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意地悪な義姉は魔法使いにジョブチェンジしました  作者: 秋澤 えで


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29話 虫と鳩と銃声と

 再び複数回銃声が聞こえる。

 先ほどよりもずっと近い。鳥たちの逃げ出す羽ばたきが聞こえた。



 「……カトレア、近いぞ。気を引き締めろ」

 「了解です……」



 結局シモンからなんの回答も得られないまま、本来の目標である野良魔法使いの間近まで来てしまった。多少心にわだかまりは残るが、今は気持ちを切り替えなければいけない。

 今更ながら、今する話ではなかったと反省する。以前から気になっていることではあったが、少なくとも今日のことはことごとく時間がなかったのだ。今日のところで説明ができなかったのは致し方ないこと。


 それでも、シモンのそれは普段からだ。

 かつて、妖精を見ることができるようになった私に対し、シモンは惜しげもなく、自身の持つ知識を私に注いでくれた。たとえ才能がなくとも、たとえ教えられた4分の1も身に着けられなくとも、呆れはするけど諦めることなく、私に時間をくれていた。


 アドニスは知りたがりだ。

 もともと博識であるが、子供のころから好奇心旺盛で、あらゆる本を読み漁り、節操がないと言われるほど多くの学者や専門家を王宮に招いて師とした。そんなアドニスが宮廷魔術師に教えを乞うことは至極自然なことだ。年下でポンコツ魔法使いである私にすらあれやこれやと聞くのだから、十年以上ともにいる同年代の天才魔法使いを質問攻めにしないはずがない。けれどシモンは、アドニスに決して多くは語らない。


 聞かれたことを最低限回答するときもあるが、非魔法使いには本当か嘘かわからないおとぎ話のような話で煙に巻くこともあれば、知る必要はないとバッサリ切り捨てることもある。

 天才魔法使いの考えることは後天的なポンコツ魔法使いではわからない、と言ってしまえばそれまでだ。

 前方から銃声以外の音が聞こえてきた。



 「馬の、蹄の音……?」

 「ああ、片方がどうも馬に乗っているらしい」



 再び銃声。その直後木々の向こうから眩い光と突風が巻き起こる。風にオオスカシバが大きく煽られるが、何とかその背にしがみつく。



 「今のは、野良魔法使い……!」



 光と突風は魔法使いが使い魔を呼ぶときの証明だ。けたたましい何かの叫び声、いや鳴き声が聞こえる。



 「きゃああああっ!」

 「え、え……女の人!?」



 続いて上がる悲鳴に面食らう。

 この先に野良魔法使いである銀髪の男がいることはわかっている。それからおそらく、野良魔法使いを攻撃している銃を持った馬上の人間。てっきりそれは男性だと思っていたが、今の悲鳴を聞く限り、女性らしい。巻き込まれた民間人、という可能性も捨てきれないが、こんな森の奥に迷い込む民間女性、というのはやや考えづらい。状況が読めなくなってきた。

 混乱する私をよそに、シモンは涼しい顔でただ前へ進み続ける。なんのリアクションもないということは、おそらくこの先のことも“視た”のだろう。シンデレラの未来を“視る”と同時に私の未来も“視た”であろうシモンは召喚にも悲鳴にも動じなかった。すべて承知の上で、今私を伴い駆けているのだろう。

 落ち着き払っているということは、おそらく悲鳴の持ち主も助けに行くべき対象ではないのだろう。



 「慌てるな問題ない。あっちでやりあってるならそれでいい。疲弊したところで畳みかける」

 「では私も、」

 「いや、魔法使いの相手は俺がやる。お前は手を出すな」



 最後まで言うこともできず出される待機の指示に唇を尖らせる。もっとも、反論できる材料などどこを探してもなかった。何とか前回の失態を取り返したいところだが、手も足も出ないことは想像に難くない。だが先遣を飛ばすなり、大量の虫で相手の視界を奪うなりできることがないわけじゃないと思っている。それすら不要なのかもしれないが。



 「お前を信頼してないわけじゃない」

 「うぇっ」

 「お前にやってほしいことが別にある。まあ何をすべきかは到着すればわかるだろう」



 シモンが未来視でどこまで視たかはわからないが、行けばわかる、と言い切るからには特殊な状況なのだろう。私が適任という意味なのであれば、先ほどの悲鳴の主の相手というのが妥当だと想像できる。



 「それから、鳥を見てもパニックになるな。できないならすべて片付くまで後ろで待機してろ。奴の使い魔は基本鳥類らしい」

 「使い魔がって、ことは……」

 「ああ、さっきの光と突風、それから鳴き声からして何かでかい鳥だ。今までの鳩の件を考えても鳩も召喚できる可能性が高い」

 「うわぁ……」



 聞くだけで鳥肌が立つ。魔法での召喚は、くそ雑魚魔法使いである自分にはできない。だがこれができるともはや空間も何も関係なしに契約が、あるいは糖類が切れるまで無限に呼び出し続けられるのだ。自分でできれば便利だと思えるが、野良魔法使いの手元から半永久的に大量の鳥が出てくると思うと卒倒しそうだ。



