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41 乙女ゲームではありませんのよ

「いやぁぁぁぁぁ!」

「なっなんで?」


 挙式を終え、正式に王子妃になったミレーヌ=カペリ=ウィルゴが、神産みの木のある神聖な間に入った瞬間、意志を持ったかのように木の枝が動き、その体を絡め取り、幹の中に取り込んでいく。

 神産みの木はその幹や枝は血のように赤く、血管が脈打つようにどくりどくりと波立っており、枝の一振りまで木というよりも、肉で作られた醜悪なオブジェのようなものなのだ。

 幾人も、幾百人も、幾千人も呑み込んでいる神産みの木に葉は一切芽吹いておらず、ところどころに真っ赤な蕾のような小さな何かがあるだけだ。


「助けっカイン様っ!」

「離せっ僕がどうして?」


 通常はミレーヌだけが取り込まれるはずであるのに、見届けるのも伴侶となった者の役目と言われともに間に入ったカインですら、その体を枝に絡めとられどんどんと神気を吸われていく。

 その様子を見ながら、カインを成長させたような容姿の国王は酷く冷たい、人形のような目でその様子を見ており、その横には金色の巻き毛、金色の目を持つ蠱惑的な肢体を持つイルメイダがつまらなそうにそれを見ている。


『初期教育が出来なかったせいで木偶の坊が出来上がったわね』

「申し訳ございません」

『私達の大切な沙羅の相手にしてやったというのに、本当に役立たずだわ』

「返す言葉もございません」

『この儀式を境に沙羅を水晶の滝に永遠に住まわせる予定であったのに、お前の結婚相手が王族狂いであったがゆえにこんなことになって、私たちの計画が台無しだわ』

「セイラ…様はそれほどまでに特別な存在でいるのでしょうか?」

『当たり前でしょう!沙羅は私達が何百年もかけて作り上げた最高傑作なのよ!その器に相応しい魂を他の世界の神に分けてもらって作り上げたというのに、また私たちの手元に置くまで待たなければいけないなんて』

「そうでございますか」


 イルメイダの言葉に、国王は相変わらずの無表情のまま、体の半分以上を取り込まれたミレーヌに視線を向け、この状況はその憂さ晴らしなのかと納得する。

 自分の妻となったものが12公爵家のものであったからというのもあるのだが、あの時はもっとすんなりと体が取り込まれ、神気を吸われる際もこんな強制ではなかったと思い出し、枝に強制的に神気を吸われ次第に力を失っていくカインに呆れたように視線を向ける。

 カインは王族狂いと言われた母親の影響もあり、歴代の中でも特に強い神気を持って生まれ、神域に近いこの城の中で過ごすにはあまりにも器の強さが足りていなかった。

 それ故に幼いころは遠くに離し療養させていたのだが、そのせいで初期の刷り込み教育ともいえるものができず、12公爵家と王家、そして王とその伴侶の関係性を、本来ならば本能に刷り込むはずであるのに、知識としてうわべしか落とし込むことが出来なかった。

 その結果が今回のことというのであれば、確かに原因は国王と妻となった王族狂いの女のせいなのだろう。


『あの世界とこの世界の共鳴性の高さは異常なのよ。この世界の過去や未来があちらに流れ、あちらの魂がこちらに流れてくるわ。沙羅をもらい受けた時に余計なものがいっぱいくっ付いてきたけど、こんなことになるなんてね。======様が沙羅を私たちのところに連れていければ、世界の結界を強化するって予定しているのに、まったく!』


 イルメイダは苦々しい顔でそう言って足先を「タンタン」と鳴らした途端、カインを掴んでいた枝が膨れ上がり、その体を貫く。


「がっ…」


 しかし血の一滴も零れ落ちることがなく、すべて枝に吸い取られていくのを見て、幹に取り込まれているミレーヌが悲鳴を上げる。


「嫌ぁぁぁぁ!カイン様!カイン様ぁあぁぁ!」

「ぐはっ」

「はっ離しなさいよ!あたしを誰だと思ってんのよ!王妃になるのよ!ヒロインなのよ!気持ち悪いのよっ!」

「セ、イラ・・・」

「きもちわ……カイン様!いやっ!カインさまぁぁぁ!……気持ち悪い!助けなさいよ!このあたしが言ってんのよ!」


 二つの人格が入り乱れながらも顔以外を飲み込まれたミレーヌに、イルメイダが笑う。


「どうかなさいましたか?」

『滑稽よねえ、あんなに喚き散らして。それにあの木偶の坊もまだ沙羅にすがろうとしてるのかしら?沙羅は神々にとっては気持ちがいい存在だもの、下手に神気が強いせいでひきずられちゃったんでしょうね』

