23 願いごと
――やっちゃったなあ……。
教室に入るなり、美亞未は机に突っ伏してしまう。
額を冷たい木の表面に押し付け、小さな唸り声を上げていた。
朝のホームルーム前、教室の喧騒が遠く聞こえる。心臓の音がまだ耳の中で響いているような気分だった。
電車の中で「次の土曜日時間ある?」なんて、勢いで口走ってしまったことが信じられなかった。
絆創膏のことを聞かれた瞬間、頭が真っ白になった。
『アザ出来ちゃったから……』
咄嗟に出た適当な嘘で誤魔化せたのは奇跡であった。
だが、そのためにデート――ではなく、進路相談の誘いを持ちかけてしまった。
完全に後付けだ。
相談事なんてわざわざ会わなくとも、トーク画面一つで完結する。
当のリックスは、あっさりと「構わない」と頷いてくれたことが余計に、美亞未の胸をざわつかせるのだ。
「うう……バカ……」
小さく呟いた声は、机に吸い込まれて消える。
「ミミー朝からどうしたの?」
呑気な友達の声が耳朶を打つ。
ゆっくり顔を上げると、にこにこしながらいくつかの短冊を手に持っていた。
薄い水色のグラデーションがかかった短冊は、今度の学校行事で使うものだ。生徒会が回収して、後日体育館や廊下に飾る企画になっている。
「はいこれ」
「んー」
短冊を受け取りクリアファイルに入れた。
友達が机に軽く腰を掛け、そういえばさ、と切り出してきた。
「ミミは短冊なに書いたの?」
「え…あー…そういえばまだ書いてなかったな……」
学校行事のことなどすっかり忘れていた。
リックスや希亞樹のことで、頭がいっぱいだったからだ。
手の甲の絆創膏を見つめる。
『弟とヤってたら…』
『キモー!』
『恋人同士なのか?』
否定の言葉も、リックスの『何も聞かない』その言葉に認められた気がしたのだ。
「……」
夜は希亞樹と秘密の時間だ。
昨日は、キスマークをつけたいと言い出してきた希亞樹である。
さすがに首元は目立つため、手の甲を差し出したが、初めてなせいか希亞樹は上手く吸えず、歯が当たって少し痛かった。だが、その不器用さが美亞未には愛しいと思えるのだ。
美亞未は短冊を指で弄びながら、ため息をこぼした。
――願いごとか……。
頭に浮かんだのは、リックスの姿であった。
「……」
――アキと…ずっと一緒にいられたらな……。
色々と考えてみても、子どもみたいな願いごとしか出てこなかった。
「…進路決まりますように、にしようかな」
「えーなにそれっ! あっ、そういえばさっ! ミミって、留学生の先輩と付き合ってるの?」




