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第7話

 朝食も昨日の夕食のように、話題の中心は儀式についてだった。両親は僕の気持ちなどつゆしらず、真剣に能天気なアドバイスを浴びせかけていた。


「恐怖は想像から生まれるんだ。」

 父は言った。


「実際のところ、水の衝撃なんてたいしたことない。きちんと着水すればなんの問題もないんだ。岩場だって、よっぽどへましない限りぶつかることなんてない。」

 

 僕は父の言葉に神妙に頷いた。だが、内心そんなことは知ってるよと呆れていた。なぜなら、僕とダイはもう何十回と崖から海にとびおりているのだ。


 最初に飛んだのは、肝試しの翌日だった。どちらが度胸があるか決着をつけようじゃないかとなったのだ。じゃんけんで僕が勝ち、ダイに崖の下で待機してもらった。念のために降りてもらっていて正解だった。


 僕は、あの時、予想以上の高さに恐怖を感じながらも飛んだ。豆粒ほどの大きさにみえたダイがぐんぐん近づいてきて、水面に激突した。その時の衝撃といったら凄まじかった。顔面を巨人に平手打ちされるみたいだなあと思ったのが最後の記憶だ。僕は気を失っていた。もし、ダイが下で待っていてくれなかったら、僕はそのまま溺れ、遺体も潮に流されて発見されることはなかっただろう。


 目を覚ますと、僕は崖の横の海岸に仰向けで倒れていた。


「まったく、人ひとり抱えながら泳ぐのは大変だったぜ」

 ダイが言った。


 その言葉はすぐに実感することとなった。


 次は順番交代で、ダイが飛び降り、僕が下で待機した。よく僕が失敗したのを目の前で見て挑戦するもんだなと思った。


「お前の着水を見て、ポイントがつかめた気がする。」

 ダイはそう言って、さっそうと階段をのぼり、崖の上にたち、あっさりと飛び降り、そして案の定気を失った。確かに、誰かをかついで泳ぐのは大変なことだった。


 それから、僕たちは学校でまじめに学ぶようになった。たかが海に飛びむのになんの技術がいるんだと、なめていたのだ。だが、技術を学ぶ必要であることをさとり、貪欲に習うことを吸収していった。


 そして、2年後、15歳になった時、僕たちは初めて成功した。最初に失敗した時と比べて、体には筋肉がつき、着水技術も確かなものとなっていた。


 それからは、月に一回のペースで飛ぶようにになった。これなら、儀式なんて余裕だな。僕たちは、そう頷きあった。


 しかし、その時ぐらいからだろうか、僕は儀式に違和感を覚えるようになり、なんの意味があるのだろうかと深く考え込むようになった。


 確かに最初の頃は、スリルがあった。だが、慣れてしまった今となっては、こんなことで将来がきまってしまうことに強い抵抗感が芽生えた。また、父やその周りの大人たちはこんなことを自慢し、そのために村で偉そうにできているのだと思うと、見下げたい気持ちになった。そして同級生に対しても、なぜ学校で練習ばかりして、実際に崖から飛び降りてみないかが疑問だった。彼らは、結局のところ、諦めているように感じた。自分の親が飛べなかったなら、自分も無理さ。別に、わざわざ危険を冒さなくても、この村にいればそこそこの暮らしはできるのだから、それでいいじゃないかと思っているようだった。


「お前は、負け犬なんかになるんじゃない。」

 食事の終わりに父は言った。


 僕も負け犬にはなりたくなかった。だけど、父のようにもなりたくなかった。

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