「申し訳ありません」

『まあもういいわ。もうあの木偶の坊も終わりだし。神気を吸い尽くしたらあとはもう好きにしなさい。首をはねるのもそのまま埋めるのもお前の自由よ』

「はい」

『あの小娘の意志が次にどう作用するかは知らないけど、適当にしなさい。いくらこの国でもあんまりひどければ、潰すわよ』

「肝に銘じます」


 そう言って姿を消したイルメイダに頭を下げた国王は、胸を貫かれたカインに近づく。ミレーヌは完全に神産みの木に取り込まれ、幹がより一層脈打ち始めている。


「無様だな」

「ちちうえ…」

「神気を完全に抜かれても、半分は人間だから死ぬこともできない。いや、神気を吸い尽くされもう人間でしかないな」

「な、ぜ…」

「この国がどうして他国と隔絶しているのかを学んでいながら、理解せぬ愚か者が我が息子というのは嘆かわしいが、せめてもの情けだ。この父の手で死なせてやろう」


 国王は手を伸ばすとカインの首に巻き付け、力を込めて絞めていく。


「がっ…ぐっ…」

「この国には12公爵家の始まりである、神人が存在しこの地を平定していたが、その者たちが作り上げた神産みの木という神装より、半神が産み出されそれを守ることを条件に、神々が12公爵家の力を抑え込みながらもその存在を許している」


 神人は神をつくろうとして、神装:神産みの木を作り出したが、生まれるのは半神でしかなく、神を生み出すという冒涜を犯した神人をこの地にとどめるために、産まれた半神を守ることを条件に神人を許した。

 王族は12公爵家の人間をこの地にとどめるための枷でしかなく、12公爵家の人間が王族を守り優先するのは、神によって血に刻み込まれたことであるためでしかない。


「12公爵家の者は、自分たちにしか興味がないのだ。王族は関わる者であっても混ざり合うものではない。その血肉を使って生まれているのに、12公爵家の者にとって王族は、他人なのだ」


 この地は12公爵家がいなくては成り立たず、それをつなぎとめる程度の役割しかないのに、12公爵家が護っているからこそ、王族は王族でいるのだと、国王はカインの首を絞めながら淡々と語る。


「時折生まれる加護持ちなどを取り込むのも、神がそうさせているに過ぎない。12公爵家にある秘宝の加護とは、ただの拘束具でしかない。あれがなければ、12公爵家はとうに王族という枷をちぎり捨てて消滅している」


 どちらが失われても、どちらも成り立つことができないからこそ、王族と12公爵家があるのだと、そう国王が語り終えた時、カインの体から力がすべて抜けその命が失われた。


「愚かだな」


 それは誰に向けての言葉だったのか、国王はカインの首から手を離し、片腕を持って引きずるように神産みの木の間から出ていく。

 神産みの木が子を産むのは早くとも数か月かかる。それまでこの間に用はないのだ。

 間をでたところで、12公爵家の当主がそろっており頭を下げて自分たちの前を通っていく国王に傅き、通り過ぎた国王の後ろで頭を上げその後をついていく。

 王族同士の殺しであれば、12公爵家の管轄外であり、もはや半神でなくなった只人のカインの死体に払う敬意もない。


「セイラは、どのようなご様子だ?」

「変わりないと報告を受けております。そもそもあれは12公爵家の最高傑作でございますれば」

「そうか。アレの産む子供が末恐ろしいな」


 国王の言葉に、レオ家の当主がわずかに目を細め笑う。末恐ろしいのはなにもセイラの子供だけではない、それが12公爵家の子供なのだ。

 ゲミニーの双子が目覚めればその間に子供を産ませるのもいいだろう、そう12公爵家では話が出ている。

 いくら血が濃くなろうとも、12公爵家の人間であれば何の問題もないのだから、好きなように子を産めばいいのだ。

 セイラはヴェルナーとエドワードの子供を産めば、その後はおそらく神が自分たちの手元に置こうと動くだろう。

 当主になればそのぐらいの神の動向はわかるようになってくる。

 戦場に出ない代わりに、神に近づくのが12公爵家の当主の役目でもある。それは戦場を愛する12公爵家のものとしては幾分辛くはあるが、そうしなければ12公爵家の者に支障が出るというのであれば、少しも手間とは思わない。


「どのような者であろうとも、王族をお守りすることに変わりはございません」


 それが神人を祖とする12公爵家の人間が、この地に存在する方法なのだから、守らないわけがない。

 同族を守るために、死なせず消滅させないために、12公爵家の人間はこの地で王族を守るのだ。

 当主たちはそれぞれ笑みを浮かべ、いずれ産まれる同族を今から愛し待ち望む。




~FIN~

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