ゴブリン討伐
翌日。
俺たちは再びギルドの掲示板の前に立っていた。
「……さて」
「今日はどうする?」
桜が隣で依頼書を眺める。
「スライムはもういいかな……」
「だね」
あれはあれで勉強にはなったが、正直やりづらい。
ゲームでは序盤で出てくる雑魚モンスターなのに、現実は厳しい。
「核壊さないと倒せないのは面倒だしな……」
「うん」
桜も同意する。
「私はどうとでもなるけどお兄ちゃんは厳しいよね」
やっぱり魔法が使えるのは羨ましいな……
「じゃあ――これとか?」
一枚の依頼書を指差す。
「“ゴブリン討伐・2体”」
「……ゴブリンか」
いかにも異世界って感じの魔物だ。
「スライムよりは分かりやすそうだね」
「まあ、そうだな」
少なくとも、スライムみたいな核はなさそうだし、斬れば倒せるはずだ。
「これにするか」
「うん」
依頼を受け、街の外へ出る。
昨日と同じような草原を抜け、少し奥へ進む。
「この辺り、って書いてあったな」
「うん」
周囲を見渡す。
少しだけ空気が違う。
「(いるな……)」
茂みの奥。
わずかに動く影。
「……いた」
桜も気づいたらしい。
視線の先。
そこにいたのは――
「(あれがゴブリンか……)」
小柄な体。
緑色の肌。
手には粗末な武器。
明らかにゴブリンだと分かる姿。
「どうする?」
桜が小声で聞く。
「……俺がやる」
「分かった」
今度こそ。
昨日の失敗は繰り返さない。
ゆっくりと距離を詰める。
ゴブリンはまだ気づいていない。
「(まずは一体……)」
息を整える。
足に力を込める。
「(身体強化……)」
体が軽くなる。
そして――
「はっ!」
一気に踏み込む。
「ギャッ!?」
気づいたゴブリンが振り向く。
だが、もう遅い。
剣を振る。
――ズバッ!
「……!」
確かな手応え。
ゴブリンが崩れ落ちる。
「(……倒せた)」
スライムとは違う。
ちゃんと“斬った感覚”がある。
「……よし」
思わず小さく呟く。
だが――
「ギギッ!!」
茂みの奥にいたもう一体が反応する。
武器を構え、こちらへ突っ込んでくる。
「(来るか)」
構える。
だが――
「(速い!?)」
思ったより速い。
咄嗟に剣で受ける。
――ガキンッ!
「っ……!」
腕に衝撃が走る。
「(重っ……!)」
小柄な見た目に反して、力が強い。
「ギッ!」
さらに追撃。
「くっ――!」
後ろに下がる。
体勢を立て直す。
「(落ち着け……)」
焦るな。
昨日の二の舞になる。
ゴブリンが再び突っ込んでくる。
「(今度は……!)」
しっかり見る。
動きを読む。
動体視力が上がっている今、身体強化した身体なら容易に避けれる。
そして――
振り下ろしをかわす。
「――今だ!」
横から斬りつける。
――ザシュッ!
「ギャッ……!」
ゴブリンがよろめく。
「(いける!)」
そのまま踏み込む。
そして――
「はあっ!」
全力で振り下ろす。
――ズバッ!
今度こそ、完全に倒れた。
「……はあ」
息を吐く。
「……なんとかなったな」
「おにーちゃん」
桜が近づいてくる。
「今の良かったよ」
「……マジで?」
「うん、やったね!ちゃんと倒せたじゃん!」
「(……少しは成長してるか)」
昨日よりはマシだ。
確実に。
剣を見る。
血を払う。
「(……ん?)」
一瞬だけ、違和感。
ほんのわずかだが――
「(今、剣が少し軽かったような……)」
気のせいかもしれない。
だが。
「(……これが聖剣の変化か?)」
まだ分からない。
けれど、
確実に、何かが変わり始めている気がした。
「これで依頼達成だね」
「ああ」
ゴブリンの証として耳を切り、回収する。
「スライムよりはやりやすかったな」
「だね」
「まあ、その分ちょっと強かったけど」
「うん」
帰り道。
「少しずつだけどさ」
桜が言う。
「ちゃんと強くなってるね」
「……そうだな」
実感はある。
まだ弱い。
まだ足りない。
妹の桜にも簡単に負けてしまう。
でも――
「(確実に前には進んでる)」
「(焦らないで確実に1歩ずつ)」
こうして俺たちは、
二度目の依頼を終えた。
前回よりも、少しだけマシな結果で。
そして、
確かに、“成長”をした瞬間だった。




