【4-8】
キャスティナは、少しでも時間を稼がなければと頭の中で必死に考えを巡らせた。今、記憶を消してしまえばこの状況は回避出来る。でも、罪を認識して貰うためには記憶を消すのはダメだ。とにかく、話をしなければ!
「アラン殿下。何か思い違いをしている様ですが、私は子爵令嬢ではありません」
アランが、キャスティナを睨みつけながら何を馬鹿な事をと鼻で笑った。
「は?エヴァンと結婚するから、侯爵夫人だとでも言いたいのか?」
「違います。私は先月、シェラード公爵家の養女になったんです。陛下から話がありませんでしたか?」
キャスティナは、少しでも隙を見せてはダメだと気持を強く持つ。
「そんな話は聞いてない」
アランは、馬鹿にした様な物言いをする。まるで、キャスティナが嘘を言っているかのように。
「では、確認した方が宜しいかと?シェラード公爵家の令嬢に手を出して、タダで済むと思ってるんですか?」
キャスティナは、出来る限りアランから離れようとベッドの端に後ずさる。
「なあ、俺はこの国の王子なんだよ。公爵家より偉いのは、王族なんだよ。お前、本当に馬鹿なのか?」
アランが、キャスティナの頬に手を伸ばそうとした瞬間、バンッと音を立てて扉が開きエヴァンが部屋に突入して来た。部屋の中を確認した瞬間叫ぶ。
「キャスティナ!」
キャスティナは、エヴァンの姿を見てホッとする。良かった。やっぱり来てくれた。
「エヴァン様!」
「アラン殿下、離れて下さい。離れないのならば、容赦しません」
エヴァンは、アランに向き合い、剣を抜いた。
「おい。誰に剣を向けてるのかわかってるのか?」
「殿下こそ、今の事態を全くわかってない。頭がお花畑過ぎるのも如何なものかと?」
エヴァンが、怒りを抑えながら声を落としてアランに言葉を向けた。
アランは、自分より格下の者に馬鹿にされ怒りが爆発する寸前。
「ふざけるな!こいつがどうなってもいいのか?」
そう言うなり、懐からナイフを持ち出しキャスティナの首にナイフを向けた。その瞬間、エヴァンから恐ろしい程の殺気が放たれる。綺麗な青い目が、怒りに染まる。見たことない程冷ややかな視線をアランに向けた。
「貴方は、シェラード公爵家の令嬢に手を出した。そして、サディアス殿下に暗殺者を送りましたね?今回は、見逃してくれませんよ?」
アランは、エヴァンの言った言葉に驚愕していた。そんな訳ないと自分に言い聞かせるが、体が震える。
「兄上に暗殺者を?何の事だかわからない」
アランは、必死に声を出す。
「いい加減にしろ。さっさと俺の婚約者から離れろ!キャスティナを傷つけて、アルヴィン隊長が許すと思うか?何も後ろ盾のないあんたじゃ、明日生きてないよ?」
エヴァンの底冷えするような気迫と、冷たい視線がアランに突き刺さる。キャスティナでさえ、エヴァンが恐ろしくて顔色が真っ青。
エッエヴァン様が、怖い……。キャスティナは、恐怖から何も言葉も出ず身がすくんでいた。カランっと、横でナイフがアランの手から滑り落ちた。
それと同時に、こちらに向かって走って来る誰かの足音が聞こえた。
「エヴァン!大丈夫か?」
扉の方に目を向けると、息を切らせながら部屋に飛び込んで来た人の姿が目に入ってきた。
「遅い!クラウス、エアハルト!」
エヴァンが、恐ろしい殺気と目付のまま2人を呼んだ。
「すまん……。取り敢えず、エヴァン落ち着け。キャスティナ嬢も怖がってる」
そう、クラウスが言うとエヴァンはハッとして殺気を抑えキャスティナの元に駆け寄った。呆然としている、アランを押し退けキャスティナを抱き締める。
「遅くなってごめん」
エヴァンのいつもの優しい声に、キャスティナもホッとして力を抜いた。
エヴァンは、一度クラウスとエアハルトに向き直る。
「アラン殿下が、キャスティナを連れ去って自分のものにしようとしてた。アルヴィン隊長に報告と引渡しを頼む」
「わかった。後は任せろ」
クラウスが頷きながらそう言うと、エアハルトがアランの腕を取り部屋から出て行った。