 「でも、」

 「でも?」

 「危ないから出てくるな、とかついてくるな、とは言わないんですね」



 つい昨日まではあれほど過保護であったのに、今ではくそ雑魚魔法使いには荷が重いと言わざるを得ない、ある種の信頼を感じさせている。



 「“視た“んですね」



 魔法使いは口の端だけで機嫌よく笑って見せた。

 ずるい、という思いを込めて隠すことなくため息をついた。



 「いったい何をどこまで視たんですか……」

 「秘密だ」

 「そればっか。同じ魔法使いでも説明したくありませんか?」



 少し意地の悪い言い方だったか、と反省するが、思いのほかシモンは気にした様子がなかった。むしろどうしてか機嫌がいい。



 「……未来視ってのは、何もかも自由に視られるわけじゃない。大抵は運だ。1年後が見えることもあれば、数か月後、さらには数時間後程度しか視られないこともある」

 「であれば、今回はこの短い間。それこそ数時間の間を視たというわけですね」

 「さて、未来の映像はきれいに切り取られるわけじゃない。数時間後、数日後、数か月後を尻切れトンボに視せられることも少なくない」

 「というと?」

 「お前の目が鳥に潰されることはない」



 まるで時が止まったようだった。

 心底嬉しそうに、シモンが笑った。


 聞きたいことはいくらでもあるのに、何一つとして口から出てこない。


 一瞬か、数十秒か、私たちの静寂を破ったのは激しい地響きと銃声だった。



 「お師匠っ」

 「もう行くぞ! 続きは後だ! お前は銃声のする方へ。俺は野良の捕獲に行く!」

 「了解っ!」



 あっという間に現実に引き戻され、別々の方向へ走り出す。

 未来視で何を視たのか、どうして私の目が潰されることがないと確信できたのか。聞きたいことも知りたいことも湧き出でてはやまない。けれど不思議と不快感や後ろ髪引かれる思いはなかった。むしろどこか晴れやかだ。気になるのに、それに雁字搦めにされるわけでもない。そう思えるのは、きっと彼の笑顔がただただ邪気のないもので、純粋に視えた未来を心から喜んでいるものだったからだろう。




 野良魔法使いが呼び出した使い魔を警戒するように距離を開けた何者かを追う。じりじりと後退しつつも撤退するわけではないらしい。野良魔法使いとは反対方向にオオスカシバで飛んでいけば、軽やかな馬の蹄の音が聞こえた。先ほどのような駆け回る音ではなく、あたりを探るように行ったり来たりする緩やかな足音。

 銃声はあれきり止んでいる。やはり馬に乗っている人物が例の銃を持っているのであろう。


 正直、使い魔相手に銃はほとんど意味をなさない。

 その辺にいる妖精や精霊たちは金属を嫌うため、銃やナイフを忌避している。だが使い魔として召喚されたものは自分たちの好き嫌いではなく主人の命令に従って動く。よって銃は使い魔除けにはならないと同時に、概念上使い魔等々にダメージを与えるにも向いていない。

 それを分かっているから退いたのか、それとも得体の知れない何かの気配に警戒しただけなのか。いずれにせよ、野良魔法使いの相手はすでにシモンに交代している。私とは比べ物にならないレベルの闘争になる。であれば私にできるのは銃の持ち主が巻き込まれないよう安全地帯まで退避することだ。

 木々の間を抜け飛んでいると、揺れる馬のしっぽが見えた。



 「こんにちはー。もう大丈夫ですよ。あの野良魔法使いは宮廷魔法使いが捕縛します。どうぞ、巻き込まれないように一緒に退避をお願いします!」



 さすがにいきなり近づきすぎて銃を発砲されたら死んでしまうため先に声だけかけておく。比喩でも何でもない紙装甲の私はではとても文明の利器に対抗できない。誤発砲される前に敵意がないことを伝える。どんな場所でも挨拶とは友好的な飛び道具になる。

 蹄の音が戸惑うように止んだ。そして緩やかな歩みでこちらとの距離を詰めてくる。

 木々の間から現れたのはパンツスタイルでごつい猟銃を持った女性だった。


 艶やかな髪、傷一つない肌はどこまでも貴族令嬢らしい。けれど慣れた様子で銃口を斜めに下げた彼女はまったく貴族令嬢らしからぬ出で立ち。



 「……カトレアなの?」

 「パトリシアお姉さま!?」



 栗毛の馬に乗って現れたのは生まれてこの方どころか死ぬ前から毎日顔を突き合わせている意地悪な義姉1、パトリシア・デルフィニウムだった。


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