転生したら、中盤で粗大ゴミになる脳筋キャラでした
ふぅ……九千九百九十八、九千九百九九……一万!」
ズシン、と地面を揺らす音とともに、俺は背負っていた巨大な岩石を地面に下ろした。
全身から湯気のように汗が立ち上り、鍛え上げられた筋肉が悲鳴を上げる。だが、この心地よい疲労感こそが生きている実感を抱かせてくれた。
「ふう……今日の早朝筋トレはこれくらいにしておくか」
自分の汗をタオルで拭いながら、俺――レオン・ヴァルハイトは青空を見上げた。
ここはこの世界におけるしがない地方都市、ルベライト。
そして俺は、前世で貪るようにプレイしていた大人気王道RPG『アルカディア・ストーリー』の世界に転生していた。
転生自体はいい。剣と魔法のファンタジー世界なんて男のロマンだ。
問題は……俺が転生したこの『レオン・ヴァルハイト』という男の立ち位置である。
(……よりによって、なんでレオンなんだよ……!)
レオン・ヴァルハイト。
原作ゲームにおける彼は、物語の最序盤に主人公の幼馴染枠として仲間になる「重戦士(タンク/アタッカー)」だ。
序盤は圧倒的なHPと筋力を誇り、頼れる兄貴分としてパーティーの盾となり、敵を大剣でなぎ倒してくれる頼もしい存在である。
――そう、『序盤は』だ。
この『アルカディア・ストーリー』というゲームは、中盤以降から急激にインフレが進む。
敵の攻撃は強力な全体属性魔法や無属性の概念攻撃が主流になり、物理攻撃しかできない重装戦士はただの「動く標的」と化す。さらに、後半のボスはほぼ例外なく「物理ダメージ90%カット」や「飛行状態(物理攻撃不可)」といった理不尽な耐性を持って現れるのだ。
結果として、レオンはゲーム中盤から「足が遅い」「魔法一発で溶ける」「攻撃が届かない」「ベンチの温め係」とプレイヤーから揶揄され、最終的には『粗大ゴミ』とまで呼ばれる不遇キャラへと転落する運命を辿る。
「冗談じゃないぞ……」
俺は己の太い腕を凝視し、グッと拳を握りしめた。
誰が粗大ゴミだ。
誰がベンチ温め係だ。
このままゲームのシナリオ通りに進めば、俺は中盤の「魔王軍幹部・氷狼将ゼノ」との戦いで、主人公たちを逃がすためのデコイ(囮)にされて大怪我を負い、そのままパーティーを永久離脱することになる。
「断るね。俺は生き残る。それも、誰よりも強く、誰よりも圧倒的にだ」
ゲームの仕様? 物理耐性? 属性魔法? 飛行状態?
ハッ、知るかそんなもん。
魔法が強いなら、魔法を打たれる前に叩き潰せばいい。
物理耐性があるなら、耐性の計算式を上回る圧倒的な筋肉量と運動エネルギーで打ち破ればいい。
飛行しているなら、地面を蹴って空へ跳べばいい。
「結局のところ、この世のすべての問題は『筋肉(物理)』で解決できるんだよ」
前世のゲーム知識と、この体に眠る肉体的才能。
それらを極限まで鍛え上げ、俺は「ゲームの仕様」そのものを拳で粉砕する存在になってやる。
「レオン! またそんなバカみたいな大きさの岩を持ち上げて……! 朝食の準備ができたわよ!」
遠くから、聞き覚えのある呆れた声が響いた。
振り返ると、薄緑色の髪をなびかせた少女が、両手に大きな木製トレイを持ってこちらへ歩いてくるところだった。
彼女の名前はエレナ。
俺の幼馴染であり、原作ゲームでは後半まで主力として活躍する天才魔導士の少女だ。
「悪いなエレナ、今片付ける」
「片付けるって……その岩、どうするのよ? 街道の真ん中に置いたら邪魔でしょ」
「ああ、こうするんだよ」
俺は息を深く吸い込み、右拳を引いた。
そして、先ほどまで背負っていた直結数メートルの巨岩に向かって――軽く、正拳突きを叩き込んだ。
――ドドンッ!!
空気の破裂音とともに、巨岩が一瞬にしてさらさらとした粉末状の砂へと姿を変え、朝風に舞い上がった。
「…………はい?」
トレイを持ったまま、エレナが完全にフリーズした。
口を半開きのまま、砂となった岩と俺の拳を交互に見つめている。
「な、なに今の……? 魔法……? いや、あなた魔力なんて全然ないはずじゃ……」
「魔法なわけないだろ? ただのインパクトだ。岩の分子構造の隙間に拳の運動エネルギーを均等に伝播させて、内部から粉砕しただけさ」
「分子構造!? 運動エネルギー!? 何言ってるのあなた!? 岩は殴ったら手が折れるの! 粉々になるとしても砂にはならないの!」
「いいかエレナ。物理とは情熱であり、愛なんだよ。鍛え抜かれた筋肉は、あらゆる事象を透過する」
「意味が分からないわよーーーっ!!」
朝の爽やかな空気の中、エレナの悲鳴のようなツッコミが響き渡る。
フッ……見ているがいい、世界の理よ。
不遇な脳筋キャラ・レオンの、物理による世界改変ストーリーは、ここから始まるのだ!




