの感染症の大流行を引き起こし、のちの公衆衛生や環境保全、上下水道の整備を考える転換期となった。


 この時代に原油をベースにした化学産業が発達しはじめ、プラスチックの原型となるセルロイドが発明され、のちの海洋ごみ問題の主流となる海洋プラスチック汚染の引き金となった。


 プラスチックごみが川から海へ流出し、ウミガメや海鳥がエサとまちがえて食べてしまい、命を落とす原因となっていた。


 紫外線で砕かれたマイクロプラスチックも深刻であった。


 家庭で使う洗剤や油などの生活排水、工場からの排水なども河川を経由して海に流れ、水質汚濁を引き起こしている。


 タンカー事故や船舶の不適切な処理により、大量の油が海に流れ、海鳥や海洋生物の体をおおい死に至らしめた。


 それらの海洋汚染がもたらす影響ははかりしれない。

 海洋ごみを誤飲したり、体に絡みついたりし、多くの海洋生物が死滅し、サンゴの白化などが起きている。


 人類も人ごとではない。汚染物質を体内に取り込んだ魚介類を食べることで、有機物質が体内に蓄積され、「生物濃縮」が懸念される。


 プラスチックごみが劣化・分解される過程で、温室効果ガスが排出され、地球温暖化を助長する原因になっている。


 我々ができる対策としては、プラスチック製品を減らすことが大事だ。

 マイバックやマイボトルを使用するなどして、使い 捨てプラスチック製品の消費をへらすことが大事である。


 食器の油汚れはウエスなどで拭き取ってから洗い、合成洗剤の使いすぎに注意する。


 ポイ捨てをせず、適切なごみ分別と処分を徹底し、ビーチクリーンなどの活動に参加することが汚染を減らすことになる。


 植物など再生可能な生物由来のバイオマス・プラスチックが広く普及されれば、石油などの化石資源を減らし、二酸化炭素が増えないのであるが、まだまだコスト面での問題があった。


「ビーチクリーンと言っても、まだまだ海洋ごみを無くすにはほど遠い……しかし、だからといって何もしないと汚染はひろがっていくからなあ」


「また海を汚すと、アビサロンが怒って地上を攻めてくるかもしれんぞ」


「やだ、海を汚す奴らのせいだわよ!」


「その時はまたアビサロンと戦うさ。奴らの報復はやりすぎだ……それに、それがイクシード・フォースの使命だからな」


 樹里と海璃がうなづく。


「おれたちの戦いは、まだまだこれからだ!!!」


 強い日差しが砂浜に降り注いだ。

 7月の海開きはまだ先であった。



                  了


最終回まで完走しました。


ここまで読んで頂いてありがとうございます。


元々この話は、くノ一妖斬帖の13話、14話で河童の話を考えたとき、埼玉県と神奈川県の説話を元に色々考えたのですが、実際に書いたのは埼玉県を舞台にしたものです。


この話は、使わなかった神奈川県バージョンの話を元にしてます。


元は神奈川県の港に海の妖怪が現れ、退治に来た紅羽たちが、仔細あって龍宮城へ行く話でした。


現代ものを書いてみたかったので、それは成し遂げられました。


他にも墨江屋敷は、実はゴーストたちの集積地帯だったというネタもあったのですが、話が四巴になり複雑なのを、さらに五巴になっては複雑すぎると思ってカットしました。


他の話で使うかもしれません。



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