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家族ごっこ  作者: 悦司ぎぐ
第6章 再度笑む
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二十二話 再会の男




 真面目な女だと感じる場面は、度々あった。だからこそ、終電二時間前の解散も想定内だったし、今回は余計な駆け引きも、控えておいた。


「サキのことは、私もそれとなく探っておくから。」


 別れ際の協力宣言は、期待していいと思う。お陰で少なからず肩の荷もおりた。



 彼女を地下鉄まで見送り、軽くなった足取りで、一つ先の駅まで歩くことにした。これは気分転換に見せかけた回避、もしくは処世術だ。


 帰宅としては、今じゃ中途半端に晩い。まだ佐喜彦が寝ていないと仮定すると、帰宅後また一悶着起こる可能性が高い。

 それなら奴が寝静まる頃に忍び込み、明日の休日はあいつより早く起床し、あいつの好きな物でも昼食に拵えといてやるほうが、色々と面倒が無い気がした。



 おかしな話だ。

 ほんの数週間前までは、有り難味さえ感じるほどの同居人(あいて)だったのに、どうして突然悩みの種になってしまったのだろう。


 遡れば、半年前は生意気なクソガキだった。図体ばかりでかくて、口ばっかり達者で、外面(そとづら)だけは良くて。でも、害は無かった。

 というより、あまりにも生活に溶け込みすぎて、俺のなかにいとも簡単に沁み込みすぎて、ちょっとずつ生じていた変化みたいなものを、見逃していたのかもしれない。



 今のが、あの子本来の素顔。



 武本りさの言うとおり、俺たちは俺たちが思っている以上に、馴染んでしまったのだろうか。

 それに見合う距離が現状では遠すぎるくらいに。今この瞬間も、俺が気付いていないだけで、変わりつつあるのだろうか。


 柄にもなく考え込むもんじゃない。悩みや杞憂ってのは、余計な面倒さえ引き寄せてしまう。

 そんなの幾度となく経験してきたはずなのに、またやってしまった。



「……いらっしゃいませー。」



 面倒な事は、面倒な時期に押し寄せる。だからって出来すぎだろ、これは。



 立ち寄ったコンビニで無愛想に迎えてくれた店員は、見覚えのある『人形』だった。

 人工的な顔立ちに、石膏みたいな肌。無気力で淡々とした口調。醸し出す独特な雰囲気。


 出来すぎたタイミングで、伊織は俺の前に現れた。



「………………いや、何か言えよ、」


 入店直後、明らかに視線は合っていた。合っていたどころか、不自然な間さえ挟んだというのに、伊織は録音再生みたいな「いらっしゃいませ」を発したあと、何事もなかったかのように俺を視界から排除した。


「……勤務中だし。」

「他に客いねーじゃん、」

「でも勤務中だし。」

「じゃあ俺客なんだけど? 愛想良くしてくんない?」

「イラッシャイマセー。」


 ふと視線を落とすと、ユニフォーム右胸の名札には『八重』と記されている。


八重(やえ)っていうんだ、苗字。」

「気安く呼ばないでよ。通報するよ。」


 相変わらず刺々しい。

 佐喜彦には申し訳ないが、同性の壁を抜きにしても、こいつに必死になれる要素が見当たらない。

 「伊織くんは」「伊織くんなら」……くだんのフレーズに登場する伊織という男は、本当に今目の前にいる男と同一人物なんだろうか。


「おまえさ、佐喜彦の髪拭いたり、爪切ってやったりしてた?」

 はあ? 率直な質問に想像どおりの反応が返ってきた。



「だったら?」



 してたんだな、この反応は。

 開き直るように不機嫌になる伊織は非常に判り易かったが、色々と拗れるのも面倒なので突っ込まないことにした。


「比べられんだよ、いろいろ。伊織くんはー、伊織くんはーの一点張り。」

「だから気安く呼ばないでよ、おっさん。」

「説明してるだけだろーが。」


 自分以外の客が居ないのをいいことに、俺はレジ前に居座った。明らかに煙たがっている伊織を無視して、井戸端会議に引き込もうと話続けた。こんな機会、そうそう逃すわけにはいかない。


「別に比べるだけなら構わないんだけど、なんか聞き分けなくってさ、最近。」

「うんざりしてんの? それ、」


 苦労の甲斐あって、質問させ返すまでに漕ぎ付けた。


「そこまでじゃねーけど、ま、頭痛の種にはなっているな、」

「じゃあ捨てちゃえば?」



 は?

 予想外の解決策に、俺は眉をひそめた。



「いやいや待て。「もう少し面倒みてくれ」っておまえが言ったんだろ。」

 思わずあの日の夜のことを持ち出す。

「だから「もう少し」って言ったじゃん。もういいよ、充分。」


 呆然とする俺の背後に視線を走らせた伊織は、「続き、外じゃだめ?」と提案しながら時計を指した。


「あと十五分で上がりだから。アイス買ってくれんなら、付き合ってあげる。」



 横柄な態度をなぜ却下しなかったのか。俺は言われるがままに、冷凍庫を物色し始めた。


「ハーゲンダッツだからね、イチゴ味。」

 後ろから淡々とした注文が入る。

 俺はやけくそに、ハーゲンダッツとビール二缶を、生意気な店員のもとへ運んだ。

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